田舎暮らしの「小さなバクチ」
挫折を越え、人生を謳歌する
前回、人生に挫折しかかっている何人かの姿に僕は触れた。「いま」の自分に疑問を抱く。しかし「いま」の道から外れて生きてみようというフンギリはなかなかできない。ウツウツとするばかり。でもね、せっかくこの世に生まれたんだもの、愚痴や文句で人生を濁しちゃつまらない。田舎暮らしには小さなバクチ的要素も確かにある。でも「本気でやると不運が幸運に転ずる」可能性、それは小さくない。
一番大切なことを見失わない生き方/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(69)【千葉県八街市】
梅雨前の晴天と至福の朝食
梅雨入りが近いと報じられている。今日が梅雨入り前の最後の晴天であるらしい。気温29度。しかし空気は乾いており肌に爽やか。気分よくランニングをすませ朝食の準備。上の写真の電気ポット。消費電力1000ワット、1リットルの水がたちまち熱湯になるところがいい。トースターでパンを焼き、モンカフェをカップにセットし、この風景を眺めながらお湯が沸くのを待つ。
会社員時代の朝食が頭の隅に浮かぶ。1分単位で時計を気にしながらせわしなく食べ、朝刊を持ってバス停に急ぐ。満員の電車内で小さく畳んだ新聞を立ったまま読む・・・もって今の我が朝食タイムは夢のよう。時計不要の暮らし。時間を気にせず食べ、ゆるく新聞が読める。
朝食後、畑の見回りで野菜たちに囁きかける。しばらくお日様の顔が見られなくなるぞ、いっぱい光を浴びておけよ・・・この下の写真に見えるグリーンはピーナツ、トウモロコシ、マクワウリをハクビシンやアライグマから守るために張ったネット。総延長250メートル。パイプと合わせた費用は8万5000円。被害を免れたとしてもピーナツ、トウモロコシの売値には及ばない。でも日々のあれこれ対処が面白く楽しく、ちゃんとペイする。紫色はジャンボニンニクの花である。
森林浴がもたらす心身の健康
青い空。白い雲。気温は高いが吹く風は爽やか。空を見上げながら思い出す。森林で社員研修をする動きが企業に広がっているという新聞の記事。社員のストレス軽減、連帯感の向上、ひいては離職率の低下が狙いという。トレーナーの指導のもと、森林を散策してにおいをかぐ、足を水に漬ける、しばらく一人になってリラックスする。森林浴はウェルビーイング(心身ともに良好な状態)につながる・・・。
記事には科学雑誌に掲載された専門家による調査結果が添えられている。成人84人を、東京郊外で森林浴したグループと銀座で散策したグループに分けた。結果、森林浴のグループでは身体の粘膜の免疫を担う免疫グロブリンAが増え、ストレスホルモン(血中コルチゾール)は低下したという。
四方を高い木々に囲まれた暮らしを40年。僕の免疫活性は強いと思う。感染症にも病院にも無縁でこのトシまで来られたのは、時にヤブの伐採で苦しめられはするが、周囲の森がもたらすストレスホルモン低下作用のおかげだと思う。
憂鬱な雨の季節
湿り気と向き合う日々
さてついに雨の季節である。前にも書いた、雨がキライ。僕はどんなに忙しくとも晴天には必ず布団6枚を干す。雨だと不可。およそ1か月、湿っぽい布団で寝る。心もチョッピリ湿っぽい。日が差さないと太陽光の発電量が激減。太陽光発電が大いなるエンタメという老人はこれも面白くない。ちなみに5月の東電への支払いは480円。6月はたぶん4000円近い。落胆である。
野菜に水は必要だが、降りすぎに比べたら水不足の方がいい。足りない水は30メートルのホースを引っ張りまわせばなんとかなる。朝食をすませ、小雨の中を巡回。トウモロコシ、ピーナツ、ナス、ピーマン、人参、ゴーヤ、いずれも順調、キュウリだけが少しばかりカビ病で元気がない。
ピーナツは花が咲き始めている。だいぶ草に囲まれている。よっし、すぐやろう。畝間を這いまわる。大きい草はこの下の写真のような姿勢でいい。しかし、ピーナツの株の直下に生えた小さな草は葉の色も紛らわしく、平身低頭、うんと目を近づけないと見えず地に伏す姿勢でやる。ピーナツは花の後が剣になり、土にもぐって実をならす。直下の草は小さくともそれを邪魔するのである。
順調な野菜と小さな課題
次にサツマイモ畑で足を止め、育ち具合を観察する。200本の苗を植えたのは5月24日(この下の写真)。活着し、根を伸ばし始めているが、高温を好むサツマイモは雨の中ではツルの伸びは鈍い。勢いを増すのは7月の半ば。そんなこんなでサツマイモを観察しているところで僕は便意を感じる。
朝食後、早ければ30分、便意がやって来る。しかもかなりのパワーでもって。ゆえに部屋のトイレに向かうゆとりなし。いつもの、畑に何か所が設けた「簡易トイレ」で用を足す・・・。ここでいきなり無粋でクサイ話を持ち出すわけは、しごく真面目な、サイエンティフィックな「ウンチ論考」がこの後に控えているからだ。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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