田舎暮らしの本 Web

  • 田舎暮らしの本 公式Facebookはこちら
  • 田舎暮らしの本 メールマガジン 登録はこちらから
  • 田舎暮らしの本 公式Instagramはこちら
  • 田舎暮らしの本 公式X(Twitter)はこちら

田舎暮らしの本 11月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 11月号

10月3日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

選手一人ひとりが主人公!発足1年で全国大会出場を果たした八代市の男子プロバレーボールチームが熊本県初のVリーグ参入を目指す

執筆者:

熊本県中央部の南側寄りに位置し、県内第2位の人口を擁する八代(やつしろ)市で、2024年10月に発足したバレーボールチーム「熊本Virex(ヴィレックス)」が2026-27シーズンからの新・Vリーグ参入に向け申請準備中。熊本県初の男子プロチームとして、次世代のバレーボール選手を育成する環境を整備し、選手の一歩目を踏み出す勇気を後押ししています。

この記事の画像一覧を見る(5枚)

ワクワクさせられる大人になってほしい

元Vリーガーが帰ってきた

 若年層におけるスポーツが盛んで、バレーボールでも全日本にも入る選手を輩出している八代市ですが、市内には県内ベスト4に入る高校がなく、鎮西高校を始め、熊本工業、城北高校、開新高校など、優秀な選手の多くは熊本市の強豪校に進学しています。高校卒業後、さらに上を目指す選手は、関西や関東の強豪大学へ進学し、熊本をも離れてしまいます。身長167センチでVリーグでも活躍し、世代別日本代表にも選出された早瀬省吾選手もその一人でしたが、自ら地元の八代市へ帰って来られる環境を兄の雄太さんと作りました。

 お話を伺ったのは、熊本Virexの創設に向け2024年1月に設立した、一般社団法人熊本スポーツクラブの代表理事を務める早瀬雄太さんです。早瀬さんも高校までバレーをしていましたが、その後は八代市で飲食業を経て整体院を開業。「何か大きなことをやりたい」とくすぶっていた思いを、熊本県初の男子プロバレーボールチーム発足という、まったくのゼロからのスタートで実現させました。

「スポーツの力で、八代の未来を動かしたい」と兄弟の得意分野を活かして一歩を踏み出した早瀬さん
「スポーツの力で、八代の未来を動かしたい」と兄弟の得意分野を活かして一歩を踏み出した早瀬さん

「八代市は、地域的にスポーツが盛んですし、多くの有名選手も輩出しています。でも、もっと上でプレーするためのチームがない。出ていく選手たちの中で、キャリアが終わったあとに八代に戻って何か活動している人はほぼゼロの状態でした」(早瀬さん)

 弟の省吾さんはVリーグで7シーズンプレーし、引退後はV2リーグのサフィルヴァ北海道(現:北海道イエロースターズ)でGM補佐を務め、リーグ優勝を経験。そこで「これまで培った経験を、今度は地元・八代で活かしたいね」という兄弟の共通の思いがきっかけとなりました。

「最初はゼロどころかマイナスからのスタートでした。熊本県内には、男子がトップレベルでプレーを続けられる環境がほとんどなく、地元で夢を追い続けられる場所を作りたいという思いで動き始めました。その思いに共感して、かつての夢を諦めかけた選手たちが県内外から集まってきたんです。八代出身で戻ってきた選手もいれば、県外から熊本で挑戦したいと来てくれた選手もいます。一緒にVリーグを目指すという明確な目標ができて、そこから本格的にチームが動き出しました。応募してくれた選手は13名、トライアウトに進んだのは10名。熊本県内だけでなく、山梨の大学生、元Vリーガー選手、そして沖縄・与那国島の自衛官まで、多様なバックグラウンドを持つ選手たちが集まりました」(早瀬さん)

最後の思いをかけてくる選手たちを受け入れる

物足りなさを感じていた

「一度きりの人生、挑戦して良かった」と長嶋キャプテン
「一度きりの人生、挑戦して良かった」と長嶋キャプテン

 キャプテンの長嶋郁弥選手も、2024年8月のトライアウトを受けて加入した選手の一人です。長崎県壱岐市出身の長嶋選手は中学から高校までバレーをしていましたが、福岡で就職して競技から離れました。仕事を辞めて地元に帰ったときに街のチームから声がかかり再開したものの、そこでは物足りなさを感じていたそうです。

