趣味の食べ歩きで出合った食の感動を、伝える側に立ちたいと手打ちそばの名店で修業。花火見物に通った大仙市で古民家風の屋敷に出合い、家族で移り住んで店をオープンした。そばの文化と地域の自然の豊かさを多くの人に知ってほしいと夫婦で店を切り盛りする。
掲載:2024年10月号
秋田県大仙市(だいせんし)
秋田県南東部に位置し、東に奥羽山脈、西に出羽丘陵、間を流れる雄物川と支流の玉川に沿って仙北平野の穀倉地帯が広がる。水稲生産量は東北1位。年平均気温10.9℃、全域が豪雪地帯で一部は特別豪雪地帯。人口約7万4000人。JR秋田新幹線で東京駅から大曲駅までは最短3時間5分。
店舗兼住居は古民家風。趣味の食べ歩きから開業へ
大好きな花火の上がるまち・大仙市で、手打ちそば店を開いた関口孝彦さん・愛子さん夫妻。
秋田自動車道大曲ICから国道105号の旧道を市街地に向かって約2km。右手に広がる田んぼを眺め、左手の森の入り口に黒い屋根と白壁の屋敷が見える。22年11月に宮城県仙台市から移住した関口孝彦さん(48歳)が妻の愛子さん(48歳)とともに営む「石臼挽き純手打そば〝はなび野〞」の店舗兼住居。国道のバイパス整備に迫られて建て替えられたという家屋には、もとの古民家の部材がふんだんに使われている。
「店を始めるための移住先として車でアクセスしやすい古民家を探しました。岩手県や福島県、秋田県とあちこち回って、出合ったのがこの物件です。大仙市は私も妻も出会う前から花火を見に通っていてなじみのあるまち。建物は築20年ほどで手入れがよく、離れの厨房を改装するだけで開業できたのがよかったです」
と言う孝彦さんの前職は建設業の営業職。東北を中心に各地を飛び回るなか、そばやラーメン、和食などを食べ歩くのが楽しみだった。やがて勤続が20 年を過ぎると、新たなチャレンジとして食の感動を伝えたい気持ちが募る。400店以上食べ歩いたなかで味と環境に感激したのは宮城県大崎市にある「純手打ちそば もみじ野」。ここにタイミングよく弟子入りできることがわかって会社を退職、2年間修業した。
左側の母屋は店舗兼住居、右側の離れを厨房にしている。
納得できる風味を求めて日々研究。そば粉のブレンドは季節によって調整している。
季節の野菜は地場のもの。イワナの天ぷらは丸ごと一匹、骨までおいしく食べられる。
名店でノウハウを学び、まちの応援も受けて出発
そば打ちの経験は弟子入りするまでなかったが、もみじ野ではそば打ちだけでなく接客など開業に必要なノウハウのすべてを学んだ。大仙市への移住後、店のオープンは1年の準備期間を経た23年11月。移住開業にあたっては市の移住定住促進課に相談し、支援制度も利用できた。
「市の広報紙や地元のFM局、新聞にも取り上げていただいて、開業当初から予想以上にたくさんのお客さんが来てくださいました」
豪雪地帯として知られる大仙市。厳冬期には、駐車場など敷地内をレンタルの除雪車で朝夕雪かきする。
「といっても経験した2回の冬は雪の少ない年で、想像したほどの苦労はなかったです」
移住当時、長男の宗浩さんは中学3年生。愛子さんは言う。
「受験の時期でしたが、学校は生徒数が少ないぶん、手厚く面倒を見ていただけたと思います」
地域とのつながりを大切にしたいと、町内会に加入して草刈りや花植えなど作業にも参加。
「野菜を頂いたり、ご近所にはお世話になっています」
敷地には裏山があり、やぶをかき分けて上まで往復すると15〜20分かかる。
「春にはタラの芽やコシアブラがたくさん採れます」
店で供される天ぷらの野菜や山菜には、直売所で仕入れたものや、裏山で採れたものなど、ほとんどが地場産。
「今後は直売所に並ばない山菜などを敷地内で育てたいですね。また裏山の自然も楽しんでいただけるように、散策路を整備したいです」
100年以上の歴史を誇り、毎年多くの人が集まる大曲の花火は8月の最終土曜日開催。
「この日ばかりは毎年の楽しみなので、店は時短営業です。翌日曜日にしっかり営業しますので、ぜひお立ち寄りください」
周辺は山菜の宝庫。敷地内の裏山で採れるものもある。
家から5kmほどの市内の高校に通う長男の宗浩さん(前列右)と、2kmほど先の小学校に通う大誠さん(前列左)。
大曲の花火は明治43年(1910年)の花火競技大会に端を発する。
大曲の花火の魅力は?
「夏だけでなく春と秋にも花火があります!」と孝彦さん。
明治時代から始まった歴史ある全国一の花火競技大会です。審査委員が採点しますが、見る人も一緒に楽しめるようにプログラムには花火会社の名前とともに採点欄が設けられています。最初に「これが○点」と、標準の花火が上がるんですよ。翌日のお昼に、発表された結果と自分の採点を比べながら振り返る人も多いです。
大仙市の移住の問い合わせ
住まいの支援や引っ越し支援など幅広い支援あり
移住者向けの支援には最大200万円の住宅取得費支援のほか、若者・子育て世帯なら最大3万円×12カ月の家賃支援も。引っ越し費用補助は最大3万円、除雪用具購入費+雪道運転講習費には最大10万円補助。また、市民は0歳から高校生の年齢まで医療費無料。保育料は0歳から就学前まで完全無料。移住検討に利用できる魅力体験住宅もある。
お問い合わせ:移住定住促進課 ☎︎0187-63-1111(内線238)
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-10184
移住体験は希望に合わせたオーダーメイド型も可能。世帯5万円、単身3万円の費用支援もあり。
「『大曲の花火』で有名な大仙市でお待ちしております!」
移住定住促進課 柴田友梨華さん
文/新田穂高 写真提供/関口孝彦さん、後藤公仁さん、大仙市
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