個性的な顔立ちと楽しいおしゃべり、そしてじつは切れ味鋭いダンサーとしての実力! ほかの誰とも代えの利かない本物の個性派俳優、加藤諒さん。世間の話題をさらった前作に続き、その第Ⅱ章である映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』に出演しています。映画のこと、故郷である静岡県への地元愛について、じっくりお話を聞きました。
掲載:2024年1月号
かとう・りょう●1990年2月13日生まれ、静岡県出身。『あっぱれさんま大先生』で子役としてデビュー。舞台、映画化された『パタリロ!』のほか、最近の主な出演作は映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』、ドラマ『ナンバMG 5』(フジテレビ系)など。現在、ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)に出演中。
埼玉解放戦線員役で埼玉に魂を売った!?
「前作では〝出身者を起用〞とアピールしたこともあって、〝加藤諒、静岡出身やん〞とか、静岡の方に〝埼玉に魂を売った!〞と言われたりして。それで2作目に向けて、〝私も出た〜い〞となぜか僕に言ってくださる方が。そんな権限、僕にはないんですけど」
太〜い眉毛をゆがめて困り顔をつくって笑わせる俳優の加藤諒さん。東京から蔑まれていた埼玉県人が、通行手形撤廃に向けて戦いを繰り広げた前作に続き、映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』に出演。埼玉解放戦線員の下川信男を演じた。
「今回初めて、埼玉の多くの方が県民の日にディズニーランドへ行くと知ったのですが、同県出身の(益若)つばさちゃんも、〝そうそうそう〞と。ネタが尽きないってスゴイですよね。それでいて実際、この映画で埼玉に興味を持った方も少なからずいると思うんです。ある〝住みたい街ランキング〞で大宮や浦和が上位に食い込んだり、ランキングがアップしているらしいですし」
物語は前作の3カ月後。埼玉解放戦線を率いる、GACKT演じる麻実麗(あさみれい)は埼玉県人のさらなる結束のため、越谷(こしがや)に海を作ろうと計画。美しい砂を求めて和歌山へ向かう。
関西では大阪府知事・嘉祥寺(かしょうじ)晃とその妻の神戸市長(演じるのは片岡愛之助さん、藤原紀香さん夫婦!)、京都市長(川﨑麻世)の支配下にあり、滋賀、和歌山、奈良の住人らは虐げられていた。
「関西にもヒエラルキーがあるんだなと。それでいて粉モノや新喜劇などのお笑い、琵琶湖、甲子園と、関西って魅力的だな〜と再認識しました」
加藤さん演じる信男も、和歌山行きの船に乗り込む。
「前作では埼玉への地元愛が薄れて自分を卑下し、自信がなさそうな信男でしたが、今回は彼の強さを感じて。闘争心を強めに演じさせていただきました。途中から急に関西弁をしゃべり出すんですけど、ちょっと関西に行っただけで、関西弁が移っちゃう人っていますよね? そんな似非(えせ)っぽさを意識しました」
信男にはこんなシーンも。上半身裸でゴリラみたいに胸板を連打、さらにアルミの灰皿を両手に持ち、自ら頭部をボカスカ殴る。これって、例の?
