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田舎暮らしの本 11月号

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田舎暮らしの本 11月号

10月3日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

光に当たろう 風や光とともに ゆったりと生きていこう/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(68)【千葉県八街市】

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山小屋の自給生活と畑を歩む哲学

「お日様万歳!」山暮らしで細胞が目覚める歓び

フレデリック・グロ著『歩くという哲学』(山と渓谷社)、小川糸著『今夜はジビエ』(幻冬舎)。2冊を今、並行して読んでいる。小川糸さんは愛犬との、標高1600メートルでの山小屋暮らし。庭を歩くときは裸足。その庭にハーブや野菜を植え、夜は薪ストーブのそばでワインを飲みながら、大音量で音楽を聴く(近所に気兼ねする必要がない)。味噌、梅干しを作る、石鹸を作る、スキンクリームを作る。まさしくエンタテイメントまで含めた自給。すごい人だ。

僕がそうだなあと頷いたのは、「空にお日様があるだけで気持ちが明るくなる」という表現。小川さんは東京では時間割で働く生活だったが、山ではすべてがお日様の動向に左右される、朝の光は何よりのご馳走で、身体の中のすべての細胞が喜びに満たされる、そうも言う。僕も同じ。田舎暮らしという選択は間違いじゃなかった。それは林間をすり抜けたオレンジ色の朝陽が東の窓に進入する瞬間。猫は幸せ。その洗顔の姿を目にする人間も幸せ。

思索をする者は、ひとりで歩くのを好む場合が多い。歩くということは、自分のもっとも深いところにあるリズムを見いだし、それを守ることだから。

 

思索をする者は、ひとりで歩くのを好む場合が多い。歩くということは、自分のもっとも深いところにあるリズムを見いだし、それを守ることだから。

 

フレデリック・グロは上のように言う。歩くことは体によい。1日1万歩をめざそう。世間では以前からそう言われている。僕は・・・毎朝のランニングのほかに、野菜を収穫し、ビニールハウスやビニールトンネルを組み立てたり補修したりで、10時間労働のうち少なくとも5時間、畑を移動する。歩数でいうと3万くらいだろうか。

土の上を歩むリズム、それこそが魂の哲学

ただし思索という言葉からは遠い。日々なすべき作業ノルマは15くらい。日暮れまでにそれをやり終えねば。歩きながら現場に向かう、頭には目前の作業を素早く終え、次のノルマに移動することだけがある。でも、思索には遠いのだけれど、心がギユッと凝縮され、目的地だけを見つめる視界の中に鮮明沈着な心理空間が広がる。足がもたらしてくれるのだ。

田舎暮らし、百姓暮らしという「自分のもっとも深いところにあるリズム」、それが畑土の上を歩き続けることで具体化されるらしい。そしてフレデリック・グロが言うように、僕も独りで歩くことが好き。思索からそもそも遠いが、日暮れ時となるともっと遠くなる。畑仕事がすべて終わり、ヒヨコも寝かせつけた。それからヘッドランプで夕刊を読み、腹筋をやるのだが、35度の角度の腹筋台から体を起こしつつ、「よっし、これがすんだら風呂だぜ、酒だぜ……」。思索とはまるで違う卑近な欲望が頭の中を駆けめぐる。

猫と分かち合う、ささやかな幸福

『今夜はジビエの』の小川糸さんは、動物福祉についても書いている。僕も前回触れたが、狭いケージでのニワトリ、狭いストールでのブタに小川さんは心を寄せている。ドイツでは、卵を産まず食肉にもならないオスのヒヨコを年間4500万羽、生後すぐに殺していたが、殺処分禁止の法律ができた。それによって卵の値段が上がったらしい。でもかまわないと(かつてドイツで暮らしていた)小川さんは言う。平飼いの卵を10個500円で買っているとのことだが、日本のスーパーで売られている卵は安すぎる。ゆったり暮らしているニワトリたちの卵は、この値段が妥当であろう、そう書いている。

動物福祉で思い出すのは天声人語で紹介された静岡県焼津の齋藤洋孝さんだ。齋藤さんは、やたら噛みつく、吠える、唸る、あるいは虐待され、心を病んで人に懐かない、そんな犬ばかり40匹を育てながら暮らしている。

そこに至るエピソードが面白い。かつてフェラーリに乗るほどだった斎藤さんが会社の経営に行き詰る。「もう死のう」と決めて自宅を出ようとしたとき、飼っていた70キロの大型犬がドアの前に立ちふさがり、動かない。

すべてをわかっていて、止めているな・・・そう気づくと死ぬ気が失せた。助けられた命だ。自分以外のために使おう。人に噛みつく犬を保護するという珍しい活動を始めた。

コロナ禍が終息した頃、犬猫などペットの放棄が増えたというニュースは我が心を痛めた。急に家にいる時間が長くなり、ペットを飼う人が増えた。しかし、在宅勤務の終了とともにペット飼育が煩わしくなり捨てる、そんな人が多かったというのだ。

安直なエンタテイメントにすぐ手を出す、しかし飽きっぽい・・・僕の嫌いな都市型思考の産物ではないかという気もするが、どうなのか。うちの猫、退屈なのか、それともジイチャン、ちゃんと働いているかと監視のつもりか、仕事現場にやって来ることがある。僕のそばでゴロゴロをして見せる。僕も一緒にゴロゴロをやり、最後に抱きしめる。

チビくろを抱く
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この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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