笑っている父親を増やすことを目的として、13年前よりスタートした四日市市の取り組みが、父親の子育てマイスター養成講座。約半年かけて家事・育児に必要な知識を養うだけでなく、父親のネットワークもつくることができる。そんな画期的な取り組みを取材した。
掲載:2024年1月号
三重県四日市市 よっかいちし
三重県北部に位置する四日市市は、石油コンビナートや半導体メモリ製造工場などが集積する産業都市として知られる。また、官公庁や商業施設が点在する中心地・近鉄四日市駅からは名古屋まで電車で約35分と好アクセス。一方、市街地から離れると、里山や茶畑が広がるエリアもあり、自然を満喫することもできるのが魅力だ。
楽しい講座を通して父親の育児を応援
「イクメン」という言葉が流行語になり、かれこれ10年以上が経過した。その言葉は広まり、男性育児の推進にも一役買っていると思われる。しかし、「子育てに参加したいけど、正直、何をやったらいいのかわからない」という父親は依然として多いのではないだろうか。
そんなパパの育児参画を応援する制度が三重県四日市市にはある。「父親の子育てマイスター養成講座」だ。講座が誕生したのは2010年。四日市市では、父親がより積極的に子育てに参画できる社会の実現を目指して、市が独自に企画立案したこの養成講座が開かれることになった。
第1期の募集がかけられた当時は、今ほどスマートフォンやSNSが普及しておらず、告知は広報紙のみ。だが、25人の参加者が集まったという。1期生として参加した永野元さんに参加のきっかけを伺うと、「子育てをしていくなかで、自分がほかにできることがないのか、自分が子どもときちんとかかわれているのかがわからず、客観的に知りたいという思いが強かったですね。また、子育てに積極的なお父さんとも知り合いになりたいと思いました」
同じ1期生の宮崎秀樹さんは、「当時の自分は、子育てをやっているつもりでいました。でも知人に誘われて参加した講座で家事の話を聞き、自分はごみ捨てさえもできていなかったのだと気づかされました。頭を殴られたような感覚でしたね」
また、四日市市は大手企業の工場が点在し、転勤族が多い地域。見知らぬ土地での子育てに、夫婦で不安を覚える人も少なくない。父親の子育てマイスター養成講座では、約半数が県外出身の参加者なのだそう。3期生の佐藤保幸さんもその1人だ。
「九州出身で、四日市には転勤で来ています。当時、知り合いがほとんどいない状況で、会話できるのは職場の人だけ。そのため業種が違うパパと交流をしたくて応募を決意しました」
半導体メーカーに勤める佐藤さんだが、同期で保育士の小島和人さんと意気投合し、今でも家族ぐるみで付き合いが続いているという。そんな小島さんも応募動機は同様だと語る。
「保育士という職業柄、ある程度子育ての知識はあったのですが、職場は女性が多いので、違う目線で子育ての会話ができるパパ友が単純にほしかったんですよね。それに妻が四日市市外の出身で、地域に知り合いが少なかったので、自分にパパ友ができれば、妻にも新しい交流が生まれるかなと思いました」
講座内容は時代の流れとともに変遷はあるものの、親子ふれあい遊び、お掃除講座、父親同士のグループトークなど、講座の受講や父親同士の交流を通じて「共感」と「気づき」を得られる内容。全5回の実施で、すべて受講し終えたら、マイスター認定証が授与される。特筆すべき点は、ママ向け講座が同時開催されていること。父親が子育ての勉強をしている間、お菓子づくりを楽しんだり、ヨガでリラックスしたり、「自分の時間を満喫できる」と好評。託児会場が用意されていることもポイントだ。また、家族で参加することで、父親がどのようなことを学んでいるのかを知ることができるので、家族間で信頼が生まれるケースも多い。取材に応じてくれた4人も、「今では妻から〝安心してパパに子どもを任せられる〞と言ってもらえるんです」と声を揃える。
