掲載:2021年6月号
手づくり工房とカフェを営み、地域の人とモノをつなぐ
大垣市の飛び地である上石津は、山間の小さな集落だ。
住民の優しさにひかれて移住してきた雨宮さん一家は、この地で工房とカフェを営む。
最初は小さな木工工房だったが、「親切にしてくれた地域に恩返ししたい」との思いが募り、
やがて工房は地域のアンテナショップのような存在に。その経緯と現在の姿を取材した。
岐阜県大垣市上石津(おおがきしかみいしづ)
2006年に合併し大垣市上石津町となったが、合併先の旧大垣市とは隣接していないため、飛び地となって岐阜県の南西端に位置している。約85%が山林で、地域の中央をぬうように牧田川が南北に貫流し、その周辺に集落が広がる。大垣駅より車で約30分。最寄りインターは名神高速道路関ヶ原IC。
カフェあめんぼ 大垣市上石津町上多良前ケ瀬入会1-1 ☎︎0584-45-3608 http://www.cafe-amenbo.com
【営業時間】10:00〜16:00 【お休み】水・木曜
会社勤めからスタート。工房とカフェで地域貢献
岐阜県と滋賀県、三重県の県境に位置する大垣市上石津町。東は養老(ようろう)山地、西に鈴鹿(すずか)山脈に囲まれた山間の集落でありながら、人が行き交い、どこか明るい雰囲気がある。
「上石津を北から南へ走る国道365号は伊勢神宮への街道だったことから、昔から人を受け入れる気質があったようです」
そう語るのは、上石津町に暮らし、上石津で移住者支援をしている伊藤芳さん(77歳)。
「ここ上石津は、〝歴史と文化の隠れ里〞と称されているのですが、これ、まさにぴったりな表現だなと思っています」
伊藤さんの隣で語るのは、「手づくり工房あめんぼ」と「カフェあめんぼ」を経営する雨宮英樹さん(48歳)。英樹さんは北海道出身で、結婚を機に自作の三輪車屋台でのたい焼き店を始めた。商売はうまく運び、東京での最終形はマクロビオティックカフェ経営。2008年春、東京から上石津へ移住してきた。きっかけは、妻の明日香さん(44歳)の実家が三重県北部にあり、家族のサポートを考えるようになったこと。実家から1時間圏内で物件を探しはじめた。
「上石津の物件を見学しに来たとき、近所の方がとても親切に声をかけてくれて、みんなニコニコしている。ここならやっていけるんじゃないかと思いました」と明日香さん。
移住定住サポーター・伊藤さんが、雨宮さんを寄り合いに呼ぶなどして、地域とのつながりをつくってくれたことも手伝い、夫妻は周囲から声をかけられ、すっかり地域になじんでいる様子。カフェや工房にも常連客が多く訪れ、とても活気がある。移住を夢見る人にとって理想の形だろう。
しかし、夫妻は移住後すぐに店を営みはじめたわけではなかった。移住当初、英樹さんは岐阜県関ケ原町の清掃会社に、明日香さんは岐阜県垂井町のパン店に勤務。生活を安定させるために会社勤めを3年ほど続けた。
その後、英樹さんは自宅の離れで木工細工を始め、インターネット販売を行うなどしてやりくりしていた。そんな様子を見ていた地域の人から、「かみいしづ緑の村公園の入り口にある建物で、店を始めないか?」との声がかかり、13 年、「手づくり工房あめんぼ」の開業に至る。
「最初は自分の木工細工だけを販売していました。でも、材料を製材してくださるなど、地域の方がとても気にかけてくださって。それで自分も何か恩返しができないかと、地域の特産品を販売することにしたんです。当初は閑散としたものでしたが、皆さんにお声がけいただき、いろんな特産品を置けるようになりました」と英樹さん。
「棚に陳列された特産品を見て、上石津にこんな特産品をつくっている人がいるんだって、ここで初めて知ったものもあるよ」とは伊藤さん。
さらに、「公園で楽しめるように」と、テイクアウトのソフトクリームやピッツァを販売するようにもなった。
そんななか、隣でカフェを営んでいた年配の夫妻から「カフェを引き継がないか?」と声がかかり、15年、「里山の薪窯ピッツァ」を売りにしたカフェを開業。地域住人が集う場となった。
住人が移住者を地域とつなぎ、さらに移住者が地域のモノをつなぐ場をつくる。そんな展開はまだまだ続いていきそうだ。
