女性おひとりさまの移住は不安も大きいもの。移住前にすべきことから不安への対処法、男性からのアプローチへの対応、田舎でなにかと難しい近所付き合いまで、さまざまな質問に2人のライターがお答えします。
掲載:2023年4月号
山本一典(やまもと・かずのり)
田舎暮らしライター。本誌創刊の1987年から取材スタッフ。2001年に福島県田村市都路町に一家で移住。著書は『お金がなくても田舎暮らしを成功させる100カ条』『失敗しない田舎暮らし入門』(ともに洋泉社)など。
藤原 綾(ふじわら・あや)
東京生まれ。2021年に鹿児島県霧島市に一軒家を購入して、女性おひとりさま移住する。その移住の顚末をまとめた『42歳からのシングル移住』(集英社)が2月に発売された。
①移住前に想定しておいたほうがいいことを教えてください。
【山本】田舎の魅力を伝えるテレビ番組の影響もあり、20年ほど前から女性おひとりさまの移住者を見かける機会が飛躍的に増えました。田舎の自然環境に憧れて移住を決意する女性も少なくありませんが、農漁村は人間関係が濃密な地域社会。そこに単身で飛び込むわけですから、移住者の少ない地域では鵜の目鷹の目で見られがちです。でも、区長さんなど地元の人と一緒に挨拶回りをすれば、温かく迎えてくれるところがほとんど。そのプロセスを省いて、自然のなかで静かに暮らせるとは考えないことです。
【藤原】災害が起こりやすい地域かどうかは、ハザードマップで確認を。周辺の地域にどんな人たちが住んでいるかも、できればわかると安心かと思います。私の場合は、不動産屋さんがとてもいい方で、事前に周辺の方に話を聞いたり、自治会の情報なども入手したりしていただいたので、安心して移住できました。また、女性ひとりだと、周囲から見れば何か問題を抱えているのでは? と思われても仕方ありません。怪しい人間ではないということを、自治会やご近所付き合いのなかでわかってもらう努力も必要です。
②人が少ない田舎は怖い気がします。どのようなことに注意すればよいでしょうか?
【山本】「ポツンと一軒家」とまではいかなくても、人里離れた家に住みたがる人は少なくありません。田舎は、家に突然知らない人が訪ねてくるリスクがあります。どっぷりではなくても、最低限の地域付き合いができる場所をオススメします。近くのおばちゃんに野菜づくりを教わりながら地域に溶け込んだり、移住者のシェアハウスに住んでいる独身女性も少なくありません。
③おひとりさまだと孤独な気がします。どうしていますか?
【藤原】ひとりだろうと大勢だろうと、孤独を感じるときは感じると思います。まずは自分の気の持ちよう。また、さまざまなサークルのような活動が市の広報誌に載っているので、興味がある分野に参加するのも手です。そこからいろいろな人を紹介してもらえれば、輪も広がっていきます。
④おひとりさま移住には、どんな人が向いているでしょうか?
【山本】男性は無口な人でも個性と受け止めてもらえますが、女性は明るく話せる社交的な人でないと地元の女性から陰口を叩かれがちです。ただ、若い独身女性は目立つので、地域に慣れるまでは少し控えめでちょうどいいかも。40代から50代で田舎暮らしを始める女性も増えていますが、テレワークや起業で生活のベースをつくれる人が向いています。個人差が大きいですが、体力のある60歳くらいまでが移住年齢のボーダーラインでしょう。
⑤虫が嫌いです。これでは田舎暮らしは無理でしょうか?
それとも慣れるものでしょうか?
