移住や二地域居住、地域間交流、サテライトオフィス開設などを検討中の人を対象に、山口県萩市では「お試し暮らし住宅」を整備。その1つである「#さんちゃんち」は、駅舎を居住空間へと生まれ変わらせたもので、 山陰本線での沿線視察の拠点としてもオススメだ。
掲載:田舎暮らしの本 2024年12月号
山口県萩市
城下町としての面影を色濃く残す山口県北東部の萩市は、日本近代化の足跡が刻まれた明治維新胎動の地。「千石台大根」「萩の瀬つきあじ」「長萩和牛」「萩むつみ豚」のほか特産品も豊富。山陽新幹線新山口駅から車で約50分。
行き交う列車を眺めながら
大正期の駅舎でお試し移住
駅がお試し暮らし住宅!?
プラットホームに面した窓の外を列車や乗降客が行き交い、暮らしの一端に触れられる。(写真提供/萩市)
老朽化した三見駅舎を
快適な居住空間に
萩市街地から西へ車で約15分の三見(さんみ)地区は、古くから漁業が盛んで、山側では農業が営まれ、初夏には清流沿いでホタルが舞う。2023年春、このまちに山陰本線の駅舎を活用したユニークなお試し暮らし住宅「#さんちゃんち」が誕生し、注目を集めている。おいでませ、豊かな暮らし応援課の蛭子亜伊(えびすあい)さんに経緯を聞いた。
「築約100年の三見駅舎は老朽化が進み、解体が予定されていましたが、市で活用するなら無償譲渡するという話がJRさんからあったんです。当時、すでに市街地に梅屋七兵衛(うめやしちべえ)旧宅を改修したお試し暮らし住宅『#梅ちゃんち』があり、大変好評。中山間地域にも新たな施設をつくろうと検討していたときのことでした。駅は地域の方が集まる場所でもあり、お試し暮らし住宅として適地だという結論に至りました」
駅舎のうち、待合室は残し、約17坪の事務室を1LDKへリノベーション。洗練された内装の空間に快適な設備を整えた。
「一番の特徴は、目の前を往来する列車が眺められること。既存の出窓コーナーに設けた小上がりで、列車を見ながらテレワークをしたり、朝のコーヒーを飲んだりして過ごせます」と、蛭子さん。タイミングが合えば、「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」や、観光列車「○○(まるまる)のはなし」(当面運休)が登場。自然の音も楽しんでほしいとの思いからテレビは置かず、オンライン会議などを想定した壁掛けモニターを設置。備品として、キッチンに萩焼の食器が用意されているのもうれしい。
移住検討者などに限定
半年先までほぼ満室
運営開始から1年半が経ち、蛭子さんは手応えをこう話す。
「利用者は20~30代の子育て世帯から定年後のご夫婦まで幅広く、毎月1日に半年先の1カ月分の予約受け付けを開始しますが、すぐに埋まってしまう状況です。鉄道好きの移住希望者さんに関心を持っていただくきっかけにもなり、駅舎の先進的な活用事例としてJRさんにも喜んでいただいています」
お試し暮らし住宅「#さんちゃんち」
1LDK。利用は1週間~4週間。6泊7日で1組7000円、以降1泊ごとに1000円追加。冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、掃除機、食器、フリーWi -Fi、駐車場2台分あり。寝具は持参またはレンタル。
駅員の仮眠室として使われた部屋を琉球畳のスタイリッシュな和室に。
「お試し暮らし住宅」がある三見駅は大正時代に開業。その駅舎を萩市がJRから譲り受け、外観の趣を残しつつ、室内は快適に改修した。
「#さんちゃんち」の隣の待合室はバス利用者も訪れるので、地域の人との交流も生まれやすい。
三見駅から約3.8kmの距離にある観光スポットの三見橋(眼鏡橋)。大正時代初期につくられた山口県内最大級の石橋で国の登録有形文化財。
萩市街地の西に隣接する三見駅~玉江駅間では、山間に広がる田園のなかを列車が走る。
萩市内で山陰本線の西端にあたる飯井駅付近。車窓からも眼下にのどかな漁業集落が望める。
道の駅「萩・さんさん三見」の北側から、海岸線を走る列車や日本海を一望。
鯖島食堂で人気ナンバー1の「日本海定食」(1500円)は新鮮な魚の刺身が魅力。(写真提供/道の駅「萩・さんさん三見」)
地元の旬の野菜や果物などが揃う道の駅「萩・さんさん三見」。( https://www.akeishi.net )
【問い合わせ先】
はぎポルト-暮らしの案内所-
☎0838-25-3819
文・写真/笹木博之
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