人口約6500人の農山村でありながら、初代「SDGs未来都市」に選ばれた飯豊町。昭和40年代から日本初のワークショップといわれる「住民主体のまちづくり」を続け、持続可能な地域社会の実現を目指してきたからだ。その先進地の取り組みを紹介する。
掲載:2023年10月号
【山形県飯豊町(いいでまち)】
山形県の南西部に位置し、町土の84%を森林が占める。最上川の源流域で、飯豊連峰から流れる白川が町を縦断。流域の扇状地は稲作地帯で、田園散居集落が美しい景観を形成。また中津川地区(上の写真)には共有林が広がる。平成20年に「日本で最も美しい村」連合に加盟。地域資源の保護と地域経済の持続的発展を目指す。東京から山形新幹線と電車で約3時間。
バイオガスから始まり、ガス発電事業にも着手
「SDGs未来都市」に応募するのは大規模な自治体が多いのだが、飯豊町は毎年130人ずつ人口が減っている過疎地域。
「循環型社会の構築で持続可能な地域づくり」をキーワードにしているのはそのためだ。
平成20年には早くも「飯豊町バイオマスタウン構想」を策定。木質バイオマス製造施設を整備し、キノコ菌床用おが粉、木質ペレットの製造やペレットストーブの共同開発をしてきた。
「森林が約84%を占める飯豊町のなかでも、過疎化が進む中津川地区には日本で最大の財産区(共有林のこと)がある。こうした地域資源を活用し、農村文化を継承することが持続可能なまちづくり、SDGsにつながっているんですよ」と総合政策室の嶋貫大地(しまぬきだいち)さんは話す。
町内産の木質チップを使うチップボイラーも民間主導で町内の温泉施設に併設した。森林資源をフル活用し、植林・伐採、製材・加工、エネルギー利用の資源循環を実践している。チップボイラーの熱は温泉施設が熱源使用料として支払う。灯油ボイラーに比べて年に数百万円のコスト削減につながっているという。
地域資源は森林だけではない。ブランド牛の米沢牛の約4割を生産する畜産も盛んで、その家畜排泄物の堆肥・液肥化にも着手。ウクライナ情勢で肥料が高騰している現在では、貴重な資源になっている。さらに、令和2年には家畜排泄物を活用したバイオガス発電事業にも民間主導で取り組み、電気は再生可能エネルギーとして売電、熱は発電施設のロードヒーティングに利用。家畜排泄物をクリーンなエネルギーに変えて地域に循環させる地産地消を実現している。
令和2年に本格稼働したバイオガス発電所。米沢牛の一大産地から排出される家畜排泄物をエネルギーの自給に活かす先進的な取り組みだ。
2mに達する雪も貴重な資源。雪室で米、コーヒー、酒、果樹などを保存すると、熟成によって質の高い商品ができるという。
さまざまな種を蒔いて、人口目標を達成する!
「SDGs未来都市」の飯豊町では、地域内自給も大きなテーマの1つ。米沢牛の主産地として飼料の自給も目指しており、国の補助制度を活用した飼料用トウモロコシの作付面積は5㌶まで広がった。また小麦の実証実験にも着手しており、穀物の自給を目指して硬質小麦品種の「夏黄金(なつこがね)」を栽培。それを使った「飯豊未来パン」は、年に10回も学校給食に提供され、子どもたちに大好評だ。
畜産業者や農業者団体などと官民一体で、飼料用トウモロコシの生産拡大を進めている。バイオガス発電の副産物の液肥も栽培に活用。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年の町の人口は4028人。町が作成した「飯豊町人口ビジョン」では、これを5282人にキープしたい考え。そのためのさまざまな政策も実施している。
廃校跡地に造成した住宅団地「エコタウン椿」もその1つ。住宅性能が高い「飯豊型エコハウス」の建設や緑地帯の設置により環境や景観に配慮した地域づくりを進めるのは、若い世代の移住・定住を促進する狙いがあるからだ。
過疎化で高校がなくなったこの町に昨年、電動モビリティシステム専門職大学が新設された。これは電気自動車のすべてを学べる4年制大学で、EVの設計ができるような専門家の育成を目指している。それにも関連するが、電池関連企業を集積させる「飯豊電池バレー構想」もある。EVなどに精通した人の流れをつくり、大規模な雇用確保につなげようというものだ。
ここで紹介できたのは飯豊町の一面に過ぎないが、「まちづくりの種蒔きが終わり芽が出たら、あとは養分と水を与えて大きな花を咲かせるだけ」と嶋貫さんは笑顔を見せる。「SDGs未来都市」にふさわしい素晴らしい取り組みだ。
畜産業者や農業者団体などと官民一体で、飼料用トウモロコシの生産拡大を進めている。バイオガス発電の副産物の液肥も栽培に活用。
21区画の「エコタウン椿」にある「飯豊型エコハウス」のモデル住宅。県産材を75%以上使用した高気密・高断熱住宅で、7棟が建築済みだ。
新設された電動モビリティシステム専門職大学。電気自動車の電池・モーター・車体などすべてが学べる4年制大学で、EVのパイオニアを育成する。
全国でも珍しい飯豊町の田園散居集落。この美しい景観を守るためには水田を維持するとともに、人口減少対策が重要になる。
飯豊町のSDGsここがスゴイ!
早くから「循環」と「自給」をキーワードに環境に優しい町づくりに着手し、「SDGs未来都市」に選定された飯豊町。主な取り組みを紹介する。
●循環型社会の構築で持続可能な地域を目指す
●地域資源を活用し、農村文化の継承を目標に掲げる
●トウモロコシや小麦など地域内自給を実証実験
●エコタウンとエコハウスで移住・定住を促進
「まちづくりを通して農山村の新たな価値創造を目指しています」(総合政策室 嶋貫大地さん)
飯豊町移住支援情報
移住・定住コンシェルジュが対応。住宅取得や賃貸住宅の支援も
移住・定住コンシェルジュが暮らしや困りごとなどをサポート。住宅取得奨励として30万円(加算はI・Uターン30万円、町内建築業者施工30万円、3世代同居か子育て世代か新婚世帯10万円、飯豊型エコハウス建築30万円、空き家購入10万円)。子育て世帯・新婚世帯・40歳以下の町内就業者が賃貸住宅に住む場合、月1万円(最長24カ月)を支援。
●お問い合わせ先:飯豊町総合政策室 ☎️0238-87-0521
おいでいいで飯豊町 - 山形県飯豊町移住ポータルサイト (iide-iju.com)
白川ダム湖畔の水没林は、春先だけ望める風景。カヌーで新緑のヤナギの中を進む体験ができる。
「移住に関して何度もご相談ください。来町した際には町をご案内いたします」(総合政策室 二瓶美奈子さん)
文/山本一典 写真提供/飯豊町
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