島根県雲南市(うんなんし)は、悠久の歴史や特有の文化が息づく出雲神話の里。古代史探訪や神社めぐりを共通の趣味とする夫妻にとって、第二の人生へ踏み出す舞台として理想的だった。

移住のきっかけになった三屋神社にお詣りする俣野(またの)さん夫妻。オオクニヌシノミコトによる国土経営の端緒になった場所ともいわれる。

雲南地方最大級の松本古墳群。松本1号墳は古墳時代初期の前方後方墳として注目される。

松江市と出雲市の南に隣接し、神話の舞台や遺跡・古墳が多い雲南市。ヤマタノオロチ伝説で名高い斐伊川(ひいかわ)は日本さくら名所100選認定の桜並木でもおなじみ。羽田空港から約1時間20分の出雲空港より車で約20分。
趣味に導かれて移住し、趣味を生かして開業
かつて雲南三郡の商業の中心地として栄えた面影を残す、雲南市三刀屋町(みとやちょう)。その一角で2021年3月「横町(よこまち)カフェうん」を開いたのが、俣野彰一(またのしょういち)さん(67歳)・由紀(ゆき)さん(62歳)夫妻。以前は千葉県内のマンションで暮らし、彰一さんはグラフィックデザイナー、由紀さんは大手外食企業の社員として働いていたが、第二の人生の舞台を求めて17年6月に移住した。
「2人とも古代史好きで神社めぐりが趣味なので、移住先は神話のふるさとの島根県にしようと意見が一致。そのなかで『日本初之宮(にほんはつのみや)』と呼ばれる須我(すが)神社があり、神話や伝承が多い雲南市に興味を持ちました」
と、由紀さん。2人は車を持っていないため、自転車で生活できる場所で物件を探し、選んだのが今の町家だ。近くの三屋(みとや)神社は『出雲国風土記』に記され、由緒ある三刀屋という地名に強くひかれた。母屋+離れで350万円。まずは賃貸にしてもらって土地になじめるかを見極め、半年後に購入。当初からカフェを開こうと計画していた。

自宅を兼ねたカフェ「横町Caf éうん」。http://blog.livedoor.jp/yokomachicafe_unn/

以前のマンション生活では飼えなかったネコのIZUMOを迎え、念願のカフェもオープン。

写真はチョコレートチーズケーキ(330円)。こだわりの自家製ブレンドコーヒー(330円)とも好相性。

❶購入時の和室 奥に深く居室が並ぶウナギの寝床のような町家。

❷居間にアレンジ 押し入れや床の間は残し、奥の床はタイルカーペットにして、手前はラグを敷いてアレンジ。

❸お店に変身! 垂れ壁と土間の撤去で空間を拡張。OSB合板で内装を一新して書棚を設け、トイレを新設した。
「夫は昔からコーヒーを愛飲し、お菓子づくりが趣味で、私は外食産業の経験がありましたから。ただ、いきなりお店を開いても地域に根付けないので、まずは地元で働いて仲間や交流の輪を広げてきました」
ようやく開いたカフェは、彰一さんが厨房で腕を振るい、接客やコスト管理など経営面は由紀さんが担当。今は土曜・日曜・祝日のみの営業だが、徐々に日数を増やしていく予定だ。
併せて趣味の神社めぐりも。
「市内を中心に90カ所ほどは訪れました。実際に足を運ぶと、写真や資料ではわからない空気が感じられます」
と、彰一さん。地域での交流などを通して土地の歴史に思いをはせつつ、心穏やかに過ごせることが夫妻の一番の喜びだ。

店内にはアート系や古代史関係の本、絵本などが置かれ、気軽に手に取ってくつろげる。

店内のアート作品は彰一さんが長年趣味で創作してきたもの。なかでもアメリカ民話が題材という『月読(つくよみ)』は一番人気。

2階の和室が彰一さんのアトリエ。移住後は大きな作品づくりをのびのびとできるようになった。各種コンクールでの入選・入賞実績も豊富。

かつて在郷町として栄え、多くの商家が軒を連ねた三刀屋町。このまちに活気を取り戻すことが由紀さんの夢。
担当者イチオシ!雲南市で楽しめる趣味&スポット
神話にちなむ名所が豊富
「出雲空港へ車で約20分とアクセスに恵まれながら、季節感あふれる環境が雲南市の魅力です」と、定住企画員の金築莉那さん。ヤマタノオロチ退治後のスサノオノミコトがクシナダヒメとの新居としてつくったことに始まる“日本初之宮”須我神社のほか、豊かな自然と神話にちなんだ史跡や名所が共存する。

「須我神社はスサノオノミコトが歌を詠んだ和歌発祥の社でもあります」と、うんなん暮らし推進課の定住企画員、金築莉那(かねつきりな)さん、古谷雄平(ふるたにゆうへい)さん。

出雲湯村温泉は『出雲国風土記』の時代から約1300年の歴史を誇る。写 真は国民宿舎清嵐荘(せいらんそう)の露天風呂。

自社農園のブドウで醸すワインの評価が高い奥出雲葡萄園。 https://okuizumo.com
雲南市移住支援情報
オーダーメイドの移住体験
「雲南つながる体験プログラム」は、オーダーメイドで行う1泊2日のプチ田舎体験プラン。住まい探しや仕事探し、子育て環境の下見など、移住希望者の希望に応じて滞在中のスケジュールを組む。現地までの交通費と食費は別途必要だが、参加費は無料。現地を訪れることが難しい場合、オンラインツールを活用した移住相談&田舎体験にも対応する。
問い合わせ先:うんなん暮らし推進課 ☎0854-40-1014 https://www.hokkori-unnan.jp

体験プログラムは農業体験をはじめ、先輩移住者訪問や空き家見学などリクエストに応じてプランを組む。

「子育て環境を重視する方や地域課題に挑戦したい方はぜひ雲南市へ!」と、うんなん暮らし推進課 定住企画員の金築莉那さんと古谷雄平さん。
文・写真/笹木博幸
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