今年度のSDGs未来都市に選定された自治体の1つは、りんご生産量日本一を誇る弘前市。約150年の歴史を重ねて築いた、市の基幹産業が直面しているのは、高齢化と後継者不在による担い手の減少。課題を乗り越え、産地を将来の世代に引き継ぐために、SDGsに取り組む。
掲載:2023年10月号
青森県弘前市 (ひろさきし)
青森県の南西部、津軽地方の中心地で人口約16万2000人。年平均気温10.6℃。弘前城の城下町。津軽平野に連なる丘陵地帯にりんご園が広がり、りんごの生産量は全国の約4分の1を占め、収穫量毎年17万t
50年後の地域発展に向け、担い手不足の克服を目指す
高橋哲史さん。りんごを生産する一方、法人を設立して弘前市りんご公園の一角に「弘前シードル工房 kimori」を立ち上げ、シードル醸造に取り組む。
都内でテレビ番組の制作に携わっていた高橋哲史さん(50歳)は、20年前に故郷の弘前市にUターンし、りんご農家を引き継いだ。
「母が病気で倒れ、秋の収穫に呼び戻されました。Uターンを決断できたのは、インターネットが普及して映像の仕事は地方でもできると感じていたのと、当時はまだ独身でしたからね」
地元に戻って実感したのは同世代の農家の少なさ。近所のりんご生産者は子どもが出ていった後の老夫婦ばかりだった。
「青森県のりんごは全国の生産量のうち約6割を占めています。なかでも弘前市は県内生産量の約4割を占める、日本一のりんご産地です。以前の私もそうでしたが、地元では弘前のりんごは未来永劫なくなるはずがないと思われています。ところが実情は、このままだと20年、30年後には生産者がいなくなる。それに気がついて、りんごの担い手の問題を地域の課題として、考えるようになったんです」
降水量の多い弘前はりんごの適地ではないと高橋さんは言う。日本一の産地は当たり前にあるのではなく、明治時代の導入から約150年にわたる先人たちの努力の積み重ねで、奇跡的につくられた。そしていま、担い手不足で産地の存続が危うい。歴史と現状を多くの人に知ってほしいと、高橋さんは法人を立ち上げ、りんごを発酵させるシードルの醸造にも乗り出した。
「りんご畑に楽しい場をつくり、足を運んでもらいたくてね」
自社で栽培、収穫したりんごの約1割を原料に、年間約2万本のシードルを生産。
店内からガラス越しに醸造タンクが見られる。シードルの醸造期間は30日ほど。秋から冬の1シーズンに6~7回仕込む。
高度な剪定技術で育てる青森のりんご。よそのリンゴと差別化するため表記は平仮名。
法人では里親農家として就農希望者の研修も行っている。
「工房にはりんご農家になりたい人がときどき訪ねてきます。りんごの生産は初期投資が必要ですし、生産技術、特に剪定にはセンスも求められて簡単ではありません。それでもチャレンジしたい若い人がいて、現在は7人が社員として研修中です」
高橋さんは、弘前のりんごは今後50年の成長産業だと言う。
「最近では台湾などでの消費が増えて、国内のりんごの約1割が輸出に回っています。そのためりんごの価格は上昇傾向です。一方、他県での生産量が減っている。弘前には高い技術力があり、マイナス要因は担い手不足だけなんです」
弘前市では、りんごとブドウの複合経営も推奨しており、災害時のリスク軽減や農業経営の安定化、りんごを主体とした地元農業の持続化につなげていきたいと狙う。今年度、市がSDGs未来都市として提案したのは「SDGsで切り拓く持続可能な『日本一のりんご産地』の実現」。SDGsの当面のゴールとなる2030年まで、担い手確保をはじめ、生産力・販売力の強化、環境負荷の低減などへの取り組みを地域総がかりで進めていく。
「課題を克服して50年後に生き残っていれば、弘前市はりんごの全国シェア8〜9割の大産地になっているはずです」
物販コーナーに並ぶシードル。市内には11カ所のシードル醸造所がある。
弘前市のSDGs ここがスゴイ!
弘前市は先駆的な取り組みとして補助対象となる「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた。提案された項目から4つを紹介しよう。
●AI・データを活用した「りんごDX」の実装・普及展開
●補助作業やアルバイトの希望者が基本的な実技を学べる「初心者向けりんご研修会」
●就農希望者を市内農家がサポートする「農業里親制度」
●園地継承円滑化システムによる後継者不在園地の継承
弘前市移住支援情報
暮らし体験は弘前公園至近のサ高住で
サービス付き高齢者住宅「サンタハウス弘前公園」は、弘前城のある弘前公園や、旧図書館などの洋館が並ぶエリアに隣接する抜群の立地。50歳以上なら、この住宅の1室を利用して「弘前の暮らし体験」ができる。基本のメニューは4泊から13泊までで、料金は1人3000円/泊、2人1組5000円/泊。
●問い合わせ先/弘前市企画課 ☎0172-40-7121
https://www.hirosakigurashi.jp/2023/0613/6685/
サービス付き高齢者住宅「サンタハウス弘前公園」。暮らし体験のほか、長期の入居もできる。
サンタハウス弘前公園では、市内への移住者やUターン者と地域住民の交流事業も行われる。
体験では家具・家電付きの居室が提供され、キッチンも完備している。
居室の窓からは明治期の洋風建築、旧図書館の屋根が見える。
「弘前市への移住に興味のある方、まずはまちなかに滞在して住み心地を確かめてみてください!」
(企画課 阿保優子さん)
文・写真/新田穂高 写真提供/弘前市
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