掲載:2021年5月号
東京・奥多摩町でおひとりさま田舎暮らしを満喫しているライター・中山茂大。前回クマが出たのは確か2016年のリオ五輪の年の夏。そして2020年、またしても出没した。しかもひとまわりもでかいのが。それにしても五輪の年ごとにクマが出るのは……なんで??
ウッドデッキにクマが⁉ それでも奥多摩はいいところ
奥多摩町に移住して11年。現在は、悠々自適な奥多摩の山奥暮らしと、千葉の母の家とを行き来している。そんな6月のある日のこと……。
午後7時40分。母屋に隣接する別宅のアネックスで仕事をしていると、母屋のほうからものすごい音がした。ドアを開けると暗闇のなか、ぶら下げてあったBBQ用の鉄板がガタガタ揺れている。動物がいることは間違いない。
「コラ!」
怒鳴ると、鉄板の揺れが止まった――。
「フーッ、フーッ」
闇のなかにシルエットが浮かび上がった。その瞬間恐怖を感じ、慌ててドアを閉めた。
4年前に見たやつよりでかい。しかも、こっちに気づいても逃げようとしない。あれは間違いなく、やばいヤツだ……。
ドア越しに様子をうかがうと、「フーッ、フーッ」と荒い鼻息が聞こえる。ドアの前まで来ているようだ。いよいよやばいぞ、これは。
手近のバットを引き寄せて握りしめる。さらに外の様子をうかがうと、再び鉄板の油をなめはじめたようだ。ガタガタ音が聞こえる。
こういうときに限ってスマホは母屋である。そこでパソコンに取りすがり、SNSで地元友 人にメッセージを送る(SNSでSOSとは、これいかに⁉)。
代わりに警察に連絡してもらうことになり、家の中で待機。
ガタガタは鳴り止まない。
なんとか追い払えないものか。静かに窓を開けてのぞいてみる。やはり暗闇で見えない。思い切って怒鳴ってみる。
「コラ!」
ガタガタは鳴り止まない――。
「オイ!」
まだ止まない――。
「オイコラ!」
……止まった。
「フーッ、フーッ」
鼻息とともに、そいつはのっそりと姿を現した。
真っ黒い巨体。顔はひと抱えもありそうだ。
距離は4m。前を横切っていたのが、急に方向を変えて、こっちに向かってくる。
うわわわわ……。
慌てて窓を閉め、カーテンを閉じる。
やべえ。
窓ぶち破って入ってきたらどうしよう。
バットを握りしめて息を殺す。しばらく待って恐る恐るカーテンを開けてみる。とりあえずクマの姿は見えない。なんとかしてスマホを取りに行きたいので、意を決して外に出た。このときが一番緊張した。
電灯をつけるとウッドデッキは散々だった。テーブルがぶっ倒され、モノが散乱してメチャクチャである。
そこで理解した。
この半年ほど、テーブルが齧(かじ)られたり倒れたりしていたのは、すべてコイツのせいだったのだと……。
その後、駐在さん3名がやってきて、翌日以降、猟友会さんが駆除に来てくれることになった。数日後に隣の集落で1頭捕獲されたと聞いたが、コイツだったのかどうかは不明である。
クマの出没は奥多摩でもかなりのレアケース。地元の人が思わず動画を投稿するのはクマかカモシカで、シカやサルに至っては珍しくもなんともない。多くの野生動物に親しんでいる奥多摩は、東京都が誇るべき自然の宝庫なのだ。
以前にもこんな状態が。やはりクマ!?
クマに出会ったら、目を離さずゆっくり離れる
昔から「クマに出会ったら死んだふりをする」というのがあるが、専門家によれば助かる見込みは五分五分で、助かっても大けがをすることが多いとのこと。ベターなのは、落ち着いてクマから目を離さずにゆっくりその場を離れ、木陰などに身を隠すこと。またクマは自分より弱いと見ると襲ってくるので、上着を脱いで振る、傘を持っていれば開くなどして、 こちらを大きく見せることも有効とされる。
奥多摩町のHPには、「万が一クマに出会ったら、走らずに、クマの様子をうかがいながら、静かにクマから離れるようにしましょう(背を向けない)」とある。また「クマ鈴をつけたり、手をたたくなど、自分の存在をクマに知らせる工夫をお願いします」(奥多摩町ビ ジターセンター)とのこと。
2020年はクマの暴れ年⁉
クマは食肉目イヌ亜目クマ科の動物で、鋭い爪と犬歯を持つ。日本には北海道にヒグマ、 本州以南にツキノワグマがいる。ツキノワグマは体長120~180㎝、体重40~120㎏。基本的に単独行動だが、3歳までは母子で行動する。母クマは母性愛が強く、敵と認識すれば排除行動に出るので特に注意。
2020年はクマの「暴れ年」だった。その理由は、エサとなる木の実の不作が第一に挙げられるが、そのほかにも、里山の廃屋に住み着くクマが増えたことで「人慣れ」したクマが現れはじめたことや、2018年は木の実が豊作だったためにクマの繁殖行動が盛んで、そのとき生まれた若グマが親離れし、好奇心にかられて人里に下りてくることなどが考えられるそうだ。
【奥多摩町】
人口約5000人。225.53㎢もの広大な面積を有し、日原鍾乳洞、奥多摩湖、鳩ノ巣渓谷など自然が豊か。近年、自然環境やアウトドアが楽しめる環境にひかれ、「おくたま暮らし」を楽しんでいる人が多い。新宿駅から青梅線奥多摩駅まで約1時間45分。
奥多摩町移住支援情報
空き家バンクによる家の紹介や、町の暮らしが体験できる生活体験住宅などを用意。また、22年間の定住で新築住宅が譲与される「子育て応援住宅」、低額な家賃設定の「町営若者住宅」、家の購入・リフォームに対し補助金が交付される「移住・定住応援補助金」など、若 い世代向けの移住支援が充実している。
問 奥多摩町若者定住推進課 ☎︎0428-83-2310
http://www.town.okutama.tokyo.jp/kurashi/sekatsu/sumai/
担当者より
「都心の喧噪(けんそう)や雑踏から離れた豊かな自然のなかで、 この土地ならではの自分らしい暮らし 方を見つけませんか」
文・写真/中山茂大 イラスト/吉野かぁこ
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする