有名な俳優ではなく、一介の若造として
――東出さんの生活にとても興味があるので、いきなりいろいろと聞いてしまいましたが、あらためましてよろしくお願いします。 映画『WILL』はとても面白かったです。びっくりすることが多くて。東出さんのこれまでの経歴、そして様々な出来事を経ての山暮らしと聞くと、“世捨て人”とか“孤独”とかいうキーワードが頭に浮かびがちですけど、映画を観て、まずその思い込みがぶち壊されました。全然、孤独じゃない。っていうか、むしろ都会で暮らすより濃厚な人間関係の中で生活してるように見えました。
「古き良き人間関係があると思います。年配の方が、『若造がいるから、面倒見てやるぞ』って、いい意味での上から目線で接してくれるんです。『野菜、持ってけ』とか、『いいからお前、これ乗れ』って軽トラをくれたり。そういうことがすごく多くて、本当にありがたいです」
――映画を観て感じましたが、“俳優の東出さん”としてではなく、そういう受け入れられ方をされてるんですね。
「そうですね、うん。『“役者・東出”って言われてもな、俺はお前が出てるのなんて、見たことねえし』みたいな(笑)。『“水戸黄門”にはいつ出るんだとか、“鬼平犯科帳”には出ないのか?』って(笑)。そういう時代劇が好きな年代の方ばかりですから」
古き良き人間関係の中で暮らすことの意味
――映画の冒頭で少しドキッとしたんですけど、東出さんのスキャンダルに関しても、仲間の方が笑い飛ばしていたりして。
「あれは横浜に住んでいる僕の師匠で、服部文祥さんという方です。古民家を買い取り、自分で直しながら住んでいて、自分の集落にはエンジンが付いたものを持ち込まないと言いながら生活しているような方なんですよ」
――そうなんですね。映画の中ではその方とも、また今のお住まいの近隣の方とも、あまり細かいことは気にせず、言いたいことを言い合ってるように見えて、正直いいなと思いました。そういう関係の人が身近にいるというのは、心地いいものですか?
「心地いいですねえ。なんだか昭和で止まってるなと実感しています(笑)」
――古き良き人間関係ですね。
「僕が住んでいるところから、 山ひとつ登って尾根を下ったところに違う集落があるんですけど、そこにかなり気が短くて、いろいろととんでもないことをやらかす人が住んでいるんです。もしもその人が東京に住んでいたら、すぐに通報されたり、周囲から関係を断たれるのではないかと思うんですけど、こっちではみんな『あいつは、どうしようもねえ』って言いながら、なんだかんだ存在を認めてるんですよ。そういうのも、なんだか落語みたいだなと思って」
――“与太者”も、世間の一員と見なすような世界ですね。
「そんなおおらかさがあります。安心・安全を最優先する現代の世界観からすると、非常識な話ですけど。その人をめぐっては、ちょっとここでは言えないようなことをされたり、こっちはこっちでとんでもない冗談を言い合ったりしてるんですけど。でもね、ほんとに人間なんてそんなものですよ。いろんな人がいて、それを受け入れていくのがもともとの社会だったんだと思うけど、 今はそういうのを受け入れられない人が多くなっちゃったんだろうなと思います」
東出昌大主演 ドキュメンタリー映画『WILL』
©2024 SPACE SHOWER FILMS
俳優・東出昌大は猟銃を持ち、山へ向かった。電気も水道もない状態での暮らし。狩猟で獲った鹿やイノシシを食べ、地元の人々と触れ合う日々は、彼に何をもたらしたのか――。
残酷すぎる世界で生きる意志(WILL)を呼び起こす、魂の140分。
『WILL』
出演:東出昌大
服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也
音楽・出演:MOROHA
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
プロデューサー:高根順次
2024年|日本|カラー|ビスタ|140分|DCP|映倫審査区分:G
製作・配給・宣伝: SPACE SHOWER FILMS
公式HP:https://will-film.com/
公式X:@WILL_movie0216
撮影:大村聡志 取材・文:佐藤誠二朗
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この記事を書いた人
佐藤誠二朗
さとう せいじろう <編集者/ライター、コラムニスト> ●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000~2009年は「smart」編集長を務める。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』(集英社)はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。その他、『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物も多数。最新作『山の家のスローバラード 東京⇄山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』(百年舎)が好評発売中。
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