「〝パチパチパンチ〞と〝ポコポコヘッド〞ですね、吉本新喜劇の島木譲二さんのネタの。それ用に灰皿を2枚買い、動画を観ながら家で練習しました。痛〜い!と思いながら(笑)。でも撮影ではケアしていただいて。底にふわふわのクッションが入った灰皿なのでご安心くださいっ。あれ、しっかり叩かないと音が出ないんですよ。島木さん、どんだけ強く叩いていたのだろう?」
自我喪失の危機に陥る信男を抱き寄せ、麗は「もう大丈夫」と落ち着かせる。加藤さんは、GACKTさんの腕に身を任せる。
「GACKTさんのファンは熱量の高い方が多いので、その方たちの顔が浮かびました。ゴメンなさいね……でも仕事なんで!と(笑)。もちろんGACKTさんの包容力は素晴らしくて。想像の何割も上をいく胸板の厚さでした。お顔も本当に美しい。しかもいい香りがするんです。遠くにいても、今楽屋に入られたな……とわかるくらいで」
完成した映画は全編に、ただごとでないスケールアップ感が。大阪のにぎやかな県民性と相まって、狭〜い地域だけに知られる地元ネタがゴージャスな笑いに彩られ、予想もつかない物語として展開する。
「採掘場につくられた大きなセットは、まるで『インディ・ジョーンズ』の世界に入ったかのようでした。それからブルーバックでの撮影や、〝右! 左!〞という助監督の声の下、呼吸を合わせて大勢で動かなければいけないシーンがあって。現場で試行錯誤しながら頑張ったので、ちゃんとつながっていてよかった……と。できた映画を観たときは感動しました」
いまだに激熱な徳川家康を巡る戦い
今回の『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』では大宮と浦和が壮絶な綱引きバトルを展開する。加藤さんの出身地である静岡にも埼玉並み(?)の〝派閥争い〞があるとか。
「地元は、大河ドラマで話題の徳川家康が晩年を過ごした駿府城(すんぷじょう)の城下町。徳川氏の家紋でもある静岡市〝葵〞区です。徳川家康を巡っては、家康が築造した浜松城のある浜松市と、家康を埋葬した久能山東照宮(くのうざんとうしょうぐう)のある静岡市とで〝合戦〞があって。『どうする家康』の初回放送日には、主演の松本潤さんが静岡市と浜松市で〝出陣式〞と称したイベントに出席しました。その後、松本さんが5月の『浜松まつり』に参加した際には、静岡市民が〝なぜこっちに来ない!?〞と。争いは今なお激熱です(笑)」
家康どころか、もはや松潤の取り合い? さらに「どうする家康 静岡 大河ドラマ館」ができると、なぜか数カ月後に2つ目の「どうする家康 浜松 大河ドラマ館」が完成。また静岡が先に政令指定都市になると「人口は浜松のほうが多いのに、なぜ静岡が先に!?」という過去もあって、静岡 vs 浜松の合戦は長きにわたる。
「地元の静岡市内でもありますよ、静岡駅の北口と南口でも。伊勢丹やパルコがあって栄えているのは北口。奥には高級住宅地もあり、駅北は住みたがる人が多いみたいで。僕ですか? 駅北ですっ!」
やや食い気味に、ドヤ顔で言い切るのにまた笑ってしまう。
「北口には繁華街が広がっていて〝おまち〞と呼ばれています。駿府城公園内には、家康が手植えしたと伝わる〝家康みかん〞という木があるのですが、収穫時期にはおまちで配布イベントをするんです。僕も学校帰りにもらいに行ったりしました。ちょっと苦味があって、ジャムなんかにするとおいしいんです」
静岡といえばお茶とウナギ、だけじゃない!
「〝ハンバーグ熱〞が高いんですよ。県内でチェーン展開するハンバーグ屋さんの『さわやか』が大人気で、3時間待ちなんてことも。それで静岡って、海があって山があって温泉があって。静岡県産マスクメロンの〝クラウンメロン〞、イチゴやミカンも有名です。大井川鐡道ではSLだけでなく、リアル〝きかんしゃトーマス号〞が走っていて。甥っ子や中学時代の友達の子どもとか、みんな行ってます」
静岡県は関東の中心・東京とも関西の中心・大阪とも離れていて、横に長く、静岡市、浜松市と2つの大きな都市がある。〝日本の縮図〞とも呼ばれる。
「それでいて、日本のちょうど真ん中なんですよね。関東風と関西風と、味付けの好みも関ケ原を境に、と言いますし。そのせいなのか、新商品を発売前に静岡県でテスト販売することがよくあって。小中学生のころは、配られた試供品やテスト販売で知っていたお菓子やファストフードの新商品が、後に全国的に発売されて。これ知ってる!ということがよくありました」
なるほど地元ネタが尽きないのは埼玉と同じ。それでいて、故郷への愛情が伝わる。
「静岡の方は地元愛が強いんですよ。大学進学などで一度県外に出ても、戻ってくる人が多くて。静岡って、いろいろな意味でちょうどいいのかもしれません。東京だと人は多いし、遊びに行くにも選択肢が多過ぎる気がします。足りないものをどう補うか? 考えるのも楽しいですしね」
エンターテインメントが救いだった幼少期
加藤さんは一度見たら忘れられない、それくらいに強烈な個性の持ち主。2人のお姉ちゃんに囲まれて育ったという幼少期は、どんな子どもだったのだろう?
