国際交流を求めて、世界55カ国以上を旅して巡った小島康平さん。アメリカ在住時に仕事の一環として参加した山伏修行が人生を一変させた。山形市に移住し、自らも山伏修行をしつつ、外国人ガイドとして山伏修行や自然体験、農業体験など、山形を中心に日本の魅力を伝えている。
掲載:2024年10月号
山形県山形市(やまがたし)
山形県の中部東に位置する県都で、人口約24万人。蔵王連峰をはじめとした山々に囲まれて豊かな自然に恵まれている一方、まちの中心部は都市機能が充実。城下町として発展し、歴史・文化・伝統がいまも受け継がれている。蔵王や山寺(やまでら、立石寺)など観光スポットが多く、多様な食文化も魅力。東京から山形新幹線で約2時間40分。
人生観を変えた山伏修行。山に入り「祈り」「感じる」
小島さん(写真左)は羽黒山伏「康慧(こうけい)」として毎年、山伏修行を続けている。右は、初めての山伏修行のときからお世話になっている大聖坊十三代当主の星野文紘先達。
赤い格好がトレードマークで、「赤いガイド」と呼ばれている小島康平(こうへい)さん(45歳)は、山形県を中心に日本各地を外国人に紹介している。
「出羽三山(でわさんざん)の山伏修行や、山形市の山寺、豊かな自然や食。山形県には魅力がいっぱいです」
そう話す小島さんは東京都出身。父親が山登りやスキーに連れていってくれたことから、自然のなかで遊ぶことが大好きだった。国際交流に興味を持ち、ニュージーランドや台湾、中国などで暮らす。結婚後、奥さんのアメリカ留学に伴い渡米。日本の地方の魅力を発信する仕事に携わり、山形県精神文化ツーリズム事業を担当。まずは自ら体験しようと出羽三山の山伏修行に参加した。
「3日間の修行中、一切会話せず、『うけたもう』の一言と『祈る』勤行のみ。携帯電話に全く触れません。滝行や山を登り、『うけたもう』とすべてを受け入れます。自然災害復興、世界平和を『祈り』、山に身をおき、『考える』よりも『感じる』世界が心地よく、修行後は清々しい気持ちになります」
その後もツーリズム事業で何度も山形を訪れ、さまざまな場所を巡った。その1つが、小島さんが山形の実家のような存在と話す月山麓の「山菜料理 出羽屋」だ。こうした温かな人たちとの出会いもあり、「山形で暮らして、春夏秋冬すべてを体感したい、魅力をもっと知りたい」という思いが強くなった。山形を案内された奥さんも自然や人を気に入り、2020年春にアメリカから山形に移住した。
「山菜料理 出羽屋」の佐藤さん兄弟と。小島さんは、世界からの旅行客を案内し、自然の恵み、山菜の魅力を伝えている。
山伏修行だけでなく、食や農業、茶道にも
2人は市内の中心部、山形駅からも近い集合住宅に暮らす。
「山形へ移住した方々から雪かきが大変だから、最初から戸建てはハードルが高いとアドバイスを受け集合住宅にしました。窓からは美しい山並みが見えて、日々幸せを感じています」
小島さんは、23年、「秋の峰入(みねい)り」し、羽黒山伏名を受け、山伏先達助手として出羽三山「月山(がっさん)」「湯殿山(ゆどのさん)」「羽黒山(はぐろさん)」での外国人山伏修行のガイド・コーディネーターを行っている。さらに、山寺観光協会とともに山寺外国語ガイドグループ「Yamaderans(ヤマデランズ)」を立ち上げて山寺公認ガイドにもなった。
旅行にずっと同行するスルーガイドもしており、日本各地や海外へも出かける。
「山形駅から東京まで新幹線で約2時間40分、山形空港からは札幌、名古屋、大阪便があり便利です」
出羽三山の外国人山伏修行では、先達助手としてガイドする。また、修行中の「人生が変わる体験」の瞬間を撮影するのも小島さんの仕事だ。
山寺外国語ガイドグループ「Yamaderans」を山寺を愛する人たちとともに立ち上げ、自らガイドするだけでなく、東北を中心に外国語ガイド育成にも力を入れる。
プライベートでも、農家やワイナリーを手伝ったり、氷瀑を見に行ったり。「趣味である山形の魅力探索が、自然体験ツアーの造成、ガイドにつながります」と笑う。奥さんもすっかり山形を気に入り、山形の四季折々の自然、食材を楽しんだり温泉を巡ったり。「ほかで暮らすことは考えられない」と話しているという。
山形の食も移住した理由の1つ。サクランボやスイカ、エダマメなど、おいしい食材が豊富。同じサクランボでも、時季によって出回る品種が異なり、それぞれの味を食べられる。生産地だからこその楽しみ方だ。
豊かな食も山形の魅力の1つ。山で一緒に収穫したり、農家を手伝ったり、山形の自然、食の魅力を常に探求している。
出羽屋のすぐ近くの自然農家、細谷信太郎さんの畑で、雪下にんじんの収穫。山の雪の下で育ち、驚くほど甘くおいしくなる。
ガイドでも、出羽屋での季節の山菜料理はもちろん、雪下にんじんの収穫体験や自然ミントを穫って木の下でミントティーをいただくなど、四季に応じた自然体験をコーディネート。また、福島の酒蔵、友人の燗酒師と協力して「熱燗文化」を世界に広げる活動も始めた。
「最近では茶道を習いはじめました。山形や東北を中心に、四季、自然、文化など日本のさまざまな魅力を外国の方々に伝え、架け橋になれればと思います。もっともっと山形の魅力を発掘したいですね」
羽黒山伏の魅力は?
「日本の大切な文化を学び続け、世界中の旅人と共有したいです」(小島さん)
修行中、何があっても「うけたもう」と、目の前の自然を受け入れ、自然への感謝の念とともに山に身をおき「祈り」続けます。山伏修行を通じ「考えすぎる」よりも「自分で感じ、行動する」自分の人生を肯定してもらえた気がしました。また修行中は携帯に触れないので、デジタルデトックスにもなります。修験道や茶道など、日本には生き方や和、人間力を学び続ける“道”という素晴らしい文化があります。この“道”を通じた“人生が変わる体験”を海外の方に伝えていきたいと思います。
山形市の移住の問い合わせ
希望に合わせたオーダーメイド型移住体験ツアーを実施
市では、希望に合わせて行程を組む「オーダーメイド型移住体験ツアー」を実施。歴史文化が色濃く残る山形市の暮らしを体験できる。空き家バンクの登録物件を購入または賃借した場合の仲介手数料の一部を補助、リフォーム工事費用の一部を補助する。市産材を使用して戸建て住宅を新築する場合、最大90万円の補助もある。また、アート引越センターで見積もりした方を対象に引っ越し基本料金の30%割引も。
お問い合わせ:山形市企画調整課 ☎023-641-1212
山形で暮らす。山形市移住総合サイト ヤマガターン
オーダーメイド型移住体験ツアーの参加費は無料で、往復交通費および宿泊費は山形市が負担。
オーダーメイド型移住体験ツアーなら、ニーズに合わせて見学できる。
「100名超の方に山形市の魅力を案内しました」(山形市企画調整課移住促進係 移住窓口強化推進員 下里文宏さん)
文/水野昌美 写真提供/小島康平さん、山形市
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