陶芸の里として知られる益子町は関東平野の端から周囲の丘陵へとつながる里山エリア。雑木林に囲まれた拠点に夫婦で通い、ランドスケープデザインを活かした庭をつくった。菜園、山菜、仲間との竹林整備……。季節の暮らしを丸ごと楽しむ。
掲載:2025年1月号
栃木県益子町 ましこまち
栃木県南東部、関東平野北東端の平地と丘陵地。江戸幕府の御用窯となり、大正期の民芸運動でも知られる益子焼の産地。人口約2万1000人。秋葉原駅から高速バスで約2時間30分、東北新幹線宇都宮駅から路線バスで約1時間、JR水戸線下館駅から真岡鐵道で約40分。
雑木林に囲まれた拠点で、季節の暮らしを毎週楽しむ
伊藤奈菜さん、瀬尾範章さん
伊藤さんはプラント建設会社を退職後、大学の通信学部でランドスケープデザインを学ぶ。現在は千葉市内で医療事務に週2~3日携わり、多くを益子町で生活。瀬尾さんは千葉市内の会社に平日5日勤務。週末を益子町で過ごす。益子町の住まいの前で。伊藤さんの実家の愛犬テンちゃんも、ときどき一緒にやってくる。
伊藤奈菜さんが二拠点ライフをスタートしたのは2019年4月。ランドスケープデザインを学んだ伊藤さんが、その実験の場を探して栃木県益子町の空き家と出合った。
「製図や町並みのデザイン、庭仕事の実習まで幅広く学びました。そこで出合ったのが里山や雑木林というキーワード。その環境を身近に感じて過ごしたいと思ったんです」
候補地は当初、栃木県北部の那須高原だった。途中で立ち寄ったのが益子町。宿泊したペンションのオーナーに話をすると「知人が新居を建てて出たばかり」と空き家を紹介してくれた。
「雑木林に囲まれた環境がひと目で気に入りました。ワチャワチャした感じがよかったです。その後に行った那須の別荘地は管理され過ぎた印象でした」
築40年ほどの建物は、元の家主が大工で増築が繰り返されていたが、不要部分を取り払ってシンプルにリフォーム。
「地元の工務店にお願いして水回りも含め総額で600万円ほどになりました。初期費用はかかりましたが、二拠点で過ごしはじめると旅行することもなく、余計なお金はかかりません」
リフォーム後は毎週の益子通いを開始。約300坪の敷地を2人でコツコツと整備した。土留めは石垣、水路を導いて池をつくり、実生のコナラの木を植え替えた。
雑木林につながる庭。中央に設けた池には水生昆虫も棲みつく。
リビングダイニングには薪ストーブを設置した。
リフォームは昭和の住宅の味わいも残して。
梅干し、梅シロップ、タケノコ、メンマ、クリ……。保存食づくりは近所で採れるもので。
コロナ禍もあって益子で多くの時間を過ごすうち、地元の知り合いも増えた。近所の地主の許可を得て雑木林で山菜を採ったり、タケノコを掘ったり。ストーブの薪の材料が出たと声をかけてもらうこともある。
「夏は草刈り、冬に向かって薪割りなど、益子では季節ごとにすることがいっぱいで追いつきません。千葉にいたら休日の過ごし方がわからない。ショッピングセンターに行ってもワクワクしませんしね」と瀬尾さん。
作業を予定しても雨で流れたり、野菜が教科書どおり育たなかったり、思うようにならない益子暮らしは、会社の仕事とは正反対だという。
「資本主義的な流れにどっぷり飲み込まれることなく、いいリフレッシュになってます」
伊藤さんは町内にあるカフェ&コミュニティースペースで知り合った仲間と、竹林の整備も始めた。
「庭をデザインしてみると、今度は地域の風景の手入れをしたいと思うようになって。そんなとき出会ったのが竹林のメンバーです。ほとんどが女性で楽しくやってます」
見晴らしのよい丘の中腹にある家庭菜園。ピーマンは秋の終わりまで収穫。
仲間とともに手植え手刈りの田んぼもスタート。分け前のお米は25kg!
竹林で活動する「ヒジノワタケ部」。竹伐り、竹炭づくり、タケノコ掘り、竹細工など内容は多彩。
真ん中に道をつくって、歩きやすい竹林に整備した。
伊藤さんの二拠点LIFE!
◆滞在頻度と滞在期間
毎週水曜日の午後から日曜日の夕方まで。
◆移動手段
往路は電車を4回乗り換えて約3時間。帰路は車で約2時間。
◆滞在時の生活費
野菜を自給するなどして出費はほとんどない。移動には電車が片道約3000円、車が高速料金と軽油代を合わせて片道約2500円。
◆二拠点LIFEへのアドバイス
「地域の人と交流すると、つながりが広がって地元の情報がわかり、ぐっと楽しみが増えます。益子は広がりを求める人が多いのも魅力ですね」
益子町の移住の問い合わせ
道の駅で気軽に相談。事前予約でオーダーメイドツアーも
移住・定住の相談窓口は「道の駅ましこ」内にあり、コンシェルジュが対応(午前9時~午後5時30分、毎月第2火曜日定休)。事前予約でじっくり相談も可。オーダーメイドツアー(申し込みは希望日の3週間前まで。参加費無料)では陶芸や起業などの職業体験、農業
体験、空き家バンクや町内生活関連施設の見学、先輩移住者への訪問などもできる。
問い合わせ/総合政策課 ☎︎0285-72-8828
https://www.town.mashiko.lg.jp/page/dir001806.html
町内には昔ながらの登り窯で陶器を焼く窯元も多い。
「道の駅ましこ」の一角に常設された移住サポートセンター。
「穏やかでエネルギーにあふれた人びとが暮らすまちです。私たち移住担当者が全力でサポートします!」(総合政策課の左から飯塚美咲さん、添野みずきさん)
文・写真/新田穂高 写真提供/伊藤奈菜さん、益子町
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