「こんな感じです(笑)。おままごとが好きで、今より乙女だったかも。短冊に『人魚姫になりたい』と書き、幼なじみのお母さんに心配されたりしました。それでいて、昔から人を楽しませるのが好きで。よく幼稚園のお誕生日に冠やメダルをつけて撮った写真を貼ったり手形を押したりした、先生お手製の〝お誕生日カード〞をもらいますよね。僕のときはいい写真、いろんなポーズのものがあったせいか、ほかの人よりだいぶ写真が多めでした(笑)」
インタビュー前の写真撮影で次々に繰り出されるポージングを目の当たりにしたので、つい「今と同じですね!」と言うと、「そうなんです。今日もいろいろやらかしちゃいました」と笑う。そんな彼が俳優の道を歩むのはとても自然に思える。
「でも芸能人になろうとは思っていませんでした。ただ姉がダンスをやっていて。自分もやりたくなり、5歳で地元のミュージカルスタジオに入りました。小学生のころはそれこそ吉本新喜劇が大好きで。藤井隆さんの『(モノマネで)ホット! ホット!』とかやっていたんです。初めてテレビに映ったのはローカルCMで、7歳のとき。そうして『あっぱれさんま大先生』のオーディションを受け、いつの間にかこうなった感じです」
当時の加藤さんの動画を観ると、本当に今のまんま。よく映画やドラマで同一人物とわかるよう、子役に特徴的なホクロをつけたりするが、10歳の加藤少年の力強い眼差しの上にはあの太〜い眉毛が!
「そうなんです。幼稚園のころから変わっていません。もっと言うと、赤ちゃんのときのお宮参りの写真がもうこの顔ですもん。かといって家族みんなの眉毛が太いかというとそうではなく、おじいちゃんだけなんですけど」
眉毛が太くて顔の濃い赤ちゃん、って噓でしょ!?
そうしてすくすく育った加藤少年。けれど幼稚園児のころから周囲とはどこか違った男の子だった。
「当時は男の子が、女の子用のものを持つだけでおかしいという時代で。周囲からちょっと浮いていました。でもオーディションに行くと、オネエのようなキャラクターの小学生なんて僕くらいで、周囲の大人が面白がってくださったんですよね。それでこんな僕でも、エンターテインメントの世界では受け入れてもらえる!と」
ダンスの授業になると「諒くん、踊っているときはすごく格好いいよ」「同じチームになろうよ」と引っ張りだこに! エンターテインメントが救いになった。
「今でも、自分がやったことに対して反応があるのがうれしい。〝楽しかったです〞とか〝このお芝居よかった〞という感想はもちろんですが、アンチのコメントでもそう。褒め言葉って意外とバリエーションはない気がしますが、アンチの方というのは〝××のときの顔がめっちゃ気持ち悪かった〞などと、具体的に言ってくださる。アンチの方ほどちゃんと観てくださっていると思うんです。笑えるコメントもあるし……って、ディスられるとなぜか喜ぶ埼玉の人みたい!? 確かに! そうかもしれないですね(笑)」
『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』(配給:東映)
●監督:武内英樹 ●原作:魔夜峰央『comics 翔んで埼玉』(宝島社) ●脚本:徳永友一 ●出演:GACKT、二階堂ふみ、杏、加藤諒、益若つばさ、堀田真由、くっきー!(野性爆弾)、高橋メアリージュン、和久井映美、アキラ100%、朝日奈央、天童よしみ、山村紅葉、モモコ(ハイヒール)、川﨑麻世、藤原紀香、片岡愛之助 ほか ●全国公開中
東京から虐げられた埼玉県人の通行手形撤廃から3カ月。関東に平和が訪れるも、埼玉県人は横のつながりが薄いという問題が浮上する。麻実麗(GACKT)は“日本埼玉化計画”を進めようと、越谷に海をつくることを計画。美しい砂を持ち帰ろうと和歌山に向かった船が、嵐に見舞われる……。
©2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
https://www.tondesaitama.com/
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/杉野智行 スタイリスト/久保田姫月
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