■大垣市移住支援情報
住居探しなど移住準備にかかる費用の2分の1を補助
“水の都”と呼ばれる大垣市は、駅や便利な施設が点在する中心地から、豊かな自然が広がる里山地域まで幅広い生活スタイルが選べる。“子育て日本一”を目指し、18歳まで医療費が無料になるなど子育て支援が充実。また、大垣市での移住定住活動の際に必要となる交通費や宿泊費、レンタカー代金の補助(上限6万円)もある。
問い合わせ 大垣市都市プロモーション室 ☎︎0584-47-7681
https://www2.city.ogaki.lg.jp/ogakikurasi/
■岐阜県移住支援情報
移住・定住ポータルサイト「ふふふぎふ」がリニューアル
東京・名古屋・大阪の都市圏に「清流の国ぎふ 移住・交流センター」を設置し、移住・定住に関する相談に対応。また、岐阜県の移住に関する情報発信は移住・定住ポータルサイト「ふふふぎふ」にて発信中。昨年度、サイト内の構成やデザインを全面リニューアルし、新たな機能やコンテンツを追加。思わず笑みがこぼれるような情報を提供していく。
問い合わせ 清流の国推進部地域振興課 ☎︎058-272-8078
https://www.gifu-iju.com
物件リポート
手入れされた前庭と菜園が魅力。風情あふれる木造2階建て
関ヶ原インターのほど近く、上石津の牧田地区に立つ和風住宅。
のどかでありながら生活に便利な施設が近辺に揃っているうえ、部屋数の多い間取り、風情ある造りに心ひかれる物件だ。
山水・上水道両方が使えるトイレと風呂が便利
関ヶ原インターの近くは車の往来が激しい場所だが、国道から1本入るとすっかりのどかな雰囲気になる。今回紹介する物件もそんな立地で、上石津の北側、牧田地区門前に位置する。その地名通り、物件近くには歴史ある寺院や神社がたたずむ。
手入れが行き届いた前庭と菜園が目を引く物件は、空き家となった今も所有者がたびたび足を運び、掃除や電気・水道の状況もチェック。補修箇所はほぼないという。強いて言えば玄関廊下のたわみが若干気になるので、事前点検し、必要に応じて修繕したほうがいいだろう。
水道は上水道のほか山水も通っており、トイレや風呂でも使用可能。屋外でも山水が使えるので、菜園の水やりや冬の融雪にも活用できて便利だ。
物件データ
価格 490万円
・土地 142坪・469㎡
・延床 56坪・186㎡
関ヶ原IC、関ヶ原駅へのアクセス良好
●間取り/9DK
●地目/宅地
●地勢/平坦地
●法令制限/不明
●築年数/51年
●トイレ/水洗
●交通/名神高速道路関ヶ原ICより約1.5km
■特徴/1階は田の字形の和室が4部屋と応接室があるなど、部屋数や収納が豊富。庭の菜園のほか、近隣の畑を借りることができる(事前に要相談)。登記料10万円が別途必要。駐車スペースは3台。
問い合わせ 上石津地域事務所地域政策課 ☎0584-45-3113
●補修にかかる費用/玄関廊下の床修理(必要に応じて)金額不明
●地域でかかる費用/自治会費 年1万2000円
●地域の行事/美化運動(年1回)など
大垣市上石津地域の移住サポート
地域政策課が窓口となり、地域の世話役と連携して相談に対応している。地域になじめるように事前に自治会との面談を行うほか移住支援金の紹介などのサポートをしている。
問い合わせ 上石津地域事務所地域政策課 ☎︎0584-45-3113
http://kamiishizu.sakura.ne.jp/houses
文/横澤寛子 写真/田中貴久
※掲載している物件は2021年4月上旬の情報です。すでに契約済みの場合があります。
※空き家バンクは定住を目的としている場合も多く、補助金が交付されるためには各種条件があります。詳しくは各自治体にお問い合わせください。
※敷地面積は田畑や山林などを含まないことがあります。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、見学時期については必ず自治体とご相談ください。
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする