2023年に「SDGs未来都市」に選定され、さらに「自治体SDGsモデル事業」にも選ばれた松江市。豊かな自然と神話が息づいた国際文化観光都市であることを活かし、「水の都」をテーマに持続可能な発展に向けて動き出している。
掲載:2023年11月号
【島根県松江市(まつえし)】
島根県東部に位置する人口約20万人の都市。宍道湖、中海、日本海といった水資源を中心とする自然に恵まれ、医療や教育、商業施設などの都市機能も充実。国宝・松江城のもとに発展した城下町や、美肌の湯として知られる玉造(たまつくり)温泉など観光産業も盛ん。出雲縁結び空港から松江市中心部まで車で約30分。
住んでよし、訪れてよしの国際文化観光都市へ
国宝・松江城と城下町の風情があり、豊かな自然と歴史、文化に育まれた松江市。島根半島の北は日本海、南は宍道湖(しんじこ)、中海(なかうみ)という国内最大の連結汽水湖(きすいこ)がある。2つの汽水湖は、年間4万羽を超える水鳥が飛来する「ラムサール条約登録湿地」で、このエリアは「島根半島・宍道湖中海ジオパーク」に認定。全国に3都市しかない国際文化観光都市として、水辺の魅力を活かした観光に力を入れている。
宍道湖や中海、日本海、松江城の水堀に囲まれ、「水の都」と呼ばれる松江市。市街地でありながらも、水辺ではウオーキングや散策などで心身ともにリフレッシュできる。
世界でも貴重な連結汽水湖。手前から日本海(海洋)→中海(なかうみ、高塩分汽水)→宍道湖(しんじこ、低塩分汽水)→斐伊川(ひいかわ、淡水)。写真の奥に広がるのは日本海。
2022年3月には新たな総合計画「MATSUE DREAMS 2030」を策定し、SDGsと同じ30年を目標に「夢を実現できるまち 誇れるまち 松江」を掲げた。これを実現するためには、SDGsを中核に据えて取り組むことが不可欠と話すのは、SDGs推進課の岡田 等(ひとし)さんだ。
「松江市は2023年に、『SDGs未来都市』と『自治体SDGsモデル事業』に選ばれ、『脱炭素先行地域』にも選定されました。モデル事業は、市民にとって身近な『水の都』をテーマにしています。水資源を中心とした自然環境の保全と利活用を目指し、経済を循環させていく事業です」
その1つ、「水の都のトリセツづくり」は、水の都の目標とルールづくりに取り組むプロジェクトだ。2023年5月に一部がオープンした市役所の新庁舎には、湖を一望できるテラスがあり、試験的な活用を始めている。水辺の公共施設として、市民が親しみを持って活用できる新庁舎にしようと、音楽のライブや子育て世代も楽しめるマルシェを実施。日常的なにぎわい創出に向けて、効率的な運用方法を検討している。ほかにも、宍道湖と中海の水面の利活用や、日本海沿岸での海岸漂着ごみの回収についても、関係団体と連携するなどしてトリセツづくりを進める。
第1期棟が完成した松江市新庁舎。市民や観光で訪れた人が交流しできる「日常的なにぎわいの場」となるよう目指している。
地域おこし協力隊や島根大学の学生によるビーチクリーン活動。日本海沿岸に流れ着いたごみを個人や団体が連携して回収する。
持続可能な暮らしのPRには、「まつえ環境クリエイティブディレクター」のアーティスト新羅慎二(にらしんじ)氏(湘南乃風 若旦那)が協力。「まつえ循環プロジェクト」を発足し、若手職員とともにまつえファーマーズマーケットや、捨てられるタンスを利用したコンポストの製作、シジミの殻の再資源化に向けたワークショップなどを実施している。
環境面では、廃棄していたものを新たな製品に生まれ変わらせる「松江流ブルーアップサイクル」を実施。枯れて、湖中で腐ると水質悪化の原因にもなる宍道湖のヨシ(葦)はストローや紙に再生し、松江城の堀川に繁茂する水草は堆肥化や再製品化に、民間企業などと連携して実証実験を試みる。シジミの殻や日本海の漂着プラスチックごみの再資源化は、市民の環境問題への関心を高めるカギとなりそうだ。
こうした取り組みとともに、少しずつ市民の理解が深まり、2022年のアンケートでは、SDGsについて何かしら知っているという回答が85%まで上昇した。市民にとってSDGsを身近に感じられる仕組みづくりで目標達成を目指している。
「松江に住む人たちが、誇りと愛着を持てるようになることで、外から松江に来る方にも松江のよさを実感してもらえるようになります。SDGsへの取り組みは、目的でなくまちづくりのツール。市民が夢を実現できるまちにしていきたいです」
宍道湖では水質浄化につなげるため、毎年、ヨシの刈り取りが実施され、刈り取ったヨシをストローや紙に再生している。
脱炭素先行地域として、ホンダと連携して堀川遊覧船の船外機を2023年8月から電動化する実証実験がスタート。音も静かになった。
松江市のSDGs ここがスゴイ!
「水の都」をテーマに、宍道湖、中海、日本海などの豊かな水域や松江城のもとに育まれた歴史、文化など、松江ならではの魅力でSDGsに取り組む。
●住民が「夢を実現できるまち 誇れるまち」を目指す
●水域資源の保全と活用の両立を図る
●「脱炭素先行地域」との両輪による「国際文化観光都市」の実現
●行政、市民、教育機関、企業、商工団体などが連携した“オール松江市”で取り組む
「SDGsの視点により、歴史ある『水の都』の魅力をさらに高めていきます」(SDGs推進課 岡田 等さん)
松江市のここがオススメ!
山陰を代表する夏祭りとして知られる「松江水郷祭」。宍道湖の湖上を華やかな花火が彩る。ステージイベントや飲食の屋台もあり、毎年多くの人でにぎわう。
松江には、作法にこだわらず、抹茶を日常的にたしなむ風習がある。江戸時代に松平治郷(不昧公)が広めたとされる。抹茶が楽しめるカフェや喫茶店も多い。
松江市移住支援情報
都市と自然環境のバランスがよい、暮らしやすいまち
移住コンシェルジュが移住相談や手続きをサポート。オンライン相談にも対応(要申し込み)。2024年4月からは中学生以下の医療費が無料になる予定(2023年度は小学6年生までの医療費が無料)。地域との交流に重きを置いた「松江式ワーケーション」を推進している。また地域おこし協力隊は8名が活動中(令和5年9月現在)。
●お問い合わせ先:松江市定住企業立地推進課 ☎︎0852-55-5215
松江市移住定住サイト「Life in Matsue」には、移住者インタビューも掲載。
「湖や海に囲まれた、ゆったり過ごせるまちです。お気軽にご相談ください!」(定住企業立地推進課 森田八雲さん)
文/田中泰子 写真提供/松江市
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