バリ島から美郷町へ移住した田中さんは、夫婦ともに地域おこし協力隊として着任。豊かな自然のなかで4人の子どもを育てている。二人三脚で特産品開発をしている夫妻に、協力隊の心構えや魅力的な商品開発について教えてもらった。
掲載:2022年11月号
ハーブ栽培や山菜採りなど、地域の人たちがサポート
約20年居住したインドネシア・バリ島マス村から島根県美郷町へ、4人の子どもと移住した田中利典(としふみ)さん(43歳)・紗江(さえ)さん(42歳)夫妻。
「現地ではバリ島土産の会社を営んでいましたが、学校のことがあり、妻と子どもたちは帰国。僕だけ離れていたので、子どもの成長を近くで見守りたい気持ちが強まり、日本に帰ることを考えるようになりました」と利典さんは振り返る。
仮住まいをしていた大阪では、子どもたちがのびのび遊ぶことができず、田舎暮らしを視野に入れた2人。利典さんの両親の出身地が島根県だったことから島根県の移住情報に触れる機会があり、たまたまインターネットで長年住んできたマス村と美郷町が30年来の友好都市だと知った。
「不思議な縁もあるなと、本当に驚きました。見学に訪れたら、子どもたちに『住むなら美郷町』と言われて即決。自然豊かで、人が温かくて、どこかバリ島と同じ空気感を感じ取っていたのかも」(利典さん)
夫婦揃って地域おこし協力隊になることが決まり、家も見つかり、2020年夏、一家で美郷町へ移住した。
協力隊としての仕事は、地域の魅力を活かした特産品づくり。思いついたのが、インドネシア伝統の辛味調味料サンバルだった。美郷町は江戸時代から薬草採集が盛んで、薬草が好きな紗江さんは町の薬草研究会にも所属している。紗江さんが自家用につくったときは、バリ島のセロリに似た風味のトウキと、赤タマネギの代わりとなるノビルを使用したという。さらに「商品化するなら、ほかの食材も美郷町のものを」と、近所の人にハーブ栽培を手伝ってもらい、ほぼ町内の食材でまかなった「Misato Sambal(みさとサンバル)」が完成した。
現在、紗江さんが商品開発や試作を、利典さんはロゴやパッケージのデザインと情報発信をと、お互いが得意なところを担当し二人三脚で仕事を進めている。そんな2人をサポートしてくれるのが、地域のシニアたち。
「ハーブの栽培や山菜採り、下処理など、皆さんが手伝ってくださり、本当にありがたいです」と紗江さんは話す。
町内の小・中学校へ通う子どもたちは、家の周辺を自由に走り回り田舎暮らしを満喫。近所に店舗がなくとも週末の買い物を家族のイベントとして楽しみ、不便ささえも日常を彩るスパイスに変えている。
「家族6人なら、少々大変でも乗り越えられるし、喜びは大きくなります」と紗江さんは笑う。
「将来的には、マス村の人を招いてサンバルのレシピを教えてもらう料理教室の開催や、美郷町の人をマス村に案内するツアーなど、生の交流ができるようにしたいですね」
美郷町とバリ島のかけ橋となることを目指して、2人の活動は今後も続く。
田中さん夫妻にお聞きしました「地域おこし協力隊Q&A」
Q収入面での不安は?
自営業でも不安はあるのでそこは同じ。兼業可能なので移住前の仕事をリモートで行っている人もいますよ。
Q協力隊の任期の短さは気になりませんでしたか?
任期終了後に日本で起業を考えていたので3年がちょうどよいと思いました。
Q赴任地選びで失敗しないためにアドバイスをください。
リスペクトできる土地を選ぶこと。合わないと思えば配置換えの希望も出せるので、まずは流れに身を任せて。
Q地域おこし協力隊でやっていくコツは?
自分が町を変える!と意気込んでいると空回りしがち。町を盛り上げたいと頑張っている地元の人側の立場で、地域に貢献したい気持ちを持って活動することが大切です。
文/佐藤明日香 写真/萱野雄一
美郷町移住支援情報
移住や就職で定住ポイントがもらえ、町内協賛店で利用できる
転入、就職、誕生、結婚といったライフイベントに応じて定住ポイントがもらえ、1ポイント1円として町内協賛店で使用できる(40歳以下の転入で10万ポイント、町内就職で20万ポイント、新築住宅建設で最大250万ポイント)。第一子から給食費を含む保育料が無料、放課後児童クラブが無料など、子育て環境も充実。また現在、4名の地域おこし協力隊を募集中で、任期終了前後1年以内に起業をした場合、起業支援補助金(上限200万円)も支給。
問い合わせ:美郷町美郷暮らし推進課 ☎0855-75-1212
https://www.town.shimane-misato.lg.jp/teiju/
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