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田舎暮らしの本 1月号

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田舎暮らしの本 1月号

12月3日(火)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

生産性ブルース/自給自足を夢見て脱サラ農家37年(54)【千葉県八街市】

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 6月5日。「ココロでなす仕事、そうでない仕事」。

 すばらしい天気である。青い空。白い雲。惜しみない光。気温は28度くらい。桜が咲き始めた3月の季節以来、僕の感覚では今日がベストワンである。単に晴れたというだけでなく、この時期としては空気が乾いている。特に朝夕はすこぶるさわやかだ。夏至はまもなくだ。日の出から日没まで、光の時間は今が最も長い。太陽好きの僕はまずはそれが嬉しい。そのせっかくの日照時間を日本では梅雨という季節が邪魔をする。何度か行ったモスクワ。8月の声を聴くともう秋風が吹くが、逆に6月は、日本の梅雨から考えると天国である。

 スコップ2本を持って畑に向かう。晴天は日曜日までと天気予報が言う。我が天下とばかり繁茂する草をそれまでに一気に退治しておこう。サトイモへの土盛りを兼ねてひたすら草を削り取る。午前中3時間でなした草削りはおよそ100平米。先日、「あなたの街の便利屋さん」のことを書いた。そこに頼むと草刈りは1平米200円。なんと僕は3時間で2万円分の仕事をしたことになる。

 前方には目をやらず、ひたすら目の下にある草を削りながら前に進む。そして、いつの間にかイチジクの木に行き当たった。ここにも草がいっぱいだ。そのままにしておくとカミキリムシが住み着いて、幹に穴を開け、腐りの原因になる。よっし、待ってろ、スッキリさせてやる。イチジクの木は6本あるが、この木がいちばんの豊作。数えきれないほどの幼果が付いている。しかしこのままじゃ日が当たらない。今日みたいな晴天の日はいいとして、雨が続くと健康な実に育たない。余計な葉っぱをちぎってやる。なかなかに細かい作業だ。イチジクは枝を切ると白い乳液を出す。僕の手がそれでベタつく。

 よく働くね。カネ出して買う機械の燃料代なしに、人力だけでよく働くね。ここでも加藤登紀子さんが登場する。加藤さんは「ひらり一言」でこう書く。

「人力」も再生可能エネルギーのひとつ。

骨惜しみせず、手間ひまかけてコツコツと、が好き!  それって、大いに人力エネルギー発揮でしょ?  自分で出来ることを生かす暮らしを!

 ここでもうひとつ思い出す。前に何度か引用させていただいた、朝日新聞編集委員であり、コメ作りや狩猟をなさっている近藤康太郎氏は田起こししながらこう述懐する。

「米は買ったほうが安い」と脱落する農家が近所でまた1軒出たが、わたしはやめない。意固地という病。

 僕も意固地なのだろうか。いや、あえて自虐的な表現をなさる近藤氏だから、本当は好きで楽しいからやっている、それをちょっと辛口、意固地という言葉に収めたのだ。僕も好きでやっている。でなきゃ、28度、ピカピカの太陽の下で3時間もスコップ仕事なんかやれるはずはない。こんな暮らしで、1日の現金収入は3000円か4000円。でも言うのだ。天才バカボンみたいに、これでいいのだ!! 表向きの稼ぎは何千円かであるが、人に頼めば2万円分の草刈りを、汗はドバドバ、しかし1滴の化石燃料も使わずやったのだ。それでこそ美味なるイチジクもフェイジョアも好きなだけ食べられるのだ。

 そのフェイジョアの花が満開である。前にお見せしたように、アップで見るとややケバイ感じもするけれど、枝いっぱいに広がった緑の葉の間に見え隠れする深紅の花、それはどこまでも美しい。そこから少し目を転じよう。こちらはちっとも美しくない我が手製の縁側である。路上生活者が多摩川河川敷に作った小屋の方がずっとマシかと思えるくらい。廃材利用で、作ってから10年以上たったゆえに傷みがきているせいでもあるが・・・やっぱり美しくはない。ここには太陽光発電のバッテリーが8つ、インバーターが3つ設置してある。そして余剰スペースには、南からの光がよく当たり寒さも防げる場所ゆえ、鉢植えの花を並べたりする。廃材を無理やりに組み合わせて作った縁側。費用はゼロ。加藤登紀子さんが言うように、再生エネルギーである人力、それでもってなした成果である。

 ちょっと話が変わる。ふるさと納税の品、その送り状がヤマト運輸から届いた。あれ、またか。6月からはクール便にする決まりになっているが、届いた送り状は常温指定。以前は逆のことがあった。9月に終わるクール便指定が、秋から冬にかけてもクールのままになっていた。それを僕は毎回ボールペンで何か所もゴシゴシ消す必要があった。発注書が僕の手元に届くまで何段階もの人が関わっている。だから、この送り状を作成したのがどの段階のどの人かはわからない。僕はふと思ったのだ。これをやった人には仕事に必要なココロが足りないと。荷物は常温かクールかの二者択一。テレビはしきりと夏日だと言い、自分自身も暑いと感じていよう。となれば、送り状作成の、最終チェックでクール便指定のことが頭に浮かんできてもおかしくはない。僕は日々の仕事で、作物のすべてにココロを向ける。先にトウモロコシの水やりについて書いた。気温が一気に高まった日、僕はビニールハウス、ビニールトンネル、ポットにまいた種のトレイ。すべてを見て回り、どれが、何をして欲しいと思っているかを判断する。トウモロコシの場合、株元の土の色で、ああ、ここまで白いとタップリ水やりしてやらんといかんな。そう思う。直ちに行動に移す。40メートルのホースを伸ばすか、それが無理なら両手にバケツを下げて何往復もするか・・・。仕事とは、その対象にしかとココロを向けることである。漫然と機械に向かい、まさしく機械的になぞって終わりとすべきものではない。対象に向かっておのずとココロが働く、すぐ作動する。それが田舎暮らしである。

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