「壱岐でプレーヤーとして活動しながら、小学生の指導もしていた際に知り合いづてで熊本に男子プロバレーボールリーグを目指すチームが発足することを聞きました。『熊本でチームが立ち上がるらしいからトライアウトを受けてみないか』とお話をいただいたときにチャンスだと思いました。挑戦しても受かるかどうか、通用するかどうかも分からなかったけど、一度きりの人生なので挑戦して良かったです」(長嶋選手)

地域に入って愛されたい

 長嶋選手は仕事の関係で、壱岐から通いで練習や試合に参加していましたが、「『八代から男子のプロバレーボールチームを』というコンセプトだから、違う場所に住むのはおかしいのではないか」と、2025年の1月に八代市に移住。半年間は地元に慣れるため熊本スポーツクラブでスポンサー営業をしたり、イベントに参加。現在はスポンサー企業で働いています。

「ここに来るまで八代を知りませんでした。しかし、新幹線が通っているので八代に来る際に不便は感じませんでした。八代を盛り上げたい、地域にちゃんと入って地域の方に愛されたいと思ったので移住を決めました。ここは田舎のところもあるし、都会を感じる場所もある。24時間のスーパーがあるなど生活する上でストレスがないため、自分的には住んで良かったと思います」(長嶋選手)

 入団後はキャプテンに指名されましたが、メンバーには熊本の強豪校出身者も多く、最初は馴染めるか不安もあったそうです。長嶋選手の出身高は弱小校で、若い選手が多いなか、チーム内では年上のため溶け込めるかも不安でした。キャプテンとして受け入れてもらい自信がついてきたものの、いまも理想のキャプテン像を探しています。

「上のレベルでやりたい気持ちがあるのなら、挑戦してみた方がいい。それで挫折したとしても、自分のバレー人生が終わるわけじゃない。逆に通用したら自信になって、もっとバレーが楽しくなって、もっと練習したいとか、もっと上のレベルに挑戦してみたい気持ちになると思う。挑戦することにマイナスはないので、そこでびびって、『どうせ自分なんか』ってなるより、挑戦してみたほうが絶対にプラスに働きます。くすぶっている気持ちがあるなら、それを吐き出す環境に身を置くことも大事だなと」(長嶋選手)

全国大会出場権を獲得

 2025年5月に行われた「全日本6人制クラブカップ熊本県大会」では、チーム創設からわずか半年で優勝。熊本県代表として全国大会への出場権を手にしました。

「仕事をしながらなので、なかなか集まれなかったり、満足にチーム練習ができなかったりする部分はありました。しかし、メンバーにはポテンシャルがあるので、そこで勝っている部分はあった。これからVリーグに入って強いチームと試合をしていくときには、チームとしてのまとまりがないと勝てない。これからもっと個人としても、チームとしても練習に対する意識を高くもたないといけないと思います」(長嶋選手)

長嶋キャプテンの出身地、壱岐でもキャラバンを開催。小中高生合わせて合計200名以上が参加
長嶋キャプテンの出身地、壱岐でもキャラバンを開催。小中高生合わせて合計200名以上が参加

一人ひとりが主人公。自分の物語をどう作っていくのか

地域に根ざしたセカンドキャリア

 八代市のスポーツ振興課、八代市スポーツ協会と三者協定を締結し、地域イベントなどにも積極的に参加している熊本Virex。地元では、保育園から小中学生を対象にしたバレーボールスクールを運営しており、県内各地からの依頼を受けてバレー教室も開催しています。今後は、こうした活動をさらに広げ、地域の子どもたちが気軽にバレーボールに触れられる機会を増やしていく予定です。

「熊本ヴィレックスの認知度は、県内ではかなり広がってきています。バレーボールに関わる人であれば、ほとんどの方がチームの存在を知ってくださっていると思います。スクールに通う子どもたちからも、『将来はヴィレックスに入りたい』という声をもらうようになりました。今後は男子のU15・U18チームの設立も視野に入れ、次の世代が地元で挑戦を続けられる環境を整えていきたいと考えています。

私たちは“プロとしてプレーできる環境”と“その先のキャリア”を、同時に整えていきます。Vリーグは今後、選手のプロ契約比率を高める方針が明確になっていますが、競技人生は人によって長さが異なり、いつか必ず次のステージを迎えます。だからこそ、引退後にフロントで働く、あるいはスポンサー企業で力を発揮するといった“戻って来られる受け皿”をクラブとして用意しておく。バレーをやり切ったあとも、熊本でキャリアを積み続けられる道を提示する。それが私たちの責任だと思っています。いまはまだトップを争うチームではありませんが、プロとしての環境整備と地域に根差したセカンドキャリアの仕組みを前提に、選手たちと一緒にクラブを成長させていきます」(早瀬さん)

