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田舎暮らしの本 7月号

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田舎暮らしの本 7月号

6月3日(月)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

高橋克実さんインタビュー「両親は亡くなり家もないですけど、でもやっぱり生まれ育ったところで自分は形成されていますよね」

掲載:2022年11月号

実力派俳優としてテレビドラマに舞台に活躍。人懐っこい笑顔と、情報番組のMCもそつなくこなすトーク力も。高橋克実さん初めての主演映画『向田理髪店』が公開されます。親から継いだ理髪店を営む主人公を軸に、地方の小さな町で生きる人びとが直面するあれこれ。そんな映画のこと、ご自身の故郷である新潟県三条市(さんじょうし)について、高橋さんに聞きました。

たかはし・かつみ●1961年生まれ、新潟県出身。1998年開始のドラマ『ショムニ』シリーズでブレイク。2008年『フルスイング』、2019 年『デジタル・タトゥー』(ともにNHK総合)で主演を務めた。舞台出演も多数。『トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~』『直撃LI VE グッディ!』(ともにフジテレビ系)ではMCも担当。

 

〝田舎あるある〞なエピソードが続出

 「え!?っでしたね、ビックリしました。僕が映画の主役ですか?って、もうハテナで。バラエティで『へぇ〜』とかやっていましたが、自分はもともと映画が大好きでそこが原点。映画には特別な思いがありましたから」

 映画初主演作『向田理髪店』のオファーが来たときを、高橋克実さんはそう振り返る。自身がMCを務めたバラエティ番組を引き合いに出しつつ、本当に驚いた!みたいな顔で。

 森岡利行監督とは若き日に同じ劇団に所属していて、一緒に仕事をするのは約30年ぶり。監督と俳優として組むのは初めてだった。

 「でも、もう還暦ですからね。20代30代で(握りこぶしを構えて)主演ですっ!みたいなこととはだいぶ違います。コロナ禍で、無事に撮り切れるようにとか、自分が周りに迷惑をかけないように、とずっと気を張っていました。それに主演ということは、毎日あるんですよね、撮影が! 連日近くの大型スーパーで弁当を買って帰って、宿でまたセリフを覚えてを繰り返す、そんな2週間でした」

 高橋さんが演じるのは、寂れた元炭鉱町「筑沢町」で、親から継いだ理髪店を営む向田康彦。上京していた息子が突然に帰郷、「店を継ぐ」と言い出すことで物語が動き出す。しかも町起こしにも意欲を見せ、康彦はうれしいやら戸惑うやら。撮影は主に福岡県大牟田市(おおむたし)で行われた。

 「僕自身、大牟田よりちょっと大きいくらいの新潟県三条市出身。似たような状況だと思うんです。自分が子どものころに見ていた町とは違い、商店街もシャッターの下りた店が多くなって。でも先日行ったときは若者向けのおしゃれな店が増えたりして、少しずつ町が変わっていました。この映画は、そんなスタート段階みたいなお話でもあります。町起こしを進めようとする青年団の若者が親世代ともめたり、どこの田舎にもこういうことってあるんだろうなと感じました」

 過疎化、少子高齢化、農家の嫁不足と〝田舎あるある〞なエピソードが続出。そこに世界遺産の宮原抗など、名所旧跡と呼べそうな風景がさりげなく織り込まれる。ありふれていながらどこか趣のある街並みが、物語に溶け込む。

 「履物と傘を売る履物屋さんって田舎の商店街には必ずありましたよね。以前はたくさんの人が歩いていたはずの商店街にほとんど人がいなくなって、それだけでちょっと寂しい感じがしたり。日本人なら誰もがぐっとくる街並みで、自分の故郷でもないのにどこか懐かしいんです」

 康彦の妻、恭子を演じるのは富田靖子さん。旦那さんといるのがうれしい!みたいな、年齢を超えたかわいらしさ。

 「奥さんが素晴らしかったですよね、主演は富田さんと言ってもいいでしょう(笑)。2人で商店街を歩くシーンが好きなんです。昔のCMに出てきそうな画でしたよね」

 大牟田ロケでは現地の人たちの協力も大きかった。

 「商工会議所の方は若い人が多く、全面協力してくださいました。例えば康彦が着るジャージですが、最初に用意されていたのはNBAの選手が着るような格好いい上下でした。でも、イメージは〝完全に子どものおさがりですよね?〞みたいなつんつるてんの、胸に名札が付いたようなやつ」

