豊穣な三陸の海に恵まれ、全国有数の漁獲高を誇る気仙沼市。ここには震災からの復興を経て、漁師を目指す若手移住者が集まり始めている。移住支援とともに実地の研修や漁業会社とのマッチングも行われ、新たな担い手に地元の期待も大きい。
掲載:2025年10月号
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宮城県気仙沼市 けせんぬまし
宮城県の北東端、三陸海岸にある。人口約5万5400人、年平均気温11.2℃。漁業のまちとして沿岸から遠洋まで各種の漁が盛ん。地域の食文化を守るスローフード運動にも取り組む。仙台から三陸自動車道で約2時間、東京駅から東北新幹線・一ノ関駅経由JR大船渡線で気仙沼駅まで約3時間30分。
朝は水産会社でカキ養殖、午後は個人経営の漁に出る
気仙沼市の若手漁師 石井洸平さん(右)&松影拓朗さん(左)
石井さん(31歳)は秋田県出身。大学卒業後、京都府内で定置網漁に携わった後、2021年に気仙沼市へ。現在は水産会社でカキ養殖漁業の傍ら、漁業権を取得して個人での漁も行っている。松影さん(29歳)は愛知県出身。水産高校卒業後、島根県隠岐島で巻き網漁に8年、三重県でエスコートボートに2年乗り組んだ後、2024年に気仙沼市へ。親方の元でカキ養殖漁業に携わる。写真/「緑の真珠」とも称される自然豊かな気仙沼大島で漁業に就いた2人。
石井洸平さんは海のアウトドアが好きで漁師になった。最初は京都府で船に乗ったが、実家に近い東北で漁業がしたいと住居と転職先を探して気仙沼市へ。短期研修で種類の異なる複数の漁を実体験した後、気仙沼湾に浮かぶ気仙沼大島のカキ養殖会社を選んだ。
「漁業権取得が目標だったので、その希望を伝えたところ、『サポートする』と言っていただけたのが決め手になりました」
漁業権の取得には、漁業を行う地域に住居があることが条件。しかし観光も盛んで人の出入りがある島では、その確保が難しかった。就業してしばらく後、石井さんは会社の社長の計らいで島内の借家に入居。現在は漁業権を得て、午前中は会社の業務でカキ養殖の作業、午後からは個人で魚や海藻などさまざまな漁に挑戦している。
「安定した養殖に、季節ごとの漁をプラスすることで収入の安定が望めます。そして何より、漁の方法や場所を自分で探すのにはやりがいを感じますよ」
愛知県出身の松影拓朗さんは、将来親方として独立し、事業を継承してくれる漁師を育てるのが目標。気仙沼大島でカキ養殖に携わり、漁業権取得を目指し島内に住居を探している。
「隣の漁場で働く石井さんは移住漁師の頼れる先輩です」
気仙沼は津波で養殖施設が流される被害を何度も受けている。その都度、多くの費用と労力をかけて復旧作業を繰り返してきた。しかし石井さんは言う。
「どうしようもない自然の力に食い込んでいくのは、漁業の醍醐味だと思っています」
船外機付きの小型の漁船で午後からの漁に出る石井さん。
カキむきは機械ではできず一つひとつ手作業で行う。
夏から秋に獲る海藻のテングサは、洗浄と天日乾燥を繰り返してから出荷する。
会社や漁の種類を超えた、つながりが若手を後押し
(一社)歓迎プロデュースは「気仙沼を、日本一漁師さんを大切にするまちに」をコンセプトに、浜の女性と移住女子が2019年に立ち上げた。漁師のための銭湯と食堂を開設し、気仙沼で漁師を目指す人のために短期研修を提供。担い手がほしい漁業者とのマッチング、雇用契約や最低賃金の確認などの支援を行っている。補助金の情報など行政と連携したサポートも含め、相談窓口として大きな役割を担う。
立ち上げメンバーの1人、根岸えまさんは学生時代に震災復興ボランティアで訪れ、海に生きる漁師の格好よさにひかれて東京から移住した。
「気仙沼市では若手の漁師たちが少しずつ増え、会社や漁業の種類を超えた横のつながりが生まれています。お互いに情報交換をしたり、技術を教え合ったり。新しい担い手の若い漁師さんたちが安心して働ける環境が育っているのはうれしいです」
左から、歓迎プロデュースの根岸えまさんと男乕祐生( おのとらさちを)さん。男乕さんは奈良県から移住した。
日本一漁師を大切にするまち【気仙沼市の漁業支援】
(一社)歓迎プロデュースでは漁師になりたい人と担い手がほしい漁業者とのマッチングを支援。1週間から10日間の短期研修は、カキ養殖や定置網漁などを営む研修先で実際の仕事を経験するもの。市のお試し移住制度を活用して滞在費やレンタカー代の補助が出る。
問い合わせ/(一社)歓迎プロデュース ☎0226-25-8834 (鶴亀の湯・鶴亀食堂、7:00~13:00)
住所/宮城県気仙沼市魚市場前4-5みしおね横丁
気仙沼市の多くの人に活躍を知ってほしいと「まちづくりカフェ~若手漁師さんと話そう!」が開かれた。
ウニのシーズンは5月から8月。保存用は塩ウニに加工。
養殖したカキの水揚げは11月から春先まで。
漁業を仕事にするためのアドバイス
「海や漁への愛着が大切です。自然相手で災害などのリスクもあり、収入も多くはないですから。そのうえで研修を通じて漁師が自分に合っているか、どの漁法を選ぶのか見極めてください。また、経験後に離脱しても後ろめたく思わず、この地域とかかわり続けてもらえればうれしいです」(石井さん&松影さん)
気仙沼市の魅力はここ!
- 冬は降雪が少なく比較的温暖、夏は乾燥していて涼しい
- 外からの人を受け入れる気質がある
- 市街地には店舗も多く、暮らすのに便利
- 若手漁師の横のつながりが強い
- とれたての海産物・農産物がおいしい
【気仙沼市 移住支援情報】
お試し移住で気仙沼の暮らしを体験! 子育て世帯にうれしい制度も
(一社)まるオフィスが市から受託している「気仙沼市移住・定住支援センター MINATO」では、お試し移住や各種イベントの開催などを中心に多彩なサポートを展開。昨年度は33人が移住するなど、20~40代の移住者が多いのも特徴だ。お試し移住には、3泊以上2週間以内の期間を対象に1日当たり6500円を補助。「親子おためし暮らし」として、滞在中、子どもが地元のこども園に通園できるプログラムも用意している。
問い合わせ/気仙沼市移住・定住支援センター MINATO ☎0226-25-9119
http://minato-kesennuma.com
公営住宅を整備したお試し暮らし住宅は、月1万5000円(水道光熱費含む)で利用可能。
移住希望者や移住者向けのイベントも定期的に開催。MINATOが主催した「けせんぬまWelcome Party!2025」の様子。
「私も移住者です! 漁師まちならではの、移住者を温かく受け入れる気風が気仙沼にはあります。移住前から移住後までトータルでサポートします!」(気仙沼市移住・定住支援センター MINATO コーディネーター 加藤航也さん)
文/新田穂高 写真提供/(一社)歓迎プロデュース、気仙沼市移住・定住支援センター MINATO
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