南アルプス山麓に位置する南アルプス市。鉄道が通っていないにもかかわらず、2020年から転入超過となっている。さらに、大型商業施設や大手化粧品会社の工場の新設計画があるなど、活気づいている。その理由を探った。
掲載:2024年7月号
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中野の棚田から見える富士山は、南アルプス市を代表する眺望ポイント。撮影スポットとしても人気が高い。
山梨県南アルプス市
山梨県の西側に位置し、南アルプスの主峰・北岳を頂点とした東西に細長い形で、東側は平地が広がる市街地、西側は山間部の里山となっている。温泉も多く点在。面積は264.14㎢と山梨県の面積の約5.9%を占め、人口は7万1532人(2024年5月1日現在)と山梨県第3位。新宿から中央自動車道経由で南アルプスICまで車で約90分。
中部横断自動車道の開通で人が集まるまちに
甲府盆地の中央部から南アルプス山麓にかけて東西に延びている南アルプス市。市の東側の平坦地には市街地があり、その周辺にはモモやサクランボ、ブドウなどの果樹園や田園地帯が広がっている。西側には北岳(きただけ)や間ノ岳(あいのだけ)など南アルプスの山々が連なる。市内全域が、南アルプスユネスコエコパークに登録されている自然豊かな地域だ。
南アルプス市は、ここ数年人口が増加傾向にあり、2020年から転入超過が続いている。最新の山梨県の常住人口調査(24年4月22日時点)では、前年同月に比べ428人の転入超過で県内1位だ。
「要因の1つは、以前から行ってきた子育て支援の充実にあると思います。家の新築やお子さんの誕生などを機に県内から移り住む方やUターンで戻ってこられる方が多いです」
南アルプス市ふるさと振興課の有野由実さんはこう話す。
段階的に行ってきた保育料や小・中学校の給食費については、22年から完全無償化。医療費は18歳までの子どもの保険診療分は無料。ほかにも、おむつ代の一部助成やチャイルドシート・ベビーベッドの無償貸出、子育て支援センターの設置、研修を積んだホームビジターが家庭を訪問してサポートするホームスタートなど、多岐にわたる。
モモ、サクランボ、ブドウなどの果樹栽培が盛んで、市内には果樹農園があちこちにある。
ハードとソフトの両面からの子育て支援が充実。子どもの誕生を機に移り住む人も多い。
南アルプス市に人が集まる要因のもう1つは、21年に中部横断自動車道の山梨―静岡間が全線開通したことだ。中央自動車道と接続して首都圏に直結、静岡市まで約1時間、長野方面へのアクセスもしやすくなった。南アルプス市には、鉄道の駅はないが、中部横断自動車道や山梨環状道路により、観光や物流への増加が見込まれ、周辺地域との行き来もしやすくなった。
「地域の活性化には、南アルプス市だけでなく近隣の市町と連携していく必要があります。道路が整備されたおかげで、大学病院へ通いやすくなるなど生活面でも大きな利点となっています。静岡までの移動時間が約50分も短くなったので、海に行きやすくなりました」(有野さん)
中部横断自動車道の南アルプスICに隣接して、体験型複合施設「fumotto(フモット)」が2024年6月末にオープン、来年には山梨県初出店となるコストコも開業する。市内の工業団地は拡張され、企業の進出も決まっている。
近くの若草地区は、宅地開発が進み、保育所や小学校は生徒数の増加で、増築による建て替えが進んでいるという。
2024年6月末にオープンした体験型複合施設「fumotto」。山と暮らす街をテーマにアウトドアセンターやマーケット、シェアオフィス、アクティビティができるマウンテンベースなどが集まる。奥の建物が、「コストコ南アルプス倉庫店(仮称)」。(画像提供:㈱ヒカレヤマナシ)
人やモノが集まるきっかけとなった中部横断自動車道。写真は開発前の南アルプスICの周辺で、右上奥に「fumotto」などが開業する。
「もともと6町村が合併してできた南アルプス市は、東側の市街地であればどの地区にも、スーパーやコンビニ、ドラッグストア、クリニックなどが揃っています。駅はありませんが、車さえあれば生活はしやすく、車で20〜30分走れば雄大な南アルプスの自然やアウトドアが存分に楽しめます」
道路による交通アクセスの向上で、人やモノ、企業までもが引き寄せられているようだ。
市内の東側には市街地が広がり、奥には南アルプスの山々を望む。便利さと自然が融合した暮らしやすさが魅力だ。
南アルプス市が人気のポイント
- ICがあり、首都圏や静岡へのアクセスが良好
- 市内の東側に市街地がまとまっていて、暮らしやすい
- 体験型複合施設が今年6月末にオープン、来年にはコストコも
- 子育て支援が充実している
【南アルプス市の移住者の声】
近所へのお返しにと始めた平飼い卵
宮本祥吾(みやもとしょうご)さん(36歳)
大阪に生まれ、農業系の大学へ進学し、日本国内各地や海外を転々としていた宮本祥吾さん。農業大学校で働いていたものの、花火師になりたくて「花火の町」である市川三郷町で転職、南アルプス市の集合住宅で暮らす。しかし、コロナ禍で仕事がなくなった。そんなとき、ご近所からのいただきものへのお返しとして、年中生産できる卵を思いついた。サクランボのハウスを譲り受け、10羽のニワトリを飼育し、卵はご近所へ配った。今では190羽まで増え、平飼い卵として販売している。ほかの収入源は、地域の人たちから紹介される農家の手伝いなどだ。
「困っていると手助けしてくれて、でも密すぎない。この距離感がちょうどいいです。大学卒業後3年以上同じところに暮らしたことのない僕が、南アルプス市ではもう4年以上経ちます。それだけ暮らしやすいということでしょうか」と宮本さんは笑う。
【南アルプス市の移住の問い合わせ】
移住前の見学や家探しに、宿泊費やレンタカー代を補助
市では、39歳以下の世帯が住宅および土地を購入する場合には、「若者世帯定住支援奨励金」を交付、また新婚世帯に対する支援金もある。移住前の体験として「お試し住宅」(1カ月~6カ月、月2万1000円)を提供。移住相談の登録を行った方で、市内の宿泊施設を利用した場合は、宿泊費の補助(1泊3000円、10泊まで)とレンタカー代の補助(1時間1000円、2分の1以内)もある。
お問い合わせ:南アルプス市ふるさと振興課 ☎︎055-282-6073
南アルプス市移住定住ポータルサイト『南プスぐらし』 (city.minami-alps.yamanashi.jp)
移住前に市の様子を体験できる「お試し住宅」では、里山の自然が楽しめる。
「ショッピングに温泉、山、アウトドアが車で20分圏内で全部楽しめます」
(南アルプス市ふるさと振興課の有野由実さん)
文/水野昌美 写真提供/山梨県南アルプス市
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