 監督も「そうそう」とうなずくイメージ通りのジャージを、商工会のメンバーは即座に集めてくれたそう。

 「7セットくらい、30分もかからずに揃えてくださったんですよ。まるで魔法みたい。〝克実さん、集めてきました〞って、本当に緑のジャージで名札が付いてるやつと、付いてないやつ、上下が揃ってないやつ。よ〜く見ると、僕は2種類くらい着てます(笑)。靖子さんも着てたかな」

 息子のおさがりを分け合って着る、仲のよい夫婦のサイドストーリーまで見えるよう。

 また映画は、劇中でも町で映画撮影が行われるという二重構造。完成作の試写会のシーンにも、地元の方がエキストラとして多数参加した。

 「撮影に時間がかかって、でもお子さんもいるから夜8時を越えちゃダメだったんですが、皆さん協力的で助かりました。また集まってくださる皆さんが心地いいんですよね。だけどキレイな女優さんならまだしも、『あの〝へぇ〜〞の人な。でも、あの人のために集まったわけじゃないよ?』って思われてたかも(笑)。息子役の白洲迅君らがいたからよかったですけど」

康彦の同級生にも個性的なメンツが揃った。「板尾(創路)さんとは初めてご一緒しましたが、昔から友達だったような気になりました。“1人だけ関西弁”という設定で。それありなの?と思ったら、あとでそのエピソードが効いてくるんです」。

 

故郷を飛び出し東京へ。親に寂しい思いをさせて

 そんな高橋さん、今年から故郷である三条市のPRアンバサダーを務めている。

 「若いころは田舎が嫌で、高校を卒業して東京に出ました。それがこの年になって、〝アンバサダー〞を喜んでお引き受けして……。両親は亡くなり家もないですけど、でもやっぱり生まれ育ったところで自分は形成されていますよね。自分のベースはここなんだということからは逃れられないというか、より意識するようになりました」

 三条市はアウトドアブランド「スノーピーク」の本拠地で、隅研吾さん設計のリゾート施設がある。また高橋さんが卒業した小学校が廃校となり、そこに同じ隅研吾さん設計の図書館などの複合施設が完成。「県外から人がたくさん来るようになった」と高橋さん。

 「もともと金物の町なんですよ。それで僕が子どものころは、家は商店街に店を構える金物屋さんでした。卸売りもやっていて、父親が夜中までずっと荷造りしていた姿を覚えています」

 高橋さん自身、まずは商業高校に行かせたい両親と「行く、行かない」の話に。

 「結局普通高に行きましたが、親父のなかでは、高校を出たら名古屋や大阪の大きな店にいわゆる 丁稚(でっち)奉公させてから店を継がせるという段取りだったみたいです。ところが高3の夏にいきなり、東京へ行きたい!と僕が言い出したんですね」

 東京の大学を受験すれば行かせてもらえるだろうという作戦だったらしい。でも「大学を受験する前から予備校を決めてましたから!」と笑い飛ばす。

 「東京の大学に行きたいからといって、東京の予備校に行く必要はないわけです。両親もどこかで、何を言ってんだ?と思っていたでしょうが、結局行かせてくれました」

 そのまま2浪。親には「就職する」と言いつつ、友達のアパートに転がり込む。映画好きの友人と映画館に通い詰め、そうこうするうち映画製作の現場と出合い、オーディションに行くようになって。この世界で働いてみたい気持ちが大きくなっていった。

 「そしたらもう勘当同然です。〝金を貸して〞とコレクトコールをかけても、電話交換手さんに〝先方が拒否されてます〞と毎回言われていました。周りの先輩たちは〝田舎に帰って結婚する〞と言って30歳前くらいで辞めるんですよ。僕の場合、タイミングを逸したんでしょうね」

