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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

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「山村留学」で見出す「子どもの可能性」! 自然豊かな農山村で暮らし、地域の学校に通う【長野県大町市】

日本で初めて山村留学を確立させた長野県大町市の「八坂美麻(やさかみあさ)学園」。留学体験者数は延べ2200人。留学体験者のなかには日本や海外で活躍するケースも。そんな山村留学を確立する経緯や魅力を知るべく、学園にお邪魔した。

掲載:2022年11月号

長野県大町市八坂地区
八坂美麻学園がある八坂地区は、大町市の東山麓にある地域で、信濃大町駅より車で約15分。山間に棚田が広がり、民家が並ぶ集落がある。「山村留学発祥の地」として、今でも家庭・地域・学校の連携が保たれた子育てが行われている。

 

日本で初めて山村留学を確立した「育てる会」

 農山漁村に移り住み、地元の小中学校に通いながらさまざまな体験を積む山村留学。現在においては自治体主導で行われることもあり、人口増加の一助となっているケースも見受けられる。自然に触れる機会が激減したコロナ禍では、さらに関心が高まっているようだ。そんな山村留学を日本で初めて制度化させたのが、長野県大町市にある「八坂美麻学園」を運営する公益財団法人「育てる会」である。

 「育てる会」は、高度経済成長のなかで、子どもたちを取り巻く環境が劣悪化することに危機感を抱いた教員らが立ち上げた団体。1968年より春夏冬休みを利用した自然体験キャンプを実施しており、農家ホームステイを取り入れるなど当時としては画期的な内容だった。そうした活動をするなかで、「キャンプから帰ってきた子どもの目の輝きが違う」と感じた保護者から「1年間育てる会に子どもを預けて、自然豊かな環境でいろんな活動をさせてあげられないか」と相談を受けた。これが山村留学を始めることへとつながっていった。

 そして1976年、長野県八坂村(現・大町市八坂)で日本初となる1年間の山村留学が始まった。

公益財団法人 育てる会「 八坂美麻学園」
1968年、教員や父母、教育関係者により任意団体として発足した「育てる会」。以来、自然・生活体験活動の場を提供してきた。1976年に日本初となる山村留学を開始。拠点となる山村留学センターは八坂地区と美麻地区の境界近くに位置する。
<山村留学センター(やまなみ山荘)>
住所/長野県大町市八坂8594-ロ ☎︎0261-26-2306
<東京本部>住所/東京都武蔵野市中町1-6-7 5F ☎0422-56-0151
http://www.sodateru.or.jp/

 

センター指導員と地域が子どもたちを見守る

 「八坂美麻学園」の山村留学は1年単位だが、子どもを長期間他人に預けるということは、本人にとっても、親にとってもかなりの覚悟が必要。どのような場所で、どのような人と子どもたちは過ごすのだろうか?

 拠点となる山村留学センターは、八坂地区と美麻地区の境界近く、標高1000mほどの場所にある。山村留学生は月の半分(年間約170日)をそこで過ごし、残り半分(年間約140日)をホームステイ先で過ごす。そして子どもたちはセンターおよびホームステイ先から地域の公立の小中学校に通学することとなる。これら3つを拠点に活動する「学園方式」を採用していることが大きな特徴だ。

 山村留学中の子どもたちを見守るのが、センターに常駐する指導員。子どもたちが自ら考え、行動できるよう、常に後ろに立って見守り、ときには助言するという立場でもある。その1人で、学園現地で統括主任をしている赤坂隆宏さんは育てる会の職員となり20年になる。東京の大学で教育学を学び、教員免許も取得しているが、「子どもたちに自然体験の場を提供したい」と、山村留学の指導員となった。ほかにも、さまざまな価値観を持った常駐指導員が6名いるというから心強い。

 もう一方で子どもたちを見守るのがホームステイ先の家族。

 「ホームステイ先の多くは専業ではなくても農業に携わっているので、〝農家さん〞と呼んでいるのですが、自分の子と同じように接していただくようお願いしています。センターで過ごす時間も楽しいのですが、子どもたちにとって農家さんで過ごす穏やかな時間も心地よく、月の半分を過ごす生活がちょうどいいようです」とは「育てる会」事業部長の秋山雅光さん。

