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田舎暮らしの本 1月号

12月2日(金)
850円(税込)

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小学校から高校まで給食を無償化! 十勝の食材を生かした参加型の食育で人とつながり、食の大切さを学ぶ【北海道足寄町】

全国の学校給食の質や献立についてたびたび話題になる昨今。酪農と畑作が盛んな足寄町(あしょろちょう)では町内産や北海道産の食材をふんだんに使った大人もうらやましくなるような給食や授業を取り入れ、食育に力を入れている。この地域独特の〝ラワンブキ〞を使った野外授業と給食の時間にお邪魔した。

掲載:2022年9月号

北海道足寄町
北海道の中心にそびえる大雪山系の南東に広がる十勝平野。その北東に位置し、山間部の自然に囲まれた町。面積約1400㎢は町としては日本一の広さ。人口約7000人。天候や時間で色が変わる神秘的な湖・オンネトーや温泉、家族で楽しめる大規模な公園がある。放牧酪農が盛んで質の高いチーズも有名。帯広空港からバスで約2時間45分。車の場合は道東自動車道足寄ICを利用して約1時間20分。

 

足寄町でしか穫れないラワンブキの生産現場へ

 食料自給率が2021年に1339%となった〝食の王国〞十勝。日本全体がわずか37%という事実を考えると、平均値を押し上げ日本の食卓を支える食料基地といえる。その一翼を担う足寄町には螺湾川(らわんがわ)沿いを中心に巨大なフキが生育し、〝ラワンブキ〞と呼ばれる食材として古くから生かされてきた。

 特産品となっているそのフキを畑で生産し、小学生に向けた授業を毎年行っているのが鳥羽(とば)農場。2年生の生活科で青空授業を開催する日、農場を訪ねると、2台のバスから37人の子どもたちが続々と降りてきた。

 「おはようございまーす!」と元気いっぱいな挨拶の声が響く。

 「このちっちゃい苗、なんだかわかりますか〜? この苗が大きなフキに成長します」

 小さなポット苗を代わる代わる手に取り、子どもたちは興味津々。手づくりのイラストを見せながら十勝の農産物とフキの成長について優しい言葉で説明する鳥羽昇子(とばしょうこ)さんは、2002年からこの授業を行っている。

 「本州にも生えているアキタブキの一種とされていますが、ラワンブキの大きさは2メートル以上。自生でそこまで大きく育つのは道内でもなぜか足寄町の螺湾地区だけです。螺湾川の水のミネラルが関係しているんじゃないかという説もあります。洪水などで数が減り、今は天然物はほとんどありません」

 鳥羽さんがそう教えてくれた。足寄町だけで穫れる貴重な食材を子どもたちに伝えて20年、社会人になって地元を離れた子から「ラワンブキを送って」と連絡があることも。故郷の食を思い出してくれることが何よりうれしいそうだ。

約3haの畑でラワンブキを生産し30年以上になる鳥羽農場。小麦や長芋、タマネギをつくるなか、自生数を減らしていたラワンブキもつくることになった。

子どもたちにわかりやすく説明するために自ら絵を描いてつくったイラストブックで授業を進める鳥羽さん。

農場の片隅にある作業小屋の中で真剣に授業を受ける子どもたち。鳥羽さんが質問すると途端に「はーい!」とたくさんの子が手を挙げる。

タネから育てた小さな苗を手に取り、大事そうに観察する。収穫できるようになるまで3年かかるそうだ。その後は地下茎で増え、古い畑では約30年穫れ続けているという。

 

絵本のようなフキに触れ穫れたてを給食に

 授業は場所を変え、実際の畑へ。大人の背丈も優に超すラワンブキが、森のように広がっていた。絵を描くため、子どもたちがフキのジャングルの中に分け入る。その姿はまるで、アイヌの伝説に登場するフキの葉の下の妖精〝コロポックル〞だ。

 「なんで白い毛が生えてるの?」と、茎を覆うフワフワした毛のようなものに質問が飛ぶ。

 「よく気づいたね! フキは水が好きだから空気中の水分を集めてるのかな?」と鳥羽さん。観察することで植物の生命力に触れ、それを口にして生かされていることを自然に感じていく。