 田舎に帰るに帰れない――。ところが劇団に入ってすぐの作品が、新人劇作家の登竜門である岸田國士戯曲賞を受賞する。

 「当時は演劇のことさえ詳しくは知らないのに芝居をやっていて、『それなんの賞?』って言っていたくらいの失礼なヤツでした。そこから小劇場ブームが来て、劇団以外のプロデュース公演にも呼んでいただけるようになって、いろいろな人とかかわるようになりました。そのなかで俳優の田山涼成さんと共演させていただき、田山さんも所属する今の事務所を紹介してくださったんです。人とのつながり、それのみでここまで来ています。それのみです!」

「人とのつながり、それのみでここまで来ています」

 

 家業の後継者問題、上京した息子と父親の確執、高橋さんの話のそこここが、この映画と重なるよう。しかも高橋さんには、まだ幼い2人の子どもがいる。

 「あの映画で疑似体験したみたいですね。長男はまだ小学生ですが、あと10年もしたらあんなことが起きるのかもしれないなと考えたりしていました。今はまだ〝お父さん今日どこ行くの?〞〝仕事だよ〞〝お父さん何時に帰ってくんの?〞お父さんお父さん……で。もう頼むからお父さんと呼ばないでくれ、今度朝から何回お父さんって呼ぶのか勘定しようと思っているくらいです」

 お父さんが大好きで、まとわりつくようにじゃれる息子さんの姿が浮かぶよう。

 「親父には悪いことをしたなとか、お袋とも18歳までしか一緒にいなかったんだなとか、思い出すと親にしたら寂しいことばかりしていましたよね。昔はそれこそ家業を継ぐことが重圧になって、そこにいろいろな葛藤のドラマがあったわけですが、今は、好きにやればいいじゃないかというのが世の中の流れですね」

 お子さんにも好きに生きてほしいですか?と尋ねると、食い気味に「思います思います」とうなずく。

 「やりたいことをやらせてあげたいですし、できることはすべて応援したいです。この映画の康彦もそうですが、親は家業を継いでくれるのが本当は一番うれしいんだと思います。自宅の一角がお店だったりする理髪店は特にそうかもしれませんね」

 お客さんがいるときと、店が終わってカーテンを閉めたときとで、お店の雰囲気がガラリと変わるのを覚えているという高橋さん。当時の働く父親の姿は記憶に残っているそう。

 「父親が働いている姿を見て、『格好いいなぁ、お父さん!』と子どもに思われるかどうかって、男親には重要ですよね。だから康彦も、息子が帰ってきて、家業を継ぐと言い出したときはどこかうれしさがあるんですよね……」

 いつの間にか、劇中の康彦の心情とシンクロしている。

 「撮影中は必死で、監督と話しながら〝なるほどこういう流れね〞〝康彦はこういう気持ちか〞と考えながら演じていました。それで作品が出来上がって観たときに、遠回りに思えるシーンもあるんだけど、観ているうちに心の琴線に触れる。それが全然押し付けがましくなく、す〜っと人の心に染み入ってくる。そんな映画なんです」

 

『向田理髪店』
●原作:奥田英朗『向田理髪店』(光文社文庫刊) ●脚本・監督:森岡利行 ●出演:高橋克実、白洲迅、板尾創路、近藤芳正、矢吹奈子(HKT48)、本宮泰風、筧美和子、根岸季衣/富田靖子ほか ●10月7日(金)より福岡・熊本先行公開、10月14日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

元炭鉱町「筑沢町」で、妻の恭子(富田靖子)と理髪店を営む向田康彦(高橋克実)。同級生でガソリンスタンドを営む瀬川(板尾創路)や、電気店を営む谷口(近藤芳正)と寂れていく町を愚痴る日々。ある日、息子の和昌(白洲迅)が東京から突然に帰郷、「会社を辞めて店を継ぐ」と言い出す。
©2022映画「向田理髪店」製作委員会 https://mukouda.com/

 

文/浅見祥子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ)
スタイリスト/中川原 寛(CaNN) ヘアメイク/国府田雅子(b.sun)

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