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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

2024/04/10 23:58

「強さ」と「優しさ」あるいは道徳について/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(52)【千葉県八街市】

ビニールハウスに顔を入れると同時に眼鏡が曇る。前方が見えなくなる。泥のついた手でレンズをこする。半分泥だらけの眼鏡でいつも仕事する。

ビニールハウスに顔を入れると同時に眼鏡が曇る。前方が見えなくなる。泥のついた手でレンズをこする。半分泥だらけの眼鏡でいつも仕事する。

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  • アンズの花。梅の近縁と言われるアンズ。たしかに花は似ている。他の果物と比べ、甘さを欠き、ジューシーでもない。でも僕はアンズが好きである。
  • 手間がかかる。その割には収量が少ない。それでも毎年何百株というイチゴをハウスで作る。
  • ビニールハウスに顔を入れると同時に眼鏡が曇る。前方が見えなくなる。泥のついた手でレンズをこする。半分泥だらけの眼鏡でいつも仕事する。
  • 毎年1月に種をまく人参。発芽して、水と温度をうまく施せば桜の咲くころから一気に成長する。
  • 気温5度という日、人間は暖房を入れて過ごす。バッタは寒さに耐えて春の暖かさを待つ。強い。
  • まだやることは残っている。意欲も残っている。しかし日没、もう手元がよく見えない。ちょっとばかりの無念さをもって今日の作業を終える。
  • ビニールにブラシをかける。冷たい雨の中の作業が続く。
  • 資材が不揃いなことに加えて不器用。よって仕上がりはこんなもの。しかし、最後はそれなりにまとめるところがオレはすごい・・・と自分ぼめ。
  • 長い時間と苦労でもって仕上がったビニールハウス。ひとりやるバンザイ三唱。
  • 雨が多く、低温の今年3月。青い空と白い雲が気分を高揚させてくれる。
  • 真っ青な空を仰ぎ見る僕のそばで池の蛙も同じように空を眺めている。空腹だった子供時代、何十匹という蛙を捕まえ脚の肉を茹でて食べた。今はそんなことはしない。蛙は我が友だからである。
  • 富士には月見草が、日没近いビニールハウスにはクラシック音楽が似合う。
  • 若いオスに攻撃されて悲鳴を上げるくろちゃんを抱き上げる。くろちゃんは僕の胸に顔を寄せる。ジイチャンは優しいネ・・・その目がそう言っている。
  • テレビのCMも、ラジオ番組のタレントたちのカン高い笑いとおしゃべりも、僕には聴いてて辛い。もっと光を、もっと静けさを。
  • 悪いことをした、すまなかった。そう詫びつつ、穴を掘って埋めてやった。
  • 百姓仕事の他に僕には介護という仕事もある。傷を負ったチャボ、虚弱に生まれ、親の行動について行けないヒヨコ。だから介護の技術は自然に上達する。
  • 3日間、傷を消毒し、夜は温かくして僕のそばで寝かせた。こんな傷を負いながらよくも何十メートルの距離を帰ってきてくれた。傷がふさがった今、その強さにあらためて感服する。
  • 仕事しながら外に咲く花は常に眺めている。そしてたまに、部屋のテーブルに切り花を置こうかという気持ちになる。
  • 全身を覆い尽くすほどの汗をかく。その汗が、生きるとはこういうことなんだといつも僕に囁く。
  • ありふれた作物であるジャガイモ。その課題はいかに早く新ジャガを確保するかである。
  • 機械を欲しいと思わない。かなりタフな仕事の場面に直面しても。なんとかなるさ、やれるさ・・・そう思えるうちはたぶん、まだ死なない。
  • 乾燥した高地がオリジンだと言われるトマト。そのトマトは日本の梅雨をどんな気持ちで過ごすのだろうか・・・毎年苗を植えるたびに想う。
  • たび重なる強風で吹きちぎられた屋根のブルーシート。近いうち、張替の大工事をせねばならない。
  • ビニールハウのス中には静寂と孤独が詰まっている。そこに少しばかりの思考と知恵が湧く。
  • ピーマンは横に切ると苦みが出るので縦に切ってください・・・料理の専門家がそう言っていた。若いピーマンは包丁なし、僕は手でちぎる。
  • 何度も書いた。このニワトリは探求心が旺盛で、頭が良い。そのぶん僕の手間を増やす。
  • 3メートルの高さにあるソーラーパネルの下にニワトリが卵を産む。それを取りに行ったついで、眼下の風景をしばし楽しむ。
  • 母は強い。そして優しい。何十年と変わらぬチャボへの印象だ。
  • 増えすぎた竹の伐採と、その片付けに僕は毎年多くの時間を費やす。親の愛を受けて地上に顔を出したタケノコをそっと慈しむ。
  • 4月4日。37年前に苗木を植えた桜が咲き始めた。桜の木は全部で9本。どこにも行かず花見が出来る。田舎暮らしがくれる特権であろうか。
  • 雨の日は、鍬を持つ手が滑る、力が入りにくい。鍬の柄に着いた泥を払いながらの仕事となる。
  • 小雨。ひんやりとした空気。そこでなんとか燃え上がる焚火の炎。そばで鍬を振る僕に力が湧く。
  • 焚火の煙とともに古い過去の記憶が空中に舞う。楽しかったこと、悔やむこと・・・。

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