 子どもの保護者も学園と連携し、農家訪問や学校訪問、収穫祭などで2カ月に1回は現地を訪れる機会があるので安心だ。

「育てる会」では四季折々の自然体験キャンプを開催。夏休み・冬休み・春休みに開催される自然体験キャンプをはじめ、週末ミニ山村留学もある。※コロナウイルス感染症拡大状況により中止の場合あり。

留学生たちは地域の棚田で農作業を行う。昔ながらの手作業で、収穫の喜びを体感できる。

月の半分は地域の農家でホームステイをすることになり、4月に農家対面式が行われる。

 

スマホやテレビがないセンターで協調性を育む

  センターでは男女別の大部屋で小中学生が共同生活を送り、班に分かれて掃除や係の活動をしながら、規則正しい共同生活を送る。起床から就寝までは、食堂などの共同スペースで過ごし、テレビやスマートフォン、マンガを持たない生活を送る。「自分のことは自分で」が基本で、自由時間の合間を見て洗濯などは自分でこなす。その間も指導員は常駐しており、会話に加わったり、宿題を見たりと、常に子どもたちを見守る。

 「入園当初は緊張していた子どもたちも、1カ月もすれば生活に慣れてきます。時々ケンカもしますが、そのなかで協調性を育んでいきます」(秋山さん)

 食事の調理に関しては専任の職員が担当。取材時の朝食は白米、野菜たっぷりの味噌汁、魚、海藻や野菜を使った総菜、果物など。夕食はハンバーグや野菜サラダ、総菜などで、栄養バランスがしっかりと整った内容。

 「3食きちんと食べ、しっかりと動くということが、人間にとって大切な精神を築いていくことにつながります。通学で1時間ほどかけて歩くのもその一環で、足腰が強くなるだけでなく、身近な自然への発見も生まれます」(赤坂さん)

6時15分ごろから山村留学センター前でラジオ体操をするのが毎朝の日課。

ラジオ体操終了後は指導員から「自然の話」を聞く。この日は毒性があって注意すべき植物、ヨウシュヤマゴボウについて。山暮らしや登下校時に必要な知識とあって、子どもたちは話に耳を傾けていた。

朝7時ごろにセンターを出発。子どもたちは八坂、美麻、それぞれの学校に分かれて集団登校する。取材した八坂小学校の場合、片道3.8kmほどの距離で約1時間もかかるが、季節の植物に触れるなど自分たちだけの道草をして楽しむ。修園後も思い出に残る、特別な時間。

 

少人数の学校できめ細かな教育を

 自然に触れ、協調性を育む山村留学。子どもたちにメリットはたくさんあるが、「進学塾に通えないし、都会の子に勉強で遅れをとるのでは?」と懸念する保護者もいるかもしれない。しかし、子どもたちの生活を見ると印象が変わる。

 「体験学習、係の仕事などで学園生活はとても忙しい。時間に制約があるなかで、メリハリのある生活が身につき、集中力がつく子が多いですね」(秋山さん)

 また、地域の小中学校は1クラス10名ほどのアットホームな雰囲気。教師の目が児童・生徒によく行き届き、きめ細かな指導が行われている。休憩時間には体育館でボール投げを楽しむ子もいれば、廊下で鼓笛の復習をする子もいる。小学生にして法律や漢詩の児童書を読む子もいた。少人数ゆえ、子どもたちが他者に流されず、マイペースに過ごす姿が印象的だった。

1986年に開校した大町市立八坂小学校。今年度の生徒数は47名で、うち11名が山村留学生。木を多用した校舎は中庭を囲むような造りで、プール、プラネタリウムなども備える。

八坂小学校では4・5年生合同で鼓笛の練習が行われていた。楽器が苦手な子どもには、先生がマンツーマンで教える姿も。

八坂小学校の1クラスの人数は3~10名。少人数を生かして個に応じた指導を行う。パソコンや電子黒板を使用したICT教育が全校児童に導入されているのも特徴。

 

 山村留学の期間は最短で1年。長くて7年過ごす子どももいるという。「八坂美麻学園」に在籍した子どもたちは、どのように成長していくのだろうか?

