【地方創生SDGs】太陽光を軸とした電力会社を設立。農福連携でイモエネルギーも活用【滋賀県湖南市】

自治体地域新電力会社である「こなんウルトラパワー株式会社」を核に、太陽光をはじめ新たな自然エネルギーを活用した持続可能なまちづくりを推進している湖南市。さらに、若者が継続的にまちづくりに参画できるSDGs教育にも注目したい。

掲載：2023年12月号

【滋賀県湖南市（こなんし）】
滋賀県南部に位置する湖南市は、水と緑に囲まれた地域。気候が温暖なうえに、野洲川を中心に開けた平野に恵まれたこともあって、さまざまな産業と文化を育んできた。名神高速道路やJR草津線などの交通基盤が整っており、京阪神のベッドタウンとして住宅地開発が進んだ。さらに県下有数の工業団地も立地している。

地域の資源を生かし福祉と連携した取り組み

市内の福祉事業所などで組織する「こなんイモ・夢づくり協議会」とこなんウルトラパワー株式会社が連携。近畿大学生物理工学部の鈴木高広教授が提唱する、空中栽培方式によるサツマイモを使用したイモエネルギーの活用に取り組んでおり、農業・福祉・エネルギーをつなぐまちづくりとして注目が集まる。

　2020年7月、湖南市は「さりげない支えあいのまちづくりこなんSDGｓ未来都市の実現【シュタットベルケ構想】」を提案し、「SDGｓ未来都市」に選定された。シュタットベルケとはドイツ語で、エネルギーを中心とした地域の公共サービスを担う会社を指すが、湖南市が自然エネルギーの活用事業を開始したのは、SDGs未来都市に選定されるよりも前。1997年、全国に先駆けて地域の市民団体「いしべに市民共同発電所をつくる会」が市民出資型の共同発電所「てんとうむし1号」を設置するなど、自然エネルギーに対する市民主導の取り組みを展開してきた。

　そして、16年5月には官民連携による自治体地域新電力会社「こなんウルトラパワー株式会社」を設立。同年10月から公共施設および民間施設への電力供給を実施している。エネルギー源は、太陽光が中心。ソーラーパネルは、市内の公共施設や公共用地の屋根を活用するほか、駐車場にカーポートのような屋根を設置するなど、スペースを有効活用。遊休農地も活用しているが、ただ単にソーラーパネルを設置するだけでなく、農地を立体的に活用し、エネルギーと作物を同時につくるソーラーシェアリングを実践している。これらの市民共同発電所や自前発電所から同社が電力を調達、そして地域内の需要家に電力を供給する流れになっている。

こなんウルトラパワー株式会社の資金で、公共施設に太陽光発電と蓄電池を導入。災害時など非常時の電源にもなる。

農業や林業の新たな担い手づくりにも取り組む。「こなん木のえきフェスティバル」では、木の伐採見学や薪割り体験が行われた。

「電気は自家消費が中心ですが、調達した電力を販売することで得られた収益は公共施設にLED照明を導入するなど、省エネルギー化を図るための設備投資に使用し、市民の利便性向上につながっています。脱炭素に取り組み、地球温暖化防止に貢献するだけでなく、地域の中でお金が回る仕組みづくりをしているのです」

　そう教えてくれたのは、同社代表取締役副社長の芦刈義孝さん。今後は周辺の森林を活かし、林業事業者と福祉作業所との連携から生み出された木質バイオマス材の活用を視野に入れているという。前出のソーラーシェアリングでは、福祉施設と連携して空中イモ栽培を行うなど、農地を有効活用してCO2の削減に取り組む。また、こなんイモ・夢づくり協議会ではイモからメタンガスを発生させて発電する実験も行っているが、現時点では「携帯電話を充電できる程度のエネルギーで、実用化はまだ難しい」とのこと。とはいえ、新たな可能性が見いだせそうだ。こういった福祉と林業、農業が絡む「林福連携」「農福連携」に盛んに取り組んでいることも特筆すべき点だ。

　さらに、SDGｓ教育にも注目したい。湖南市では、市民連続講座で地域内循環を学ぶほか、中学生・高校生・大学生を対象とした「こなんSDGsカレッジ」を開催。湖南を舞台に、さまざまな職業の見学や参加者同士のディスカッション、プロジェクトの企画から実行までを行い、自分のやりたいこと、地域とのかかわり方や可能性を追求。若者が継続的にまちづくりに参画できる仕組みをつくる。未来の湖南市に期待が高まる。

2023年に開催された、市内伝統野菜「東寺献上ごぼう」の収穫体験。