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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

村上弘明さんインタビュー後編「子どもたち以上に、自然との触れ合いが僕には必要だったのかもしれません」

長崎県佐世保市にある別荘で、自然と触れ合い、家族との時間を楽しむ俳優の村上弘明さん。自然のなかで過ごすことで価値観が変化し、自らのルーツでもある岩手県陸前高田市への思いも強くなったといいます。インタビューの後編をお届けします。

掲載:2020年10月号(※年齢および内容は本誌掲載当時のものです)

(※前編の記事はこちら 村上弘明さんインタビュー前編「夕日を見るためにあるような場所に、別荘を建てました」

村上さんの日課はジョギング。坂道を上るのはキツそう、だけど笑顔。写真提供/村上 都さん

 

人間本来の感性や価値観は自然との触れ合いで育つ

別荘で過ごす時間だけでなく、ときには家族でキャンプに行く。
「自然のなかで過ごすと、日常で必要と思っていたものが必要でなくなったり、世間の流れに身を任せていた自分に気づいたりして価値観が変わるんですよ。物質的にも精神的にもそう。自分はなんのために生きてる? 何をしたい?と考えさせる場でもあります。震災でもそうしたことを教え諭された気がします」
 
東日本大震災で、岩手県陸前高田市にあった実家が被災した村上さんはそう振り返る。家やモノに囲まれた暮らし、ずっと続くと思った日常は一瞬で崩壊。むき出しになったように感じる自分を見つめ、改めて考える。本当に大事なものは?
 
あのとき確かに、誰もが思いをはせた。
「キャンプをしながら過去を振り返り、たどってきた道を思うと、自分の人生もまんざら……なかなかすてきじゃない?と肯定的になります。自然との触れ合いには、そんなセラピーのような効果もある気がしますね」
 
50歳になってスキーも始めた。リフトに乗りながら「雪が積もった木の枝は毛細血管のよう。地球上のものには規律があるんだな」と感性で自然に反応し、観念的な物思いにふける。

思索はさらに深化していく。
「考えてみると都会というのは機械のリズムに支配されてますよね。それで田舎は日が出て日が沈む、自然のリズム。海のそばで育った僕ならバッシャーンしゃばしゃば……という波の音、母親のおなかの中にいたときから聞いた地球のリズムです。それが都会ではカチカチと進むデジタルなリズムに変わり、そこに人はストレスを感じるわけです。コンクリートも建物も人間がつくったもので平面的で無機質。自然のなかのように風にそよいで葉が揺れ動くリズムに心ひかれたり、取り巻くすべてに命があるわけではありません。自分も機械化されたようで、そんな自分に疑問を持たずに与えられた仕事をこなすしかない。そんななかで、自分はどう生きたら?なんて考えは浮かびませんよ。自分でモノを考える、人間が本来持つ感性や価値観は自然との触れ合いで培われるんだなと」

そうした思いのルーツはやはり、陸前高田の記憶。故郷への思いは震災で強まる。自分に何かできることは? そんな思いいが岩手をPRする「いわて☆はまらいん特使」の活動へとつながる。

「〝はまる〞は方言で、一緒にやりませんか?という意味。岩手は自然が豊かで、岩手の人は自然を大切にします。自然環境が厳しい寒いところに暮らす人間は、自然に畏敬の念を抱く。美しくて素晴らしい恵みをもたらす一方、人間が太刀打ちできないすさまじいエネルギーを常日頃から感じていて、自然の領域を侵そうとはしません。特使の名にはそうした自然との距離感に、あなたもはまらいん?という思いが込められているのです」

近くの川で泳ぐ村上さんと次男くん。これは楽しそう! 写真提供/村上 都さん

2014年から岩手県のPR特使「いわて☆はまらいん特使」に。PR動画では村上さんが原敬(はらたかし)や田中舘愛橘(たなかだてあいきつ)ら、岩手県出身の偉人を演じる。「いわてとあなたが、つながるページ」 写真提供/岩手県広聴広報課

 

夫婦円満の秘訣は、お互いを認め合うこと

俳優という仕事がきっと天職である村上さんを支えるのは奥さまの都さん。1991年に村上さんと結婚、22歳でスパッとモデルを引退して家庭に入る。結婚前からデートの送迎は都さんの運転で。もちろん、佐世保へ行くときも。つい最近まで電車の乗り方も知らず、いまだに電子レンジも使えない、「宇宙人みたい」な村上さんをしっかりと支える。

「時間のやりくりは、そばで見ていて本当にスゴイ。子ども4人はそれぞれに好きなことをやらせていたので、塾やら習い事がバラバラで。小さいころはその送り迎えや弁当づくり、家事もあって、それが毎日続くんですから! それでやっぱり、夫婦はお互いを認め合うことが大事だなと。僕は最初〝お金を稼ぐ人間が偉い〞という、まさに都会の何かに毒された価値観で。それが自然のなかでバランス感覚が育ったのか、非常に変わったと思います。子どもたち以上に、自然との触れ合いが僕には必要だったのかもしれませんね」
 

仕事があるので東京の拠点は必要、子どもが大きくなったら佐世保との半々の生活がいいかも? そろそろ、終の棲家について考えたりするのだろうか。
「僕はやはり海が好きなんです。カミさんに言わせると、両親が暮らす伊豆へ車で行くときも、海が見えてくると僕の顔つきが変わるらしいです。そんなつもりはないんですけど。だから目の前に海がある家に住み、朝はサーフィンをして目を覚まし、それから仕事にとりかかる。そんな暮らしができたら最高だな、と思っているんですよね」

2年前の誕生日に、奥さまとの2ショット(公式Twitt erより)。

別荘のデッキの掃除をするのは高校1年生の次男くん。写真提供/村上 都さん

むらかみ・ひろあき●1956年生まれ、岩手県陸前高田市出身。1979年『もう頬づえはつかない』で映画デビュー。NHK大河ドラマ『春の波涛』『武田信玄』『炎立つ』『秀吉』『元禄繚乱』『八重の桜』ほか、『必殺仕事人Ⅴ』シリーズ、『柳生十兵衛七番勝負』シリーズなど、出演作多数。

文/浅見祥子 

 

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