【藤原】私も都会にいたときは、クモ1匹でぎゃあぎゃあ騒いでいましたが、もうすっかり慣れました。アシダカグモはゴキブリを食べてくれるし、ミミズは畑を耕してくれるし、今ではむしろ仲間という感覚のほうが強いです。巨大なガが出ると相変わらず大騒ぎですが、対峙するのも自分ひとりだけ。だんだんと強くなっていきます。
【山本】好き嫌いだけならたいていは数年で慣れますが、屋内をまめに掃除する、カメムシはガムテープで処理するといった工夫は必要です。問題は虫刺されで、女性はアブやハチなどの被害に遭いやすい。原因は化粧品の甘い香りで、香りの強い化粧品や香水は避けたほうが無難です。もう1つは服装で、農村の女性たちは畑に出るときつばの広い帽子をかぶり、首の周りをすっぽりタオルで覆っています。それらを参考にするといいでしょう。
⑥こちらはその気がないのに、しつこくアプローチしてくる
男性がいたら、どう対応すべきでしょうか?
【山本】最近は逆恨みをする男性も増えているようなので慎重に行動すべきですが、地元民の親しい女友達ができると、意思の疎通が図りやすくなります。「あの人は結婚する気がないみたいよ」とやんわり伝えてもらうのも1つの方法でしょう。
【藤原】そんな経験もないので、アドバイスに苦しみますね(笑)。気があると勘違いさせないように、いい距離感をつくることが大切かなとは思います。都会よりも男女の区別がはっきりしているので、セクハラなどには感覚の違いを理由に、きちんと言ってもいいかもしれませんが……難しいですね。
⑦なぜ結婚しないのか? 子どもはつくらないのか?と聞かれたら、どう答えますか?
【藤原】私の場合、年齢的に子どもの話は出ませんが、そんな話になったときは「いい人がいればいいんですけどねー」と笑って答えています。独り身であることを引け目に感じず、あっけらかんとしていればいいのではないでしょうか。周囲の方たちも気を使ってくれているのか、ごくまれにしか言われません。
⑧自分の悪口を間接的に聞いてしまったときは、どう対応すべきですか?
【山本】特に女性は3人寄ると、そこにいない人の悪口を始めがち。わーっと話して、あとは忘れてしまう。その情報が漏れてしまうこともあります。悪口といっても「あの人は服装が派手」「○○さんはおしゃべり」といった些細なものがほとんどで、ストレス発散の一種。わが家は「どうせ私たちがいないときは悪口言われてるんだろうね」と受け流しています。最初からそう割り切っていれば腹も立たないし、悪口なんて気にならなくなるものです。
【藤原】経験がないので、何とも言えませんが、まずは反省。誤解を受けているようなら、間接的に教えてくれた人にお願いして、直接お会いしてもいいかもしれません。そして何より、“そんな悪いやつじゃない”ということを普段から行動で示すことが大事だと思います。
⑨「これは禁句!」「こういう行動は嫌われる!」
ワースト3を教えてください。
【山本】すぐ「都会ではこうだった」と話す女性がいます。それを繰り返すと、「そんなに都会、都会って言うんなら、都会に帰ればいいじゃないの」と嫌われます。「私は自然が好きで来たので、人付き合いはしたくない」も地域社会では禁句。まして敷地の入り口をチェーンで塞いだり、「私有地につき立入禁止」の看板を立てるのは、地域に背を向けた行為と受け取られかねません。「おばあちゃん、農薬はからだによくないですよ」と話しかけ、近所の人たちの反感を買った女性もいます。
【藤原】NGな行動を3つ挙げるとしたら、地域の活動に協力的ではない、周囲の人たちとのかかわりを避ける、都会風を吹かせる、あたりでしょうか。長年、そこに住んできた人たちがつくり上げてきた場所だということを念頭に、郷に入れば郷に従えの精神で積極的にかかわりを持っていくことが大切な気がします。
⑩自分が楽しむのはもちろんですが、友人が喜んで遊びに来てくれたらいいな、
と思っています。田舎暮らしで友人受けがよかったのはどんなことですか?
【藤原】霧島では、何といっても温泉です。さまざまな泉質があり、至るところに源泉かけ流しの温泉施設があるので、友人が来たときは毎日違う温泉に行きます。桜島の雄大な景色など、今の私にとっては現実でも、都会から来た友人にとっては非現実。自分が楽しいと思っている場所に案内すれば、どこでも楽しんでもらえると思います。
文/山本一典、藤原 綾 イラスト/大沢純子
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