→連作障害を避けるため毎年トマト作りには苦心する。今年最初の植え付け場所に選んだ所は日当たりは十分だがかなり狭い。のべ4日で完成。
土の叫び、在宅の迷宮、そして桜の下の 哲学
土だって、さんざん苦しめられたからね。(ハリーナ・ドミトリヴナ)
腰の痛みをこらえてトマト用の腐葉土を運びながら思い出したのは、読売新聞「四季」で目にしたこの言葉だった。ウクライナやガザ、毎日のように炎と黒煙が上がり、瓦礫の山ができる。戦争で傷つく人間が悲しいのは言うまでもないが、家畜も草花も傷つき、大地はもっと傷つく。百姓だからなのか、もともとの性格か、破裂した砲弾や重油の炎を浴びてなお、静かにもの言わぬ土が僕には切ない。
平和とは、耕し、実り、それを食べ、明るい太陽の下でしばし野鳥のさえずりに耳を傾けること・・・ではあるまいか。トマトの苗を植える準備をしながらそんなことを思った。気温が20度に達すると同時にウグイスの声が途切れなく耳に届く。満開のプラムの枝をメジロたちが楽しそうに渡っている。我が暮らしはささやかに平和である。
家だと人は怠ける?
今回のしめくくりはこの話としよう。コロナ禍で定着した在宅勤務。それを当初は勧めたアマゾンだが、2年前に週3日出社と変更し、今回さらに週5日のフル出社を義務付けたという。EV大手のテスラも週40時間以上オフィスで働くよう命じているらしい。
企業側が在宅勤務に背を向けるのはなぜか。自宅では働いているフリをする、家だと人は怠ける、そんな考えが根底にあるからだという。僕は初めて知って驚いたのだが、パソコンのキーボードやマウスが一定時間内に入力がないと警告を出す、数分ごとの撮影で社員がパソコンの前にいるかどうかを確認する、そんなサボリ監視ツールを導入する企業もあるという。いやはや。
完全在宅40年の百姓が斬る! 「仕事の真価は畑が知っている」
在宅勤務ってどうなのよ。かつて残業と休日出勤が月に70時間。在宅勤務なんて夢にも考えなかったサラリーマン時代から転じて40年。完全在宅勤務であるこの百姓はアマゾンやテスラの問題をどう考えるか……。簡略にいうと、百姓仕事はフリなんかできっこない、やってやれないことはないが、結果は歴然、畑の上に現れる。人参、キャベツ、ソラマメ、大根、それらがきちんと出来て収穫してナンボ。仕事をしたかしないかは作物を見れば分かる。
米が高い。備蓄米が放出されても昨年までの倍。「高いじゃないか!」と農家を責める人もいるらしい。そんななか、東京都心にトラクターを連ね、米農家や酪農家による「令和の百姓一揆」と称するデモ行進が行われた。その実行委員会の代表者は「農業の衰退は多くの国民が知らない所で進んでいる。このまま生産者が減れば食糧危機がいつ起きてもおかしくない」と言う。農業者は1960年に1175万人、2000年に240万人、2020年にはなんと136万人にまで減った。平均年齢67。8歳、49歳以下は全体の1割しかいないという。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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