日本三大銅山の1つであった別子銅山(べっしどうざん)とともに、四国屈指の工業都市として発展してきた新居浜市。明治のころから関連企業や市民が一丸となり公害や環境問題を乗り越えてきた。そして今、持続可能な社会へのさらなる取り組みが走り出している。
掲載:2024年2月号
愛媛県新居浜市(にいはまし)
四国の瀬戸内海側のほぼ中央に位置し、雄大な赤石山系や大島、別子銅山の産業遺産など観光資源も豊富。生子山から一望する街並みは絶景(写真)。松山自動車道やJR四国の予讃線など、交通の利便性も高い。人口11万4200人(2023年11月末現在)。羽田空港から松山空港まで1時間30分。松山空港から車で約1時間20分。
全小中学校がユネスコスクールに認定
市街地から約20分圏内に美しい海や山、そして生活に必要な施設や大型ショッピングモールまでが揃った「ちょうどよいまち」愛媛県新居浜市。
そんな新居浜市が2022年、SDGsの優れた取り組みを行う自治体として、内閣府から「SDGs未来都市」に選定された。愛媛県内では松山市、西条市に次いで3例目となる。
じつは新居浜市は、明治時代から地域が一体となって社会問題を克服してきたといっても過言ではない。その核となったのが、日本三大銅山と呼ばれた別子銅山だ。別子銅山が住友グループ企業やまちの発展を生み出し、四国屈指の工業都市へとつながった。しかし、過去には山の木を伐採したことから水害で製造施設をすべて流されてしまったり、煙害により周辺地域の農作物に影響が出たりと、企業や地域の人びとが身をもって環境保全の重要性を痛感した歴史がある。以降、企業と地域住民は手を取り合って植林事業を行うなど社会問題を解決してきた。別子銅山は1973年に閉山されたが、
「私たち地元の人間は、たとえ自分が銅山に直接のかかわりがなくても、親戚や祖父母などに銅山や住友グループの関係者がいることが多いです。環境に配慮した社会の大切さは子どものころから聞いていました」
と、新居浜市総合政策課の相坂祐介さんは地域住民の意識の高さを語る。
その言葉通り、市は小中学校でのESD(持続可能な開発のための教育)にも力を入れている。小冊子『新居浜版SDGs』や『まなびかたノート』を使った学習を行い、2017年には、市内すべての小中学校がユネスコ憲章に示された理想を実現するために平和や国際的な連携を実践する「ユネスコスクール」の認定を受けるまでになった。これは全国的にも珍しい事例だ。
「東洋のマチュピチュ」と呼ばれる別子銅山の産業遺産群。標高約750mの山中に、採掘のためにつくられた施設跡が突如現れる光景は圧巻!
銅(あかがね)のまちにふさわしく、外壁に約2万2500枚もの銅板が使われた「あかがねミュージアム」。新居浜市の芸術・文化の発信拠点となっている。
地域の加盟店で買い物をしたり、エコ活動や健康診断をしたりするとポイントがたまる「新居浜あかがねポイント」。ポイントは加盟店で使え、地域活性化にもつながる。
ESDの一環として、学校授業で川の生態系を学ぶ小学生。現地の清流で五感を使って学べるのは、赤石山系など自然との距離が近い新居浜市の魅力だ。
さらに23年度に設立された「新居浜市SDGs推進プラットフォーム」にも期待がかかる。SDGsに関心のある市内企業や団体などが115以上参加し、その業種も製造、金融、福祉、教育など多彩。環境・経済・社会という分野を超え、これまでになかった連携が生まれつつある。分科会ではすでに4つの取り組みが進行中。製造業者と市の環境部門などが連携し、技術的に難しいとされてきたペットボトルからペットボトルへのリサイクルや、新居浜市生涯学習センターと民間企業が協働で行う資源循環の勉強会など、その規模もさまざまだ。
「何から始めればよいかわからない団体には、情報交換の機会もあります。小さな一歩を着実に積み重ねて、具体的な成果に結び付けられたら」と相坂さん。
大きな公園も多く、子どもの医療費も高校卒業まで無料。働き口も多く安定した収入を得られる傾向があることから、合計特殊出生率は四国一、全国でもトップクラスを誇る新居浜市。21年には、リモートワークにも対応した多目的複合施設「ワクリエ新居浜」も開設し、未来の人材を育てる土壌も着々と整いつつある。今後注目のまちだ。
クイズを交え別子銅山の歴史などを紹介した住友金属鉱山の出前授業。住友化学の工場見学では、水族館のガラスなどが製造されていると知った生徒から「新居浜ってスゴイ!」との声も。
臨海部に集積する住友グループ企業工場群。2050年のカーボンニュートラル実現を見据え、沿岸地域での脱炭素化を目指すプロジェクトも進行中だ。
新居浜市SDGs推進プラットフォームでは、参加者によるプレゼンや名刺交換会なども。講師陣がフランクな雰囲気をつくっているため、新しい連携やアイデアも生まれやすい。
新居浜市のSDGsここがスゴイ!
銅山の発展と環境保全を両立してきた市民の意識は高く、学校教育などにもそれが表れている。
- 市の発展の歴史そのものがSDGs
- 市内全小中学校がユネスコスクール
- SDGs推進プラットフォームから新計画続々!
- 2022年、SDGs未来都市に選定!
市樹でもあるクスノキをかたどったSDGs活動のロゴマーク。
「ワークライフバランスなどの働き方改革にも力を入れています!」(総合政策課 相坂祐介さん)
【新居浜市のここがオススメ!】
四国三大祭りの1つ「新居浜太鼓祭り」は、毎年10月中旬の開催。金糸をまとった豪華絢爛な太鼓台を約150人もの担ぎ手が差し上げる光景は迫力満点!
新居浜周辺の燧灘(ひうちなだ)で獲れた新鮮なジャコエビを使った「えび天」。やわらかい食感ながら、すり潰した殻の舌触りがアクセントとなりクセになるおいしさ。
新居浜市移住支援情報
便利な立地のお試し移住用住宅。先輩移住者との出会いも
新居浜市への移住を検討している人は、1日1000円でお試し移住用住宅を利用できる(駐車場1台分、光熱水費込み)。利用期間は3~7日間。市役所やスーパーに近い便利な立地で、自転車の貸し出しもあり。移住者専用集合住宅の一角なので、先輩移住者との出会いもあるかも。
問い合わせ/シティプロモーション推進課 ☎︎0897-65-1251
https://life.city.niihama.ehime.jp/
キッチンや調理器具に食器、エアコンなどの家電完備の広々とした2LDK。Wi-Fi環境もあるので、リモートワークを試すこともできる。
「移住者を受け入れる風通しのいいまちです!」(シティプロモーション推進課 小野和真さん)
文/吉野かぁこ 写真提供/新居浜市
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