 現場には学校給食をつくるスタッフも訪れていた。子どもたちの食の安全を担う彼らが、調理に使う食材を自分たちの手で収穫までするのだという。

 どちらかといえば大人が好む香味の山菜だが、鳥羽さんがゆでたフキの試食体験に、「シャキシャキでおいしいね〜!」「もっと食べたい!」と声が上がる。町を代表する特産品ながら「初めて食べた人は?」との質問に、なんと7割くらいが手を挙げた。

 「山、川、海、畑でとれるものには食べておいしい時期、旬があります。皆さんは旬のわかる大人に育ってくださいね」

 青空授業は鳥羽さんのそんな願いで締めくくられた。

 

丈は2m以上、直径10cmほどもあるラワンブキをスケッチブック片手に観察する子どもたち。

ラワンブキ畑の中を探検。大きな葉で太陽光が遮られ、薄暗い空間に子どもたちもドキドキ。迷子にならないように大人が見守りながら楽しい授業が進む。

ゆでたフキに鳥羽さんお手製の甘味噌を付けて試食。ていねいに下処理されたフキはみずみずしく歯ごたえがあり、おやつ代わりにもなりそうな味わい。

 

給食で感動を与えたい! 現場スタッフの熱い思い

 学童保育所だけでなく家庭内での有料保育を含めた保育料の完全無償化、中学生以下の医療費全額無料など子育て支援に力を入れる足寄町は、給食センターを改築した2015年度から学校給食も無償化に踏み切った。

 「小中学校だけでなく公立高校まで給食が出る自治体は全国でも珍しいと思います。秋のふるさと給食月間では羊肉やハチミツ、シイタケ、長芋など町内の特産物を軸にした献立を考えています。また、ラワンブキ青空教室のほかにも、中学校では生徒が選んだ地元食材でピザづくりをしたりと、小中学校独自の食育も盛んです。札幌からシェフを招いて地場産食材のフランス料理フルコースを振る舞う中学卒業記念の食事は、有志の地域おこしグループが企画したもので、皆さん楽しみにしているようです」

 翌日訪れた足寄町学校給食センターの所長、赤間教儀(あかまのりよし)さんはそう話す。生産者の圃場(ほじょう)をスタッフが訪ね、直接取引するなど、学校と地元農家との関係も深い。2020年11月に行われたふるさと給食月間の地場産率(道内産含む)は、食材数ベースでなんと63 .7%に上るという。

 7年前にリニューアルした給食センターは機能的で美しく、玄関を入るとすぐに、大きな壁面ガラスから清潔に整えられた調理場の中を見渡すことができた。てきぱきと立ち動くスタッフは皆、プロの料理人の顔つき。入念に味見を繰り返し、安全や栄養だけでなく「おいしい」と思ってもらえることも大切にしていることが伝わってくる。

 この日のメインは鳥羽農場のラワンブキ入りタコライス。給食メニューは500種類前後あり、鳥羽農場にも足を運んでいた栄養教諭の辻陽介(つじようすけ)さんを中心に、スタッフみんなでバランスや予算を考えて決めているという。同じく畑でお会いした調理スタッフの廣田裕美(ひろたひろみ)さんに、わざわざ農場へ赴き収穫までする理由を尋ねてみた。

 「自分たちで収穫したほうがよいフキを選べますし、穫れたてをすぐに使えますよね。下処理済みのものを買うと子どもたちが食べやすい食感に仕上げることができないし、大きいものを選べばスジ取りなどの作業効率もよくなります。それに、直接取引したほうが仕入れが安い!」

 無償化したからこそ、限られた予算の中でのやりくりも要求されるのだろう。ニンジンやトウモロコシ、カボチャなども圃場へ収穫に行くそうだ。

 「残さず食べてもらえたときが一番うれしい。食べ残しが多いときは必ず原因があるので、味の調整や香りを再考します」と廣田さん。ただつくるのではなく、新鮮でおいしく安全な給食をつくることへの使命感が、言葉の端々ににじみ出ていた。

