【ドライホップ多田クラフトビール連載vol.1/宮城県気仙沼市|BLACK TIDE BREWING】
地方創生への効果的なアプローチのひとつとして、今注目を集めている「クラフトビール」。地域経済の活性化、地域アイデンティティの強化、新たなコミュニティや交流の創出など多くの可能性を秘めています。現在日本各地に、800以上のクラフトビール醸造所あり、それぞれが独自の材料や製法で個性的なクラフトビールを生み出しています。この連載では、原宿にある日本唯一の国産専門クラフトビール販売店「threefeet Tokyo」のオーナーで、クラフトビールのスペシャリストであるドライホップ多田さんにトレンドや最新情報を伺い、今注目のクラフトビールを紹介します。
CONTENTS
【ドライホップ多田】
日本唯一の国産専門クラフトビール販売店「threefeet Tokyo」のオーナー。毎週数十種類の新商品が発売される日本のクラフトビール業界で、最も多く国産クラフトビールを飲んでいるクラフトビールスペシャリスト。1992年生まれ、北海道出身。2児の父。
Twitter @BANSHAKU_3feet
threefeet TokyoHP https://3feet.bansha9.com/
地方再生の鍵はクラフトビールにあり!? 急速に拡大しているクラフトビール市場
―― 多田さんがオーナーを務める「threefeet Tokyo」は国産専門のクラフトビール販売店なんですよね。
「国産専門は日本唯一だと思います。今、日本は空前のクラフトビールブーム。僕らがthreefeet Tokyoをオープンした2020年には420社程度だったクラフトビール醸造所が、現在では800を超えています。4年足らずでほぼ倍になっているということからも、市場の盛り上がりが伝わるのではないでしょうか」(多田さん・以下同)
―― 確かに、国内旅行に行くと、各地で地元のクラフトビールが販売されていますよね。都内のコンビニやスーパーでもクラフトビールを取り扱うところが増えている気がします。
「新型コロナウィルスによるパンデミック前後の国産クラフトビールブームを僕は第三次ブームと捉えています。第一次ブームは、1994年の酒税法改正を契機に、小規模な醸造所が設立される道が開かれ、地ビールとして知られる新たなビール文化が生まれたとき。その地ビールブームが、技術力や品質の問題から短期間で衰退したあと、アメリカの影響を受けて2000年代に再燃したのが第二次ブーム。今回の第三次ブームで、ついに、クラフトビールが日本の文化に根付いたのを感じています」
―― 3回目のクラフトビールブームが、ブームで終わらず、文化として根付いた理由はなんでしょう。
「地域性や独自性のある高品質で魅力的なクラフトビールをつくる醸造所が増えたこと。そして、それが今の消費者が求めるものにマッチしたからではないでしょうか。クラフトビールは、小規模な醸造所で手作りされ、多様なスタイルや風味、独自性のある個性が魅力です。特に、IPA(インディア・ペール・エール)やスタウトなど、さまざまな種類があることも消費者に支持されています。
また、クラフトビールの消費者層は主に20代から30代に集中しています。Z世代はビールの苦味を苦手とする傾向があり、フルーティーで甘みのあるクラフトビールを好む傾向があるというのも一因といわれていますが、僕は、クラフトビールの多様性が、彼らにとって魅力的なのだろうと考えています。なぜなら、僕がこんなにもクラフトビールにのめりこんだのは、まさにそれが理由だから! つくられるまでのストーリー、地産地消の食材、季節に左右されない酒づくり、期間限定の食材でたまにしか会えないレアビール ……。クラフトビールは知れば知るほど“沼る”世界なんですよ」
―― 地域活性化のために、まちをあげてクラフトビールづくりに取り組んでいる自治体も増えていますよね。
「地域の特産品を原材料とすることで地元の経済は活性化しますし、醸造所の設立で新たな雇用も生まれます。そして、ビアツーリズムなど観光客誘致にもつながる。クラフトビールは地域活性化の重要な手段になり得ます。長野県のヤッホーブルーイングが製造する『よなよなエール』はまさにその成功事例ですよね。醸造所見学や試飲イベントで観光客は増大、泉佐野市のふるさと納税返礼品として同市でトップの寄附金額を集めています。ほかにも、クラフトビールでまちを盛り上げることに成功している醸造所は全国にたくさんありますよ」
―― 20~30代の若者の間で、そんな地域性のあるクラフトビールへの関心が高まってる。クラフトビールが、地方に関心を持つきっかけになりそうですね。
「threefeet Tokyoは若者文化の発祥地、裏原(裏原宿)にあります。流行に敏感でこだわりが強い若者たちが、クラフトビールにハマっている。各地のクラフトビールの背景にあるストーリー、各地域の独自性に魅力を感じている若者は間違いなく多いと実感しています。好きなブルワリーができて、実際にそのブルワリーを目的に旅行にいったというお客さんもいます」
気仙沼の復興を掲げてスタートしたブルワリー発! めかぶを使ったクラフトビール
―― さて! 連載1回目、今回紹介してくださるこちらのビールについて教えてください。ラベルのグリーンが爽やかですね。
「BLACKTIDE BREWINGというブルワリーのPole & Lineです。このビール、原材料に三陸のめかぶが使われているんですよ」
―― え! あの「めかぶ」ですか? どんな飲み口なのでしょう
「めかぶを使っているからといって、ぬるぬるはしないんですが、非常にスムースです。飲み口がやさしい。
スタイルはヘイジーIPAといって、通常のIPAよりも柔らかく、風味がフルーティーかつ苦味が控えめで口当たりがよく、最近人気が高まっているスタイルです。
ホップをたくさん使っていて、香りが強烈に強い。飲んでみると、トロピカルフルーツのような印象を持つのではないでしょうか。
ビールに果汁を使ったりはしていないので、味わいとしてはそんなに甘いとかではないんですけど。
めかぶ感があるかというとそうではないのだけど、僕は、めかぶ由来のうまみが添加されているのと舌触りが滑らかになっているのを感じます」
スローガンは「気仙沼から世界へ」。地域の人々とともに歩む「BLACK TIDE BREWING」
(写真提供:BLACKTIDE BREWING)
「このビールのブルワリーは、宮城県気仙沼市にあるBLACK TIDE BREWING。2011年の東日本大震災後の復興を掲げて設立されたブルワリーで、商品の背景には気仙沼の復興への強い思いがあります。様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まって、まちの人々の協力を得ながら、地域と一体になって、地域の特性を活かしたビール作りに取り組んでいます。IPAやヘイジーIPA、セゾンなど、様々なスタイルの新商品が毎月リリースされています。今回紹介した、めかぶのビール同様、気仙沼の豊かな自然環境と文化を反映したビールは唯一無二で、クラフトビール愛好家の中でもファンの多いブルワリーです」
(写真提供:BLACKTIDE BREWING)
「また、BLACK TIDE BREWINGは“BTB CREW”というファンクラブを運営していて、会員限定のイベントや特典で、地域住民やファンとのつながりを深める取り組みも行っています。その背後にあるストーリーとともに、多くの人々に愛されるブルワリーになっています」
―― 単なるビール醸造所ではなく、地域の新しい文化とコミュニティを創造する場所になっているのですね!
「作り手の想いや背景を知ると、より楽しめるのがクラフトビールの魅力です」
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田舎暮らしの本編集部
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