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田舎暮らしの本 6月号

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田舎暮らしの本 6月号

5月2日(木)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

「強さ」と「優しさ」あるいは道徳について/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(52)【千葉県八街市】

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 今回のテーマは人間の「強さ」と「優しさ」あるいは道徳について・・・である。読者にとっては、やや漠然とした印象のテーマであるかも知れない。少しそこを補うならば・・・いま僕の目の前にある風景のイメージとしては、男の強さ、女の強さ、男の優しさ、女の優しさがあり・・・そこに、男の弱さ、女の弱さ、男の非情さ、女の非情さ・・・そういったネガティブな風景も少し重なっている。さらに加えて言うならば、自分の強さ、自分の弱さ、自分の優しさ、自分の冷淡さ、僕自身の精神の側面もそこにかぶさってくる。もっと付け加えるならば、身近にいる生き物たちの強さや優しさも風景の中にある。田舎暮らしには功罪ふたつの面があるかもしれない。都会生活から物理的にも精神的にも遠く隔たり、僕の場合だとうちから3キロ離れたクロネコ便の営業所に行き、ついでにスーパーに立ち寄る、毎日がそれだけという暮らし。それだと、世の中を見る目が単眼となり、そのぶん、対象となる事物が他に邪魔されず鮮明に見えるという利点はあるけれど、逆に、生きた、レアな情報が乏しく、かつ単眼ゆえに複合的な、広い視野から物事を認知し、吟味するということにおいて足りない部分がある・・・。

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 しかし、今回書こうとしていることは、単眼ゆえ、ひょっとすると見落としていることもあるかもしれないが、でも、雑音の入らないシンプルな暮らしゆえに案外クリヤーに見えている世間の事象について、「強さ」「優しさ」「弱さ」「非情さ」・・・それをキーワードとしながら論じてみようかと考えるのである。

 3月21日「僕も少しばかりギャンブルに熱が入ったことがある」。

 快晴の朝だ。咲き始めたアンズの花が美しい。しかしなんという風の冷たさよ。午前7時。コンビニの前にある郵便ポストに向かって体を硬直させながら僕は走る。今朝は6時に目が覚めた。昨夜は寝床から顔を出して大谷対ダルビッシュを見た。試合終了を待たず10時頃には灯りを消した。それで早起きとなったのだ。今日は木曜日。今日投函しておかないとこの葉書が先方の手に渡るのは来週になってしまう・・・そう、今は土日と祝日の配達がなくなったんだよね。そして、我が地域でのポストからの集配は午前の1回だけ。それを逃すまいと、冷たい風の中を僕は走っているわけだ。

アンズの花。梅の近縁と言われるアンズ。たしかに花は似ている。他の果物と比べ、甘さを欠き、ジューシーでもない。でも僕はアンズが好きである。

 「自給自足研究中村顕治先生」そう書かれた葉書が届いたのは2月末。あとでわかったことは、もう2年も前のテレビの再放送を見たらしい。自給自足を目指す彼女は「ぜひとも栽培の教えを請いたい・・・」そう記し、番地のない、ただ八街市とだけ書かれた葉書を僕にくれたのだ。センセイには照れた、だが嬉しかった、熱心さが伝わってきた。まだまだ天気が定まりません。爽やかな天気のGW頃にでもどうぞおいでください・・・そう返事をしたため、僕は寒風の中、コンビニ前の郵便ポストに向かって走って行ったのである。

 空気は冷たいが、ビニールハウスの中のイチゴは春を感じ取っている。2時間ほど、そのイチゴの草取りをし、地面に着いた青い実を他の茎に引っ掛けるかたちで持ち上げてやる。その場面でいつも、摘み取りのイチゴ園はよく出来ているよなあと、なかば羨望、感心する。赤く実って垂れ下がったイチゴは腰の位置にある。我がイチゴみたいに土に触れて汚れる心配はなく、摘み取るのも簡単だ。今日の作業で色づいたイチゴが10個ばかり僕の目に止まった。仕事を終え、手とイチゴの泥を一緒に洗い流し、口に入れた。あまい!!  チビだ。不揃いだ。ずっと地面に接していた部分には傷みがきている。しかし、この甘さは自慢していい。そんなビニールハウスの中で作業しながら思い出したのは韓国映画『ビニールハウス』。韓国には、道路から一段低くなった、日の当たらない半地下の部屋で暮らす人たちがいる。しかし、半地下の家はまだ住居と言えるが、それにさえ住むことがかなわず、ビニールハウスで生活する貧困層がいるのだという。能登半島地震で住む場所を奪われた人たちがビニールハウスでの避難生活をしているというニュースが伝えられたが、一時的ではなく、ずっとそこで生活する厳しさは、目の前にいくつものビニールハウスがある僕には、その「貧困」の姿が明瞭なリアリティーとして伝わってくる。かつ思う。辛い暮らしではあろう。しかしそれを乗り越え、生きてゆこうとする。そこには間違いなく人間の「強さ」があると。

手間がかかる。その割には収量が少ない。それでも毎年何百株というイチゴをハウスで作る。

 今日も大リーグ中継を楽しもう。そう思っているところに驚愕のニュースが流れてきた。大谷選手の通訳がギャンブルで多額の借金をこしらえ、大谷選手の口座から6億8千万円もの返済をしていたというのだ。ここには人間の弱さ、男の弱さといったものがある。ギャンブルに手を染める理由は何だろう。日常生活での倦怠感。高濃度な緊張感。金銭への強い欲望。僕も若い頃、パチンコと麻雀にうつつを抜かした時期がある。賭け麻雀の負けが手元のカネでは賄えず、支払いを待ってもらったということもある。カネを失うだけでなく、背中を丸めて長時間やる麻雀は体にも悪い。自分には才能がない。そう気づいてあるときキッパリ足を洗ったのは賢明だった。おそらく人間には、大なり小なりのギャンブル志向精神はあるのではないか。たかがパチンコや麻雀でこんなことを言うのは生意気だが、ギャンブルの怖さは、負けが増えれば増えるほど取り返したいという意思が高まること、さらに、どこかで、今度はきっと勝てる、その幻想にとりつかれることである。当初にはあったかもしれない冷静さをすでに失っているゆえ、逆転勝ちの可能性はうんと下がっているはずなのに、その幻想でがんじがらめにされてしまうことである。ギャンブル精神は誰にでもある・・・僕がそう思うのは、長い人生のどこかで人は大なり小なり賭けに出ている。転職、移住、高額なマイホーム購入、場合によっては結婚だって・・・。

 大谷選手の通訳の解雇。このニュースを聴いた夜、27歳のJA女性職員が6700万円を着服したとテレビが報じていた。JAでの似たような事件はけっこう頻繁に起こる。昔から農協には家族的な経営の雰囲気がある。帳簿管理においても一般の銀行ほどの厳しさが、もしかしたらないせいなのかもしれない。着服したカネを何に使ったのか。いちばん多いのは遊ぶため。今回の女性もそうだった。他に借金を返すため、住宅ローンの返済に充てるため、そういう理由もよく耳にする。JA職員という身分には、華やかさはない代わりに堅実さがある。その堅実な暮らしを失うかもしれない着服という行為は一種のばくちであろう。

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