給食をつくるスタッフの廣田裕美さん(右)と辻陽介さん(左)も授業に参加し、子どもたちの様子を見守りながら今年のラワンブキの生育も現場で確認する。

自分たちで収穫したラワンブキをていねいに穴の中までチェックしながら洗浄。火の通り具合で食感を維持しながらゆでていく。

大釜でゆで、きれいな緑色に仕上がったラワンブキ。手間をかけてスジ取りし、不要部を取り除く。野菜くずや残渣は十勝の養豚場で餌として活用される。

シャキシャキの食感が楽しめるちょうどいい大きさに刻み、タコライスの具に混ぜて炒めるほか、トッピングにも使って鮮やかさをプラス。フキならではの香りも立つ。

調理スタッフや運搬スタッフのチームワークでおいしい給食が成り立っている。2016年には地場産食材を使った献立を競う全国学校給食甲子園で優勝を果たした。

2015年に改築した給食センターは清潔で気持ちがいい。ここで町内の小中高校6校、計732食が調理されている。

タコライスは給食センターでご飯の上に具をのせて完成。米も北海道産。真っ赤なミニトマトをふんだんに飾り、見た目からもおいしさを表現する。

 

大盛り希望者も続出!楽しい給食の時間

 給食センターと渡り廊下でつながった足寄中学校は、地場産の木材が各所に使われた温もりあふれる明るい空間。職員室の前に置かれた黒板に、本日の給食メニューがレストランさながらに記されていた。

 待ちに待った給食の時間、給食当番のほかに「ボランティア」と呼ばれるお手伝いの生徒も自主的に手伝いながら、並ぶ生徒たちに食事をよそっていく。

 全員に給食が行き渡り、「いただきます」の挨拶のあと、先生から「大盛り希望の人!」のかけ声。一斉に希望者が並び、あっという間に保温コンテナや鍋がカラになった。

 タコライスは人気があり、フキ入り以外でも頻繁に登場するメニュー。この日は刻んだフキやミニトマトもたっぷりのり、生徒たちは「おいしいです!」と元気にもりもり食べていく。

 おなかいっぱいになった昼休みには、吹き抜けのホールに置かれたグランドピアノで生徒の自由な演奏会が始まり、コンサートホールのようにギャラリーが集まった。豊かな食に満たされ、仲間との時間を共有し、十勝の自然のなかで、子どもたちはのびのびと育っている。

給食センターとつながった足寄中学校。渡り廊下を通って配膳室に運ばれ、学校職員が教室の前へ運び、給食当番の生徒へ。

足寄中学校の職員室前の黒板に、給食の献立が毎日掲示される。この日は収穫した大きなラワンブキが隣に添えられていた。

取材日のメニューはフキ入りタコライス、もずくと卵のスープ、フルーツゼリー、牛乳。十勝に拠点を置くよつ葉牛乳もおいしい。

生徒たちと一緒に先生も給食係のお手伝い。卵抜きなど、アレルギー対応食は個別に用意されている。

率先してモデルになってくれた男子生徒のひと際おいしそうな表情が最高!

和気あいあいとした雰囲気の3年A組の皆さん。生徒たちの健やかな成長を、栄養も愛情もたっぷりの給食が支えている。

 

足寄町移住支援情報
十勝の雄大な自然と暮らしやすさを両立。移住体験住宅は1日1500円

 美しい山並みや清流、温泉も楽しめる足寄町。中心部には道の駅や大規模な公園、地産の食材を生かした飲食店、生活用品を扱う店舗や町立病院も揃っている。Wi-Fi完備の移住体験住宅を3棟設置しており、足寄町での暮らしを快適にお試しできる。期間は4日〜3カ月、光熱費込みで1日1500円(10月〜翌4月は暖房費1日500円追加)。

問い合わせ/総務課企画財政室 ☎︎0156-28-3851

移住体験住宅1号棟・2号棟。

 

足寄町の子育て支援

  • 出産祝い金(第1・2子10万円、第3子以降20万円)
  • 保育料無償
  • 学校給食無償
  • 中学生以下の医療費を所得制限なしで全額助成

 足寄高校に通う生徒へは通学支援や下宿開設、受講料無料の公設民営塾も。カナダ・アルバータ州ウェタスキウィン市と姉妹都市であり、高校生によるオンラインカナダツアーなどの交流で国際感覚を身につける教育支援も行っている。
「足寄で子育て」https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/kosodate/

足寄町認定こども園「どんぐり」は生後6カ月〜就学前まで利用可能。開園時間は平日7:30〜18:30、土曜7:30〜12:55。定員180人。

0歳から就学前の子どもと保護者が利用できる子育て支援センター「つどいの広場」も開設。遊具などで楽しみながら子育ての相談や情報収集、友達づくりなどができる。

 

文/春日明子 写真/崎 一馬

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