SDGsという言葉がないころから、その理念の一部を取り入れていた上勝町。自然の恵みを有効活用したり、分別とリサイクルでごみゼロを目指すなどのこれまでの取り組みと、それが地域にもたらすものをリポートしよう。
掲載:2024年2月号
徳島県上勝町(かみかつちょう)
勝浦川とその支流が深い谷を刻む山里で、標高100~700mの間に55の集落が点在している。急傾斜の山肌に石積みで築かれた階段状の田畑の景観が高く評価され、日本の棚田百選や重要文化的景観に選定されている。「日本で最も美しい村」連合に加盟。人口約1400人。写真は大きな集落の1つ、正木地区。徳島阿波おどり空港から車で約1時間10分。
危機からの町の取り組み
2020年完成のゼロ・ウェイストセンター。「窓枠もリユースで使われ、すてきな建物になった」と企画環境課の菅 翠さん。
SDGsが広まる前から、上勝町は「葉っぱビジネス」や「ゼロ・ウェイスト」などSDGsに該当することをやってきた。「葉っぱビジネス」とは「つまもの」の生産・販売を手がける事業。きっかけは33年前、特産のミカンの木が冷害で全滅したことだった。今では農家約150軒、年商2億円前後と、町の主要産業となっている。
ごみの焼却や埋め立てからの脱却とごみの減量を推進する「ゼロ・ウェイスト」も、待ったなしが起源。昔は野焼きや焼却炉でごみ処理をしていた上勝町だが、環境への悪影響や財政上の理由からごみの分別とリサイクルに舵をきった。生ごみ用コンポスト購入補助を第一歩に、1997年から持ち込みでの9分別の資源回収を開始。焼却炉閉鎖から2年後の2002年に34分別へ、その翌年には国内自治体初のゼロ・ウェイスト宣言をする。05年には「NPO法人 ゼロ・ウェイストアカデミー」がごみ関連の事業を行政と二人三脚で担うようになり、リサイクルやリユースがさらに前進。16年に45分別へ、そしてリサイクル率80%を達成していく。
しかし、細かな分別に加えて持ち込みだと、住民から不満は出なかったのだろうか?
「下地がありました」とは、上勝町企画環境課の菅 翠さん。
「町づくりを〝自分のこと化〞する『1Q運動会』という住民活動が盛んでしたから」
それは1993年に始まり、集落ごとに住民主体で地域の課題解決、例えば雑木の伐採やバス停の改修などを、競争のように楽しもうというもの。
「ごみに関して意見はありましたが、自分たちの町づくりとしてスムーズに進みました」
負担感を町は理解していて、いろんな工夫をしている。
「資源の分別で1ポイント付き、ポイント数に応じて商品と交換できる『ちりつもポイントサービス』があります。商品を用意する予算は、資源ごみのリサイクルでの収入なんです」
手前の曲線部分がごみのストックヤード。上空から見ると、この建物は「?」の形。
ゴミステーションでは13種類45分別をわかりやすく表記。町民の持ち込み時間以降(月~金曜14時~17時、土・日曜15時30分~17時) は見学可。
ゼロ・ウェイストセンターのゴミステーションにごみを持ってきた町民。町内の生ごみ以外はすべてここに持ち込まれる。ごみ収集車は走っていない。©上勝町
分別表示板には、そのごみ1kgの処理にかかる支出または収入と、何にリサイクルされるかを表記。ごみ出しのモチベーションを上げている。
また、ゼロ・ウェイストに取り組む町内店舗の認証も進めている。上勝町には年間約2000人の視察があり、彼らが食事をするときなどは認証店を選んでいるという。ごみゼロやリサイクルにひかれて、移住を考える人や、町に宿泊する観光客も少なくない。ゼロ・ウェイストが人や経済の流れを起こしているのだ。
そして、視察の多さは、住民に変化をもたらしている。
「町外の人に注目されて人生に張りが出るという人もいます」
と菅さん。それは地域の誇りになっていくのだろう。
上勝町では、教育にもエコロジカルな姿勢が反映されている。保育園の子どもたちは田畑で米や野菜を栽培、収穫物は給食になる。中学校では脱炭素の取り組みもあると菅さん。
「教室の暖房は薪ストーブ。中学生は山で木を間伐して薪にします。この町では子どもの環境意識が育まれやすいかも」
何年もSDGsなことをやってきた上勝町。その今の姿は、SDGsが地域活性化をもたらすことを教えている。
「くるくるショップ」の大型リユース品の展示スペース。リユース品の持ち込みは町民のみだが、持ち帰りは誰でもOKだ。
不要品として持ち込まれたが、まだまだ使えるものがたくさんある「くるくるショップ」。店内の商品も町外の人でも持ち帰り可。
ゼロ・ウェイストセンターの、誰でも使えるフリースペース。小さなライブラリーやキッズスペースがある。外には広い芝生広場が。
上勝町のSDGs ここがスゴイ!
ゼロ・ウェイストが日常にある暮らしと、恵まれた自然環境が、子どもたちにさまざまな教育の機会を提供。
- 中学校は薪ストーブの暖房で脱炭素。薪の調達も中学生が
- 保育園で子どもたちは農業体験。栽培から食べるまでの食育あり
- 保育園では川遊びも。自然の中でたくましさを身につける
- 住民票はそのままで地方と都市の学校を行き来できる「デュアルスクール」も
「ぜひ上勝町を訪れて、ゼロ・ウェイストを体験してみてください!」(企画環境課 菅 翠さん)
【上勝町のここがオススメ!】
ゼロ・ウェイストセンターの宿泊施設「HOTEL WHY」。宿泊者にはスタッフによる施設紹介や上勝町のゼロ・ウェイスト解説のツアーあり。
上勝町の葉っぱビジネス。日本料理を彩る季節の葉や花、山菜などを栽培・販売する。©いろどり
上勝町 移住支援情報
町づくりへのかかわりを実感できる上勝での暮らし
人口約1400人の小さな町だが、葉っぱビジネスとして有名な彩(いろどり)をはじめ、ごみや無駄を減らす「ゼロ・ウェイスト」の取り組みに魅力を感じての移住が増加中! 年齢や性別関係なく、みんなで助け合いながらの暮らしのなかには、昔ながらの知恵や工夫を学んだり、自らが町づくりにかかわっていることを実感する機会も多い。移住を検討している方にはお試し暮らし体験施設も用意している。
問い合わせ/上勝町移住交流支援センター ☎0885-46-0111
最大7部屋のシェアハウスのほか、一戸建ての長期用お試し暮らし体験施設も整備。
「どんなことでもお気軽にご相談ください」(上勝町移住交流支援センター 安田知春さん)
文・写真/大村嘉正 写真提供/上勝町
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