大阪で企画デザインの仕事をしていた経験から、企画力を買われ、まちの困りごとを解決してきた高士豊造さん。高齢化する地域の要望を仕事に変え、複数の仕事を組み合わせて安定雇用ができる地域づくり事業協同組合を立ち上げた。
掲載:2024年12月号
CONTENTS
兵庫県香美町(かみちょう)
兵庫県北部に位置し、人口約1万5000人。北は日本海に面し、全国有数の漁獲量を誇る漁港を有する。冬は松葉ガニ、夏は海水浴やマリンスポーツが楽しめ、山間部では但馬牛(たじまうし)の放牧風景や美しい棚田の風景が広がる。キャンプやスキー、滝めぐりもオススメ。大阪から特急で約3時間30分、車で約3時間。
スキー場、温泉旅館、農業、マルチワークで自分探し
香美町地域づくり事業協同組合の高士豊造さん(後列中央)と職員の皆さん。今後も7人の職員をベースに事業を展開していく。
一年を通じた複数の仕事をコーディネートするのが事務局長を務める高士さんの仕事。「信頼できる職員みんながいてこそです」と高士さん。
上級者の集うスキー場で知られる山岳を有する兵庫県香美町。高士豊造(たかしとよぞう)さん(63歳)は14年前、このまちにやってきた。
「大阪で企画デザインの仕事をしていて、奈良には持ち家があり、移住するつもりはありませんでした。スノーボードの協会役員をしていたことから、香美町のスキー場とかかわったのが始まりです」(高士さん、以下同)
高士さんは、まちのさまざまな依頼に応え、経営不振に陥っていたスキー場の立て直しの立案をはじめ、観光協会のイベントや都市農村共生・対流総合対策交付金を活用した事業など、次々と困りごとを解決して企画力が注目されるようになった。
「最初は警戒する人もいましたが、支持してくれる人や認めてくれる人が徐々に増えてきました。高齢化で人手不足が深刻化するなか、賃金を払うので草刈りをしてほしいといった個人の要望にも応えていたんです」
そんなとき、新聞で総務省の「特定地域づくり事業協同組合制度」を知り、これまでやってきたことが活かせると確信。2022年、県内で初めて制度を活用して「香美町地域づくり事業協同組合」を設立した。
特定地域づくり事業とは、季節ごとの労働需要に応じて複数の仕事を組み合わせて働くマルチワーカーの派遣事業。制度のおかげで、安定的な雇用環境と一定の給与水準を確保した職場をつくり出せ、移住者など若者を呼び込むことができるようになった。ただ、県内で前例がなかったため、労働局とのやり取りに時間がかかるなど、思うように進まないこともあった。
香美町地域づくり事業協同組合では、組合員となった地域内の事業者に職員を派遣する。内容は、冬はスキー場や温泉旅館のスタッフ、春からは農業の応援や草刈り、観光施設の整備などだ。7人いる職員のうち、4人が移住者だ。高士さんは組合員であり、事務局長として、職員の仕事をコーディネート。自ら汗を流すこともある。
「職員はずっとここで働くことを想定していません。ここには移住者から見ると光り輝くものがいっぱいあります。マルチワークでいろいろ経験して、自分が何をしたいかを探し、自分の仕事にしていくのが理想。今後は、職員が事業者となり、協力して地域の産業や経済を盛り上げていきたいです」
コンバインを使って稲刈り。農業や宿泊業、スキー場など5事業者で構成される組合員のところへ職員が派遣されている。
日本の滝百選に認定されている名勝・猿尾滝(さるおだき)など、観光地の環境整備も請け負う。残業はほぼないので、子育てしながら働くことができる。
春から秋の定番は、職員のマンパワーを活かした草刈り。速く、きれいに刈る技術力が高いと好評だ。
冬はスキー場への派遣が中心。スキー場の準備から運営、片付けまで、即戦力となって活躍している。
マルチワークへのアドバイス
複数の仕事に従事するマルチワーカーは、いろんな経験をしながら自分のやりたいことを探していくことが大事。派遣先でのさまざまな経験を通じて、自分の強みを磨いていくことができます。いろんな人に出会い、いろんなつながりができるので、やりたいことを実現していくための輪が広がります。(高士さん)
組合職員の移住者4人にお聞きしました!
加藤崇公(かとうたかゆき)さん(43歳)/大阪から移住
妻の里帰り出産をきっかけに、家族4人で田舎に住みたいと4年前に移住。冬はスキー場で働いているため、スノーボードを楽しむようになりました。子どもがのびのびと遊べる自然豊かな子育て環境にも満足しています。
高士慶祐(たかしけいすけ)さん(30歳)/京都から移住
コロナ禍で仕事について考えていたとき、父・高士豊造に声をかけられて香美町へ。体力がいる仕事も多いですが、都会にはない地域の魅力を感じ、今はやりたいことがたくさん。移住者をバックアップする仕事を模索中です。
山㟢将太(やまざきしょうた)さん(31歳)/大阪から移住
2022年に単身移住。スキー場の準備、温泉旅館の業務、農業、草刈りなどできることが増えました。空き家が多いことからDIYに興味を持ち、古民家を購入。移住者が住めるように空き家の再生を生業にしていきたいです。
勝山穂香(かつやまほのか)さん(26歳)/大阪から移住
もともと同じことをするのが苦手なので、いろんな仕事ができて楽しいです。マルチワークのおかげで、生活が安定しています。8歳の長男が走り回れる広い公園や虫捕りが楽しめる環境が身近にあるのもうれしいです。
香美町の移住の問い合わせ
海、山、里の恵まれた自然環境。相談は香美町まちなか移住相談室へ
香美町は日本海から山間地域まで海、山、里の豊かな自然に恵まれ、キャンプやスキーなど季節ごとにアクティビティが楽しめる。移住検討のため香美町へ訪れる際に必要な交通費の一部助成や空き家の改修費用・家財道具処分費を補助。また、「香美町まちなか移住相談室」で移住の不安や地域のことなど、さまざまな相談ができる。
お問い合わせ:香美町企画課 ☎︎0796-36-1962
https://kamicho-ijyu.com
山陰本線の運行を支えてきた余部(あまるべ)鉄橋。日本海の美しい眺望が見どころ。
「自然豊かな香美町でさまざまなことにチャレンジしませんか!」
(香美町のマスコットキャラクター「ジオンくん」)
文・写真/田中泰子 写真提供/香美町地域づくり事業協同組合、香美町
この記事の画像一覧
この記事のタグ
田舎暮らしの記事をシェアする