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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

「超複業」で田舎暮らし。シェアハウス、どぶろく製造、わな猟も! 【三重県熊野市】

掲載:2021年6月号

奈良県、和歌山県の県境に近い場所に位置する三重県熊野市の育生(いくせい)地区。ここでの地域おこし協力隊の任務を果たし、育生町生活が4年目になる雨宮さんの職業は農業、シェアハウス・農家民宿経営、どぶろく製造、わな猟……と多岐に渡る。何足ものワラジを履きながらもマイペースに、生き生きと暮らす一家を訪ねた。

三重県熊野市(くまのし)
紀伊半島の南東部に位置する熊野市は、東側は熊野灘に面しているが、紀伊山地が縦横に連なって海岸部まで迫っているため、平野部が少ないのが特徴。気象環境は温暖多雨で年間の平均気温は17℃前後。名古屋駅から熊野市駅へ約2時間50分。新大阪駅から約3時間50分。

 

農場付きシェアハウス「農の家 雨宿り」の前で。雨宮さん夫妻と郁さん(0歳)、愛犬・チャオ。左にあるのは、地元の材木店から安価で譲ってもらった端材。

農の家 雨宿り 三重県熊野市育生町尾川152
https://ikuseiiko.wixsite.com/amayadori

移住地探しの旅で美しい里山に出合う

 熊野市駅より車で北西へ約40分。峠道を越えると、山間の里・育生町にたどり着く。雨宮伸都さん(30歳)・静香さん(30歳)夫妻は2017年に地域おこし協力隊として東京から育生町へ赴任してきた。きっかけは農業をするための移住地探しを兼ねた紀伊半島の旅だった。

「今まで訪れたことがない紀伊半島を、軽トラで北から南へ下り、キャンプをしながら各地の役場を訪ねていったのですが、熊野市では役場の方が畑や空き家に関して親身に相談にのってくださったんです。区長さんの家に連れていってもらい、泊めていただいたり、まちを案内していただいたり。そんななか、地域おこし協力隊をすすめていただきました」と伸都さん。起業を目標とした任務先は育生町。

「山あり川ありで、昔ばなしに出てくるような里山風景に驚き、感動しました」とは静香さん。

 移住前は農業法人に勤め、高知県で独立した経験も持つ伸都さん。しかし、当時は「農業でとにかく成功しなければ」という気持ちが強過ぎて、挫折した経験があったという。

「だからこそ、熊野への移住も不安しかなかったです。でも、地域おこし協力隊という職があったから、移住の決意ができました」と当時を振り返る。

 住居として借りることになった空き家は、水回りの老朽化が進んでいた。しかし、地元の材木店で端材を安価で分けてもらうなどして、自分たちでリノベーション。経験がなくわからないことも多かったが、地域の祭りに参加したり、町内の「童心窯(どうしんがま)」へ陶芸体験に行ったりするなかでリノベーションの悩みを打ち明けると、「教えてやるよ」と域住民が指導してくれることも多々。そのおかげで半年ほどで民泊許可が取得でき、まずはシェアハウスを開業。2020年12月には地域おこし協力隊を任期満了で卒業。農家民宿も開業し、農業との両立を図っていった。

シェアハウスの共用スペースにて滞在者さんと。料金は月3万円。滞在期間中は農場利用や養蜂などができ、1カ月以上の滞在には地域の川で川魚が釣れる漁業権(年間券)が付く。

伸都さんが「師匠」と慕う陶芸体験施設「童心窯」の橋詰洋司さん(75歳)。穴窯は橋詰さんが独学で一からつくり上げたもので、5月と11月の年2回、窯焼きを行う際は、雨宮さんたちも手伝いをするという。

「童心窯」で焼き上げた雨宮さん夫妻の作品。

 農作物は野菜と米、ハーブを有機農法で栽培。「自分たちが食べる最低限の量は確保したい」と少量多品目を栽培し、シェアハウスの入居者も自由に収穫することができる仕組みをつくっている。卸は大々的には行っていないが、有機栽培野菜が評判を呼び、市内の飲食店に納品することも。取材時は端境期ということもあり、農作業はほぼ休業。代わりに、農家民宿に薪ストーブを取り付けるなど改装作業に専念していた。民泊という収入源があることで、農業に安心して取り組めているようだ。

 さらに育生町は、どぶろく・果実酒・リキュール特区でもあり、大森神社では毎年11月、どぶろく祭りを開催。その手伝いをするうちに、伸都さんは雇われ杜氏として、どぶろくづくりにも携わることになった。最近は熊野市を拠点に活動するirokuma kidsとコラボ企画も開催する。今後の展望を伺うと、こう教えてくれた。

「ただ人を泊めるだけでなく、民泊を通して地域との交流を深めていきたいですね」

シェアハウス横にはタケと廃材を活用した温室があり、野菜の苗を育成している。「苗をなでると植物ホルモンが発生して、成長がうながされるんですよ」と伸都さん。

端境期で種類が少ないとはいえ、町内に点在する畑からはニンジンやネギが収穫できた。

静香さんが地元住人のクチコミを集めて描いた育生町周辺マップ。絵本のような色調で、眺めているだけで楽しくなる。

日課は愛犬・チャオの散歩。背景に見える山の右側はかつて行者たちが修行を重ねた場所・大丹倉(おおにぐら)、左は天空の集落・育生町粉所(こどころ)。

■熊野市移住支援情報

住居・仕事・子育てなど、移住相談にワンストップで対応

移住相談は1つの窓口できめ細かく対応。空き家バンクをはじめとした現地見学については、新型コロナウイルス感染症再拡大の影響を考えて基本的に休止しているが、Webの問い合わせフォームから移住に関する具体的な質問や家族構成などを送るのがオススメ。状況に合わせてオンラインなどでの移住相談や物件見学などに対応してもらえる。
(問) 熊野市市長公室 ☎0597-89-4111
https://kumanoijunet.jimdofree.com

熊野市内の里山の風景。山間に沈む夕日は幻想的で美しい。

■三重県移住支援情報

移住・就職相談アドバイザーがきめ細かに対応

日本のほぼ中央、紀伊半島の東側に位置する三重県。東京・有楽町「ええとこやんか三重 移住相談センター」では、移住・就職相談アドバイザーがきめ細かな相談を実施。また、東京・大阪・名古屋でも定期的に相談会を行っている。
(問)三重県地域支援課 ☎059-224-2420
https://www.ijyu.pref.mie.lg.jp

観光地として知られる鳥羽市の風景。

7月18日(日)には、観光地として有名な伊勢志摩地域での暮らしをテーマにした移住相談セミナーを開催予定。写真は、東京の移住セミナーの様子。

文/横澤寛子 写真/松原 豊

※新型コロナウイルスの影響により、イベントが延期や中止、変更になる可能性があります。

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