東九州屈指の工業都市として発展し、海・山・川の自然にも恵まれた延岡市。市民や企業の協力に支えられ、子どもたちを社会で支える仕組みが整い、デジタル技術や脱炭素化の推進にも積極的に取り組んで、幅広い分野でのSDGs実現を目指す。
掲載:2024年4・5月号
宮崎県延岡市(のべおかし)
宮崎県北部、九州山地を背に日向灘(ひゅうがなだ)に面する、東九州の中核都市。延岡藩の城下町で、大正時代以降は旭化成を中心に工業が発達した。人口約11万3000人。年平均気温17.5℃。延岡駅までJR特急で、博多駅から約4時間、大分駅から約2時間。車では福岡ICから九州自動車道・大分自動車道・東九州自動車道経由で約3時間30分。
市民力とデジタル技術を軸に、幅広くSDGsを推進
2023年に「SDGs未来都市」に選定された延岡市。旭化成の創業地として知られ、関連の地場企業も多い。06、07年の1市3町合併以降、面積は九州第2位。環境省が定める「快水浴場百選」の特選となり九州で唯一選定された下阿蘇ビーチや、ユネスコエコパークに登録された大崩山(おおくえやま)や行縢山(むかばきやま)など、海山の自然にも恵まれる。
白砂が美しい下阿蘇ビーチ。道の駅が隣接し、夏は河口の河川プールとともにファミリーでにぎわう。
一方、人口はピーク時の1980年から25%減、高齢化率は35%に達し、特に若年層の減少が進む。
こうした現状を踏まえて、市はSDGsへの積極的な取り組みを始め、重要な課題として「人づくり」を掲げた。未来都市選定に先駆けて22 年に設立されたのは「(一社)延岡こども未来創造機構」。延岡市企画課長の松田康寿さんは言う。
「子どもたちには『生きる力』を育む多様な学びが必要で、延岡こども未来創造機構は、そうした学びを社会全体で支えていく仕組みです。学校、家庭、地域と協力する『第4の存在』と位置づけています」
同機構は大学教授など専門家をアドバイザーに、市内の教育関係者や公募の市民が運営委員となり、運営には専任スタッフを置く。「遊びと学び」「共育」「体験」の3つのプロジェクトを軸に、STEAM教育、英語モチベーションアップ、イングリッシュキャンプ、論理コミュニケーション、自然体験など延岡ならではの環境を活かした多様な学びの機会を提供している。
延岡こども未来創造機構の自然体験ワークショップで行われたシュノーケリング。
2024年2月に行った体験イベント「Out of KidZania(アウト オブ キッザニア)」。重機オペレーターの仕事は延岡地区建設業協会青年部の協力による。
「Out of KidZania」では信用金庫の協力による職員の仕事体験も。ほかにも、寿司職人や医療従事者、消防士など、体験内容は多岐にわたる。
SDGs未来都市計画に記された延岡市の3つの強みは①卓越した市民力、②デジタル技術の活用、③脱炭素のまち。
①では県立病院の医師の退職問題をきっかけに条例を制定、市民ぐるみで地域医療を守った実績を持つ。
②では市民の3人に1人がデジタル地域通貨「のべおか COIN」を利用する。
「『のべおかCOIN』は、1日の歩数や市のイベント参加などでポイントがもらえる『のべおか健康マイレージ制度』との連動で普及が加速しました」
と松田さん。COINの利用は市内限定だが、市民の郷土愛は強く、「買い物や外食は地元で」と考える人が多いという。
③は、まちの再生と脱炭素化を同時に実現する事業が進行中。高度成長期に造成された市内の住宅団地「一ケ岡(ひとつがおか)エリア」をモデル地区として、太陽光発電や蓄電池などの導入に支援を行い、住宅や施設のゼロエネルギー仕様へのリニューアルを促す。
脱炭素先行地域となった一ケ岡地区。太陽光発電設備や蓄電池、電気自動車導入などに高率の補助を行うなどして、設備の更新や建て替えを促す。
23年11月には、市を挙げてSDGsを推進する組織として、公共的団体や行政機関など29の団体がメンバーとなる「のべおかSDGs ネットワーク」が設立された。今年2、3月には、SDGsの達成に向けた意識を広く醸成するため、さまざまな市民が参加する意見交換会「ワールドカフェ」が開かれる。また、SDGsに関する活動の事例などをまとめたSDGs専用ポータルサイトも開設予定だ。
「こうした場を通じて情報交換が活発になって、新たなアイデアや企画が生まれることを期待しています」
国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用して開校した「のべおか里山塾」ではロボット稲作の体験研修も行われた。
延岡市のSDGsここがすごい
市民の協力意識が高い延岡市では、経済、社会、環境の幅広い分野で、さまざまな組織が活動を続けてきた。いま、SDGsの旗印のもと、新たな取り組みが期待されている。
●「延岡こども未来創造機構」や中学校の授業をサポートする 「学校支援のべおかはげまし隊」など、 社会全体で子どもを育てる仕組みがある
●「のべおかCOIN」は地域経済の循環だけでなく、健康増進などにも貢献
●ゼロエネルギー化のモデル地区や、森林からのカーボンクレジット創出への協議会設立など、脱炭素化に向けて動き出している
「『のべおかCOIN』の加盟店は500店舗以上。延岡市を訪れてぜひ使ってみてください!」
(延岡市企画課SDGs担当 戸高広道さん)
延岡市のここがオススメ!
延岡市は清流も自慢。カヌーや川下り、飛び込み、水中観察などの川遊びが楽しめる。
チキン南蛮は延岡発祥のご当地グルメ。ムネ肉派・モモ肉派、甘酢ダレ系・タルタルソース系と食べ比べてみたい。
延岡市移住支援情報
さまざまな制度で延岡の移住をサポート!
移住を検討する人には無料の「お試し暮らし施設」がある。また、「お試し滞在支援制度」は1泊1人当たり2000円を上限に基本宿泊費用の2分の1を補助(最長6泊まで)。レンタカー代は1日3000円を上限に補助(最大7日まで)。移住支援金は全国を対象に世帯100万円、単身60万円。三大都市圏、福岡県からの子育て移住世帯には子育て加算1人当たり100万円を追加支給。
問い合わせ:延岡市人材政策・移住定住推進室 ☎️0982-20-7176
延岡市魅力発信 おいでよノベオカ - 延岡市公式ホームページ (city.nobeoka.miyazaki.jp)
お試し暮らし施設は、もともと旧三椪小学校の校長住宅だった。延岡駅から20kmほどの山村にある。
「空き家バンク情報はWEBで公開、住まいへの支援制度もあります」
(延岡市人材政策・移住定住推進室 落合恵太さん)
文/新田穂高 写真提供/宮崎県延岡市
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