田舎で始める宿泊業は旅館やペンションという時代が長く続いたが、今ではより始めやすい素泊まりを基本としたゲストハウスや民泊という宿泊施設が注目を集めている。形態は似ているが、法律や規則に違いがあるので、基礎知識を解説しよう。
掲載:2024年8月号
ゲストハウスと民泊の違い
ゲストハウスとは、宿泊者同士または宿泊客とオーナーやスタッフとの交流が楽しめる宿泊施設。低価格で泊まれることから、若者を中心に多くの観光客が利用している。施設のあり方に厳密な定義はないが、共用リビングがある、素泊まり1泊から滞在できる、ドミトリー(相部屋)を設けた施設が多い、自炊用キッチンやトイレ、バスルームなどの水回りが共用、といった特徴がある。開業するには旅館業法の簡易宿所の許可が必要となる。
民泊とは、一戸建てやマンションなどの住宅を活用して宿泊サービスを提供する施設。法的には旅館業法の簡易宿所、特定の地域で宿泊業が可能な特区民泊、民泊新法による民泊の3種類があるが、2018年にできた民泊新法の民泊を指すことが多くなった。民泊施設は地方では家主が居住しながら運営しているケースが多く、宿泊者はホームステイに似た滞在スタイルになる。最近はインバウンド需要が急速に高まっており、外国人観光客にも大人気だ。
ゲストハウスとの違いは、民泊新法の民泊は届け出だけで開業できること。ただし、年間営業日数の上限が180日と決められており、より高い収益を望むなら、旅館業法に基づいた簡易宿所の許可、もしくは旅館業法適用外の特区民泊の認定を受ける必要がある。
ゲストハウスと民泊の主な相違点
参考:民泊制度ポータルサイト「minpaku」
物件費用や改修費について
ゲストハウスの物件価格は、立地によって大きく変わってくる。利用者は昔ながらの素朴な田舎を旅したい人もいれば、観光地巡りをしたい人もいる。前者の立地の場合の初期費用は最低500万円が目安になるが、リゾート地に近い田舎ではその数倍かかるケースも少なくない。
一方、民泊は空き部屋でも気軽に始められるため、300万円以下の初期費用で済む場合もある。
田舎物件を手に入れても、そのまま宿泊施設に利用できるものはほとんどなく、何らかの改修が必要になる。民泊は居室・設備ともに状態が良好であれば、100万円程度の費用で済む場合も。ゲストハウスはベッドやシャワー、トイレの増設に費用がかさむため、500万円以上の改修費は見込んでおくべきだろう。
開業の際に必要な申請や届け出
ゲストハウスは旅館業法の「簡易宿所営業」に該当し、その許認可が必要となる。まず所轄の保健所や担当窓口に事前相談する(建築、消防、都市計画、食品衛生法などの関係機関を含む)。申請に必要な書類は、旅館業営業許可申請書、申告書、見取り図、建物の配置図・各階平面図・側面図・配管図、登記事項証明書。申請書が受理されたら保健所の検査を受け、許可を受ける。
民泊新法の民泊は行政の許可は不要で、届け出だけで済む。保健所の立ち入り検査などはあるが、開業のハードルは低い。ただし、届出書、破産などの欠格事由に該当しないことを成約する書面、住宅の図面、住宅の登記事項証明書など10種類ぐらいの書類が必要。自分で申請する自信がなければ、手続き代行業者や行政書士に依頼する方法もある。
宿のコンセプトや料金の設定
利用者にとってゲストハウスの最大の魅力は、ホテルや旅館に比べて料金が格段に安いこと。地域やゲストハウスの種類によって料金はまちまちだが、1人1泊当たり2000~4000円に設定しているところが多いようだ。交流できるのも特徴なので、オーナーやスタッフはゲストと交流して楽しい思い出をつくってもらえるよう工夫するのも仕事の1つ。
民泊は地域や建物によって価格差はあるが、2人で基本料金1万円+清掃料6000円をベースに、人数や滞在日数が増えるほど単価が安くなるシステムが一般的だ。基本的に夕食は提供しないので、近くの飲食店やスーパーなどのていねいな地域情報の提供が求められる。
運営について
ゲストハウスは宿泊費をなるべく抑えたいバックパッカーや、旅行先で多くの人との交流を大切にしたい人が利用する。スタッフを雇うケースもあるが、オーナーやその家族が運営の主体となり、きめ細かな対応をしてあげることが重要だ。
民泊は家主不在型もあるが、その場合は登録された管理者に運営を委託することが必要。ただ、本誌の読者は自ら田舎暮らしを楽しみながら民泊で収益を得たいと考える人がほとんどだろう。最近は民泊でもオーナーとの交流を求めている人が増えているので、経営者が運営するのが理想的。スマホの翻訳機能などを活用して、外国人観光客と交流する場面も多く見受けられる。
なお、食事の提供を行う場合は、食品衛生法などの許可が必要となる。
農家民宿とは
ゲストハウスや民泊とは別に「農家民宿」もある。これは、農家や古民家への宿泊を通じて、日本の伝統的な生活を体験してもらうもの。滞在中に農業・漁業やトレッキングなどを体験しながら、郷土料理を味わうなどの宿泊・体験・食事の3つの要素が提供されるのが特徴だ。農家民宿は旅館業法の許可が必要だが、年間営業180日以内の農家民泊は届け出のみで営業できる。
文/山本一典 イラスト/関上絵美・晴香
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この記事を書いた人
山本一典
田舎暮らしライター/1959年、北海道北見市生まれ。神奈川大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、85年からフリーライター。『毎日グラフ』『月刊ミリオン』で連載を執筆。87年の『田舎暮らしの本』創刊から取材スタッフとして活動。2001年に一家で福島県田村市都路町に移住。著書に『田舎不動産の見方・買い方』(宝島社)、『失敗しない田舎暮らし入門』『夫婦いっしょに田舎暮らしを実現する本』『お金がなくても田舎暮らしを成功させる100カ条』『福島で生きる!』(いずれも洋泉社)など。
Website:https://miyakozi81.blog.fc2.com/
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