父親の子育てマイスター養成講座の講座風景。写真は「ママも喜ぶ!パパッと簡単お掃除講座」の講義の様子。
父親の子育てマイスター養成講座と同時開催しているママ講座。父親の子育てマイスター養成講座参加者の妻を対象に行うもので、ママは子育てから離れて自分の時間を楽しめる。写真はアイシングクッキーづくりの様子と、パステルアートの見本の作品(下)。
四日市市のすごい! パパ向けのサポート➀
父親の子育てマイスター養成講座
市内に在住・在勤していて、子育てに興味のある男性を対象にした講座。合計5回開催される連続講座で、子育てに関する講演会、親子のふれあい遊び、おそうじ講座、救急講座などを実施。パパが養成講座を受けている間は、ママ向け講座や託児もある。家族で参加できるので安心だ。
講座開催時に毎回用意される託児会場。
四日市市のすごい! パパ向けのサポート②
パパによるパパのための子育て団体「パパスマイル四日市」
「父親の子育てマイスター養成講座」の修了生、つまりマイスターたちが立ち上げたグループ。2014年1月より活動を開始し、パパと子どもを中心に、自分たちも楽しめる交流イベントを開催。ときには、四日市市以外の行政や団体が実施する講座で講師を務めることもある。
https://www.facebook.com/yokkaichipapa
四日市市役所にて活動内容を話してくれた「パパスマイル四日市」のメンバー。右から永野さん、佐藤さん、小島さん、宮崎さんと、こども未来課の藤塚さん、須藤さん。
メンバーが中心になって制作した四日市市父親の子育て情報誌の第3弾『よかパパスイッチEX』。
講座の修了生で構成される「パパスマイル四日市」
父親の子育てマイスター養成講座の修了生で構成されるのが「パパスマイル四日市」。14年に「ファザーリング全国フォーラム in みえ」が四日市市で開催されるのを機に、同年1月から結成されたパパサークルなのだが、活動内容は多岐にわたる。
市内には自然豊かな場所が多いため、家族ぐるみでハイキングや潮干狩りをしたりと、屋外遊びを楽しむことが多いという。また、料理が得意な父親が親子料理教室を実施するなど、それぞれの得意分野を生かしてイベントを企画しているのも特徴だ。そのため、自分の家族だけではできないことを子どもが体験でき、興味の幅を広げる機会を生み出している。最近ではその活動に注目が集まり、講演の依頼が入ることも。月1回ほど四日市市が開催する「よかパパひろば」で、よかパパ相談員として相談に乗るメンバーもいる。
「自分たちが子育てマイスター養成講座に参加したころと比べ、今はお父さんの子育てに対する意識が変わっています。それだけに、真剣に悩んでいる方も多いのです。相談といっていますが、雑談レベルで会話して、気持ちを楽にしてもらえれば」
同企画では、毎月の親子遊びも好評で、四日市市内だけでなく、県外の名古屋市からわざわざ足を運ぶ人もいるという。
四日市市から依頼を受け、協働で父親向けの冊子も制作している。現在の冊子で3冊目となるが、常に「情報の再インストール」を心がけている姿勢にも脱帽だ。冊子にある「パパのステップアップ10カ条」も内容を更新しているが、現在掲載されているものは、長年パパを経験していくなかで導き出した〝今の答え〞だという。この10カ条の1番目に記載されているのが「何よりもまずコミュニケーション!」。父親の子育てマイスター養成講座に参加して、「以前より家族間でコミュニケーションが生まれた」と、メンバーは強く実感しているのだ。
家事・育児の知識をつけるだけでなく、そんな気づきや仲間をつくってくれた講座。「今後も活動はゆるく、楽しく続けていきたい」と語ってくれた。
パパスマイル四日市は四日市市と協働で事業をするほか、随時行っている「公園で遊ぼう会」や、ハイキング、キャンプといったお出かけイベントも開催。