くすぶっていた気持ちに向かって挑戦している選手たちが地域の未来を創っていく
くすぶっていた気持ちに向かって挑戦している選手たちが地域の未来を創っていく

犠牲なしに何も得ることはできない

「まだ立ち上がったばかりのチームだからこそ、一人ひとりの個性が光りやすい」そう語る早瀬さん。完成されていない今だから、自分たちの手で形を変えていけるともいえます。

「人は、何かの犠牲なしに何も得ることはできない。それは僕がずっと感じてきたことです。大きなものを手に入れるためには、何かを手放す覚悟が必要なんです。環境を変えることは簡単ではありませんが、一歩を踏み出す勇気を持てるかどうかで、人生はまるで違ってくる。やりたいことは、できるときにやった方がいい。守ってばかりでは、きっと“あのとき挑戦しておけばよかった”という後悔が残る。僕は迷ったときはいつも、“ワクワクする道”を選びます。リスクがあっても、未知の道を選ぶ方が、きっと自分も周りも動かす力になるから。選手たちにも伝えています。『全員が一人ひとり、自分の物語の主人公なんだ』と。どう生きるか、どう挑戦するか、その選択の積み重ねがチームの未来を創る。誰かのために頑張ることも大切だけど、まずは自分が心から楽しむこと。その姿が、人の心を動かすんです」(早瀬さん)

 熊本Virexのスローガンは「八代(やっちろ)を、V代(ヴィっちろ)へ」。八代の「八」をひっくり返すと「V」になる、という逆転の発想がこのクラブの象徴です(「やっちろ」は地元で親しまれている呼び名)。「遊び心を忘れずに、楽しむことに全力で向き合いたい。選手たちはバレーが大好きで、本当に真面目なんです」と早瀬さんは笑います。固定概念にとらわれず、ワクワクする挑戦を重ねながら、見る人の心を揺さぶるプレーを届ける。熊本初の男子プロバレーボールチームとして、熊本Virexはこれからも、八代から“覚悟と希望”を灯し続けていくことでしょう。

この記事の画像一覧

  • 選手一人ひとりが主人公!発足1年で全国大会出場を果たした八代市の男子プロバレーボールチームが熊本県初のVリーグ参入を目指す|熊本ヴィレックス
  • 「スポーツの力で、八代の未来を動かしたい」と兄弟の得意分野を活かして一歩を踏み出した早瀬さん
  • 「一度きりの人生、挑戦して良かった」と長嶋キャプテン
  • 長嶋キャプテンの出身地、壱岐でもキャラバンを開催。小中高生合わせて合計200名以上が参加
  • くすぶっていた気持ちに向かって挑戦している選手たちが地域の未来を創っていく

この記事の画像一覧を見る(5枚)

この記事のタグ

この記事を書いた人

マイヒーロー

マイヒーロー

「MY HERO(マイヒーロー)」はスポーツに特化した企画・制作会社です。地方で頑張るアスリートや競技団体を取材し、「スポーツ×田舎暮らし」をテーマにした記事をご紹介していきます!

Website:http://my-hero.jp/company/

田舎暮らしの記事をシェアする

田舎暮らしの関連記事

熊本市に新オープン!270年の伝統が本店で復活。登録有形文化財級の贅沢空間「日々麹舎 本店」は絶対行きたい麹のテーマパーク

激推しの逸品はコレ! 折り紙から連想する大人スイーツに、熟練職人の技が光るお菓子まで【熊本県のご当地お菓子3選】

【道の駅大賞2025|九州・沖縄編】絶景・グルメ・レア体験まで!プロが選んだ道の駅BEST3を発表

離れと広い庭付き!日当たり&眺望GOODな土間付き平屋でゆとりある田舎暮らし【熊本県宇土市】

【Iターン移住で夢をかなえる】大自然に囲まれた宿を開業! 移住後8年かけてかなえた夢【熊本県南阿蘇村】

平屋で始める快適な田舎暮らし|宇土シティモールへ車で5分!子育て世代からシニアまで満足できて移住・二拠点生活に最適【熊本県宇土市】

《シニア専用ハウスあり》《一人暮らし・老後も安心》海も山も一望できる「伊豆下田オーシャンビュー蓮台寺高原」で自分らしく暮らす【静岡県下田市】

注目の移住先! 豊かな自然と暮らしやすい利便性が調和した東京・多摩地域で暮らしませんか【東京都多摩地域】

50代から「地域おこし協力隊」で夢への第一歩を踏み出す! 長年の社会人経験を活かして充実した人生を