土と生きる、汗と黙想
↑ 畑仕事には遊び心も垣間見える。三角帽子を連ねていく僕は積み木ではしゃぐ幼児みたいだ。
時給10円の現実、それでも土を耕す
部屋の電気カーペットで育てているキャベツ、レタス、ブロッコリーの苗をイチゴハウスに移す。カーペットで夜は暖かく保たれる。でも、生育はどうしても軟弱だ。紫外線を気にする声もあるが、光あっての健康は野菜も人間も同じ。イチゴハウスには8時間光が当たる。間借りしてその熱を利用させてもらう。ただし、ハウスといえども夜は冷える。三角帽子はさらなる防寒のため。
前回、半分ジョークで週休ゼロ、月の労働270時間の我が時給は600円足らず、そう書いた。そんなご当人がのけぞるような数字に出くわす。なんと米農家1経営体あたり、年間収入から経費を差し引くと残る所得は1万円、時給にすると10円だというのだ。民間放送協会に加盟局から集まった企画、その年に一度の最優秀作品、選ばれたのが山形放送のドキュメンタリー『時給10円という現実--消えゆく農民--』であることを朝日新聞で知る。
米作りには消費者が思っているよりはるか経費がかかる。それにしても時給10円とは絶句するほどの低賃金だ。記事には山形放送ディレクター・三浦重行氏の言葉が紹介されている。
伝えたかったのは「農家って大変だよね」ということではない。農業の担い手が減りゆくなか、困難に直面するのは都会の消費者。「我々は一体何を食べようとしているのかを考える機会にしたい・・・」
生産者と消費者の距離感
↑ 2月に新大根を作る。ビニールトンネルの上から防寒シートを掛けたり外したり。たかが大根。されど大根。
1か月ほど前のこと。ふるさと納税の寄付者からクレームが来たという連絡が市の担当者からあった。写真が添付されていた。大根とペットボトルが並べられた写真。大根の細さを示すためのものであることはすぐわかった。
スーパーで売っているサイズの大根は年明けに品切れ。まだ小さい、3月出荷を目標にビニールハウスで育てているものを2本荷物に入れた。お客さんの目には、「スーパーにはないぜ、こんなの・・・」そう映ったらしい。まあ、説明なしに小さな大根を送ったこっちも悪い。しかし、ペットボトルと並べた写真はキツイ・・・生産者泣かせ。
このお客さんは僕の手取りが3000円とは想像していまい。寄付額17万円も(年間12回送付)出したのだから、もっと豪華な品物が届くと考えていたかも知れない。木枯し吹きすさぶなか、最後はボールペンもうまく握れない冷たさに3時間かけて作った荷物があえなく無駄骨となった。異常な高値と騒がれている米もそうだし、我が野菜や卵もそうだが、消費者と生産者のミゾはけっこう深いかもしれない。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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