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一番大切なことを見失わない生き方/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(69)【千葉県八街市】

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自給自足を夢見て脱サラ農家40年 第69回

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一番大切なことを見失わない生き方
・・・それが本当の雑草魂
雑草のごとく逞しく・・・
そうは言うが
雑草に比べるとまだまだ弱いかなあ
人間は

「逃避」は本当に悪なのか?

偏差値70の喜びを超越する「自らの手で掴む充実」

競争社会に疲れ果てた・・・

今回はこの話から始めよう。読売新聞の人生案内で目にしたもの。50代男性は幼い頃から競争社会に組み込まれ、塾通い、中高一貫校、そして大学を卒業。結婚して子どももいる今、はたから見ると恵まれた幸せな人生であろう、そう自認する。

しかし 職場では常に勝つことを求められ、足踏みすれば全てが転落してしまうという強迫観念の中でおびえ、疲れ果てています・・・・。

もともと競争が好きではないというこの男性に助言するのは作家である。

いま必要なのは競争ではなく協力です。職場や家族以外で競い合わずにすむ新たな場を見つけ、これまで付き合いのなかった人と新たな交流を始めてみてはどうでしょうか。地域のサークル、文化活動、ボランティア・・・。

読みながら、作家のこの提案は相談者にはたぶん無理だろうな・・・そう僕は感じた。 なぜか。逃避はだめだとわかっているが、競争のない世界に行きたい、こう言う男性は相談の最後にこんな心情を吐露しているからだ。

先祖から伝わった山奥の一軒家で畑を耕し、不便ながら昔と変わらぬ生活を送る人たちの生き方を尊敬します・・・。 

山奥の一軒家で不便ながらも昔と変わらぬ生活、あなたもそれをやってみたらいかがですか

僕が人生案内の回答者ならばこうアドバイスする。「山奥の一軒家で不便ながらも昔と変わらぬ生活、あなたもそれをやってみたらいかがですか・・・」。都会生活の日々。現在の会社勤めに行き詰りを感じ、通勤電車内や寝床の中で『山奥の一軒家』の風景が目の前に現れるようになったら、その人の後半生はほぼキマリである。地域のサークルやボランティア、そんなものでは絶対に埋めることのできない精神状態にあるのだ。 僕のアドバイスにはこう付言される。

山奥の一軒家で働く。その暮らしには人間との競争や強迫観念がありません。鳥の鳴き声以外に音もせず、空は青い、空気は美味しい。まさしく「自由」がそこにあります。ただし、人間との競争はなくとも、自然との競争があります。畑の作物は想定外の低温や高温に痛めつけられ、せっかくの作物が野生動物に食い尽くされることもある。それより何より、昔と変わらぬ生活を維持するには強い体力と忍耐の精神が必要となる、山奥の一軒家の冬はかなり寒いはずですよ・・・。

あなたの現在の心情では、そのまま会社に残っても幸せとは思われません。思い切って山奥の一軒家で生活することを私はおすすめします。成否は五分五分。その五分に残りの人生を賭けてみる。うまくいったら、あなたはきっと、自分の手で育てた野菜や果物を口に運びつつ、偏差値70を得たあの時の喜びにも勝る充実を知る。人生のシナリオは1つだけではないんだな・・・とも思う。

五月晴れの後に待つ「梅雨の試練」

雑草と雨漏りと、それでも進む畑仕事

ゴールデンウィークが終わって半月余り。我が家はスッポリ青葉に埋もれている。暑からず寒からず。1年で最良の時と言ってもよい。しかし梅雨という難敵が待ち構えている。雨の中での畑仕事と荷造り作業。それは晴天の倍も手間がかかる。築42年、何度もの地震や台風に傷められた家が雨漏りする。その対策にも奔走する。エアコンも除湿器もない僕は閉めっぽい布団に梅雨明けまで耐える。だから梅雨はキライ、40度の猛暑の方がずっといい。

梅雨入りを前に力を注ぐのは草退治である。光が少なく雨が多い。悪条件をものともせず大きく伸びるのが雑草。ときに人間は「雑草のように逞しく」そう口にするが、我らはまだ草の強さに及ばない。

そんな梅雨入りを前に力を注ぐのは草退治である。光が少なく雨が多い。悪条件をものともせず大きく伸びるのが雑草。ときに人間は「雑草のように逞しく」そう口にするが、我らはまだ草の強さに及ばない。5月も残り少ない今、その雑草の根を根絶しておく。30度近くにもなる快晴の日、スコップでなぎ倒しておけば翌日には枯れる。迷惑顔をしていた作物は、ああスッキリした、気持ちいい、5月の青い空に向かって喜びの声を漏らす。

自然から学ぶ「ぶれない戦略」

静岡大学農学部教授、雑草生態学を専門とする稲垣栄洋氏は「すごくダイナミックでいろいろな戦略がある」と言う。そして・・・。

いずれにしても、最終目標はタネを残すことで、そこはぶれていません。その目標に向かって最短距離で行くというのが雑草の戦略です。非常に合理的でコスパがいい。逆境のなかでも「一番大切なことを見失わない生き方」が本当の雑草魂だと思います。

先ほどの人生案内の50代男性。「逆境のなかでも一番大切なことを見失わない生き方・・・」。彼はそれを微かだが見つけかけている。あとは最終の自己判断である。自分の体力と精神力。それが職場での葛藤と山奥での一軒家での暮らし、いずれの戦いに向いているか、勝てる相手はどちらであるか。会社に向かう電車の中で、しばしスマホの画面は閉じて、目をつぶり、考えてみるとよい・・・。

寒さを乗り越えた野菜たちは堂々たる姿に成長した。カリフラワー。

5月も残り少なくなった今、寒さを乗り越えた野菜たちは堂々たる姿に成長した。カリフラワー、キャベツ、大根、ブロッコリー。いずれも日中の気温がまだ6度か7度という頃、部屋の温熱機で苗を育て、その苗をビニールハウスとトンネルに植えたのだが、およそ2か月、防寒、換気、追肥、潅水に奔走した。今その努力が実った。上の写真、僕の手にあるカリフラワーは直径が25センチある。

それとは別に、やはりビニールトンネルで栽培した人参とジャガイモも収穫期を迎えている。近隣では、プロ、アマチュアを問わずその収穫はまだ1か月くらい先だ。ほんの少し僕は鼻を高くする。野菜もそれを世話する人間も懸命な寒さの克服だった。夜間の防寒に使った古い布団、毛布、カーペットが役目を終え、畑の隅に積み重なっている。

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この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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