焚き火をして焼き芋づくりを体験した。ほかに、パパだけで食事をしながら雑談する「夜の部」も開催。気分転換になるだけでなく、異業種交流ができて自分の知識を広げることができると好評だ。
近隣の海で潮干狩りを楽しんだことも。海や山が近くにあるのも四日市市の魅力。
四日市市のすごい! パパ向けのサポート③
月1回の交流の場「よかパパひろば」
子どもと保護者を対象とした親子遊びに加え、父親の子育て相談員(よかパパ相談員)による子育て相談を組み合わせた行事「よかパパひろば」。月1回程度の開催で、土曜、日曜または祝日に、四日市市こども子育て交流プラザで行われている。
「よかパパひろば」では、父親の子育てマイスターがよかパパ相談員として活躍。毎月、読み聞かせ、親子体操などさまざまな内容で展開している。
「よかパパひろば」が行われる、四日市市こども子育て交流プラザの会場。
四日市市こども子育て交流プラザは、橋北交流会館4階にある児童館機能と子育て支援機能を併せ持つ施設。子育て支援団体の活動拠点としても活用されている。
四日市市の子育て支援
出産から中学生修了までを中心とした子育て支援が充実。第2子以降の子が生まれたら、上の子の一時保育と病児保育の利用料が2回まで無料になる「保育無料券」を発行するなど、子育て中の負担を軽減するための「第2子以降子育てレスパイトケア事業」にも力を入れている。
- 病児保育室を県下最多となる4カ所設置
- 24時間予約可能な病児保育予約受付システム「あずかるこちゃん」
- 保育料の第3子以降の無償化
- 市立の幼児教育センターを開設
- 結婚を希望する人を対象としたセミナー・イベントの開催
- 結婚祝金の交付
チェックしながら使える子育てカレンダーや支援情報、災害対策、お出かけMAPなど、情報が満載の『よっかいち子育てガイドブック』。
「『あずかるこちゃん』は21年より導入しました。24時間予約可能になったことで、三重県ベスト育児制度賞を受賞しています」
こども未来課 須藤麻耶さん、 藤塚美樹さん(右)
四日市市には楽しい遊び場がいっぱい!
南部丘陵公園
丘陵地の地形を生かして整備された四日市市最大の総合公園。大きな芝生広場にはユニークな遊具があるほか、小動物園があり、ヒツジやヤギなどとのふれあいが楽しめる。
霞☆ゆめくじら
野球場、プールなど多彩な施設が集積した霞ヶ浦緑地にある公園。宝島をイメージした広場には、名前にもなっているクジラの形をしたドームや、全長 48m のローラー滑り台など楽しい遊具がたくさんある。
そらんぽ四日市
近鉄四日市駅前にある、「四日市市立博物館・プラネタリウム」「四日市公害と環境未来館」の総称。子ども博物館教室が開催されるほか、プラネタリウムでは、ファミリー番組も投映している。
四日市スポーツランド
本格的なアスレチックコースをはじめ、レンタサイクル、スーパースライダー、ローラースケート場、デイキャンプ場、ちびっこプールなどがあるレクリエーション施設。春にはサクラが楽しめる。
四日市市の移住支援情報
手厚い移住支援金で移住者歓迎! 2人以上の世帯に100万円+加算も
東京23区の在住者または在勤者が四日市市へ移住すると、単身者に60万円、2人以上の世帯に100万円を支給。さらに18歳未満の世帯員と移住した場合は、1人につき30万円の加算もある。ほかにも子育て・若年夫婦世帯が対象の「住み替え支援事業」や、「空き家・空き地バンク」制度などを整備し、移住者を受け入れ中だ。
問い合わせ先/四日市市観光交流課 ☎️059-354-8286
水沢(すいざわ)地区は、全国有数の「かぶせ茶」の生産地としても知られている。
四日市市マスコットキャラクター こにゅうどうくん
「全国有数の産業都市で、自然環境にも恵まれた暮らしやすいまちです!」(観光交流課 担当者)
文/横澤寛子 写真提供/四日市市、パパスマイル四日市
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