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田舎暮らしの本 7月号

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田舎暮らしの本 7月号

6月3日(月)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

生産性ブルース/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(54)【千葉県八街市】

執筆者:

 6月4日。「孤立は悪くない、孤独でなければ」。

 朝の空気はひんやり。広島県庄原市に住んでいる古い友人。今日もらったメールに、なんと彼女は寒くてコタツを入れているのだと書いていた。当地、さすがにそれほどではない。光タップリのいい朝である。

 かつて、猛ダッシュで何十往復もやれた村の墓地の坂道。この年齢ではさすが遠い昔の話となってしまったが、それでも、行け行け行けと、自分の尻を叩くようにして登り、最後の仕上げは、墓地いちばんの杉の大木でやるストレッチである。昨日も今日も明日も、まるで変わらぬ日々。これから熱い珈琲とうまいパンが待ってるぜ、それをエサにし、僕はこうして自分のノルマを果たす。

 

 青い空に大きなグレーの雲が何個か。その雲に太陽は隠れたり、顔を出したりのめまぐるしい空模様。いったん雲間から太陽が顔を出すと日差しはかなり強い。ネギの移植、ジャガイモとニンニクの収穫、マクワウリの定植。そして、強い日差しの中、トウモロコシのハウスをのぞくと土がかなり乾いている。水やりするか・・・いつもならホースを引っ張るのだが、今日はちょっとその気分ではない。40メートルのホースは距離としては十分だが、今は作物が増えた。途中いくつもの作物を迂回させるのが億劫なのだ。バケツリレーで行こう。両手にバケツを下げて水場と往復すること12回。なんともはや・・・これぞまさしく生産性ブルースであろうか。でも心はアップテンポ。足にも腕にもいい運動になる、そうポジティブに考えてバケツリレーをやる。

 休憩時のおやつはイチゴ。ハウスに入ってもタダ食いはしない。赤い実を探しがてらドクダミ、ヤブカラシ、篠竹を僕は1本ずつ抜き取っていく。すぐ背後がヤブであるせいか、ハウスの中にこれらがどんどん侵入するのだ。イチゴの赤い実は、立った姿勢で上から見えるものもあるが、腰を落とし、雑草を取るためにめくった葉の下で見つかることが多い。イチゴたちは甘い実をオレにくれる。タダ食いしたんでは申し訳ないな。お返しに草を取ってスッキリ気分にしてやるからな。30分の作業で手にしたイチゴはこれだけ。労働に見合う収穫であるかどうか・・・などとは考えない。今日そこに行けば赤い実がある。少し手を加えておいてやれば、また3日後には甘い実がもらえる。このギブ&テイクの精神こそが田舎暮らしの基本である。

 キュウリとミョウガに土盛りし、6時半で仕事終わり。ストレッチしながら夕刊を読む。「孤立」は悪くない「孤独」でなければ・・・との見出しの付いた記事に目が行く。筑波大、弘前大の研究チームによるオンライン調査の結果だそうだ。

人は孤独だと感じると、一時的に憂鬱な気分となって気力を失う「抑うつ症状」がでやすい。一方、物理的に人とのつながりが少ない社会的孤立の状況でも孤独と感じず健康的に過ごせる人たちもいる・・・。

 前から書いているように、僕は全く人と接しない日が少なくない。もしあったとしても、クロネコ営業所に荷物を出しに行って、いらっしゃいませ、よろしく、ありがとうございました・・・この言葉のやりとりだけだ。でも孤独感はない。鬱症状にもならない。なぜか。人間とは接しないが、猫、ニワトリ、蛙、ウナギなどがそばにいる。そして野菜や果物が身近にある。子供の頃から独りで好きなことをゴソゴソやるのが好きという性格だったせいでもあろうが、それよりも、田舎暮らしには「仲間」がいっぱいいるということも孤立感を抱かずにすんでいる理由ではあるまいか。仲間は生き物や畑の作物にとどまらないのだ。吹く風、降り注ぐ光、流す汗、ときには冷たい雨や雷鳴さえも仲間である。夕刊の記事はさらに言う。

社会的孤立を自覚すると、孤独感と抑うつ症状との直接的な関連が強まり、とりわけ孤独感を強めた結果、さらに抑うつ症状を高めるという構図が浮かび上がった・・・。

 思うに、ウツとは、人生の些事が際限なくグルグルと、頭の中で渦巻いている状態ではないか。僕の暮らしにも些事はある。でも、目の前に次々と生じる畑作業に取り掛かると、それ以外のことなんか、些事なんか、全く意識に昇らない。汗と泥にまみれて一心不乱、人生の些事など、どこへ行った? こんな僕の姿を木陰から見て、ウツという名の疫病神がつぶやく。こいつにゃあ無理だ、やっても無駄になる・・・それで疫病神、あっさりと、サジを投げるのかも。

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