 「目に見えてわかるのが、子どもたちの目の輝きですが、山村留学は短期的な効果を求めるものではないと考えています。今しかできない体験をすることで、自分が夢中になるべきものに気づき、大人になって自分が何をすべきかということが見えてくるように感じています」

 指導員の赤坂さんが語る通り、「八坂で過ごしたことで、古典の季語がすごくわかるようになった」「吹奏楽でベートーベンの『田園』を演奏するとき、八坂の風景を思い出している」「部活帰りの満天の星が忘れられない」など、修園生からの声を聞くことも。なかには、自分の家族を築き、子どもを連れて体験に来る修園生がいるというのも喜ばしい。

 山村留学を通し、自然や暮らしのなかで学んだことが、子どもたちの人生を豊かにしているようだ。

帰宅後はまず宿題に取り組む。指導員が面倒を見るだけでなく、学年を超えて子どもたちが教え合う姿も。

センターでの食事は、専任の職員が担当。地元の食材を取り入れた献立は、朝食・夕食ともバランスがよい。

配膳などは留学生が行い、作法にも気をつけながら食事を味わう。※コロナ禍は感染症対策のため、前向きで食事している。

学校から帰宅して就寝するまでは、センターの共用スペースで過ごす。テレビ、スマートフォン、マンガのない生活だが、仲間たちと工夫しながら楽しく過ごしている。

「自分のことは自分でする」がセンターでの決まり。洗濯も自分でこなす。

 

2023年度の児童・生徒を募集中
山村留学 八坂美麻学園

【募集要項】
2023年度学園開設期間/2023年4月1日~2024年3月31日

対象となる児童・生徒/新年度小学3年生~中学2年生(諸条件あり)

募集人員/八坂学園:小学生10名程度、中学生10名程度 美麻学園:小学生7名程度、中学生7名程度
※出願には体験留学(別途費用)、親子面接会(3000円)などが必須

学園に要する費用/●入園金:11万円 ●施設教材費:13万2000円 ●保証金:小学生8万6900円、中学生9万5700円 月謝:小学生8万6900円、中学生9万5700円
※金額はすべて税込、保証金は修園後返金されます
※学校給食費、学用品など個人消費にかかる費用が別途必要

ご不明な点は、育てる会東京本部 ☎0422-56-0151までお問い合わせください

【山村留学を行う際のアドバイス】
子どもに変化を求め過ぎないこと

「山村留学をすることで、即時的な目に見える効果が表れるというものではなく、この活動は子どもたちの長い人生においてさまざまな芽を出すための土壌づくりという長期的視野が必要です。そういった学園の趣旨をまず保護者が理解すること、そしてお子さま本人が山村留学を希望していることが大切なのです。事前の体験留学をしたら、お子さまとよく話してください。また、親子面接会では、私たちがお子さまだけと話をして意思や決意の確認をする機会も設けさせていただいています」

八坂美麻学園統括主任 赤坂隆宏さん

 

大町市移住支援情報
オンライン移住相談、イベントなど最新情報はWEBでチェック!

 移住セミナーをはじめとするイベント情報や、大町市の住宅、就職などの最新情報は「大町市移住情報総合サイト」に掲載。大町市を訪れる前に知りたいことが聞けるオンライン移住相談を実施しているほか、YouTube(チャンネル名:長野県大町市定住促進係)でも情報を配信。こまめにチェックして、気になることは気軽に問い合わせよう。

問い合わせ/大町市定住促進係 ☎0261-21-1210 https://iju-omachi.jp/

北アルプスがそびえる山岳都市。アウトドアを満喫している移住者も多い。

大町市内での暮らし体験や仕事探し、住まい探しの移住準備に利用できる「お試し暮らし体験施設」として、滞在型市民農園(クラインガルテン)が利用できる。1泊3000円~。

 

【大町市の子育て支援】
自然を身近に感じられ、広々とした公園が多い大町市。子育てサポート施設や支援制度も充実している。

  • 子育て世代包括支援センター「あおぞら」の開設
  • 育児支援ヘルパー派遣事業
  • 出産祝金
  • 児童手当
  • 子ども医療費助成
  • 木のぬくもりプレゼント事業
  • 入学お祝い事業 など

問い合わせ/大町市子育て支援課  ☎0261-22-0420

 

文/横澤寛子 写真/阪口 克 写真提供/八坂美麻学園、長野県大町市

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