田舎暮らしは貧しさと豊かさのあいだ
自然と向き合う暮らしのご褒美
畑仕事を終え、熱い風呂に入り、晩酌する。そしてブログを書き、この、田舎暮らしの本の原稿を書いたりする。ちょっとくたびれたかなという頭を少しの時間、癒す。それがこのモヤシ相手の遊びなのである。垢がたまるので毎日台所に行って水を取り替え、垢を洗い流してやる。そして元の位置に戻す。
それで終わりではなく、しばし小さな緑を僕は眺める。BGMが欲しいな。静かな映画音楽、Once Upon a Time in America 、シンドラーのリスト、ひまわりなどのテーマ曲を流しながら小さな緑に目を寄せる。電熱マットは太陽光発電につないであるゆえ電気代はかからず、この遊びでの支出はタネ代だけ。しかし、夜のいっとき、これで得られるくつろぎと癒しはなかなかのものだ。
テレビでよく目にする有名観光地での大混雑。僕はもともと人混みが好きではないのだが、田舎暮らしをしてからはその性格がさらに加速したかも。観光地で川の流れのような人群れに加わってほんとに楽しいのかなあ・・・ヒネクレじいさんの独り言だ。
田舎暮らしとは、我が独断ながら、孤独に浸ることである。独りの世界に深く沈むことである。そうすることで見えてくるものがある。生き物たちの声、花の色、空の色、雨水をためる大きな水タンクの静かな揺らぎ・・・不思議なことに、孤独は心身の健康を害するとの説が世にあるけれど、我が体験を通せばむしろ逆だ。心身のサプリメントだ。
川の流れのような人混みの中で疲れを感じているアナタに、そっと・・・僕は言う。田舎暮らしは最良の「心と体の健康食」のようですと。億単位のマンション生活からは遥かに遠いよね。さりとて食べるものに困るような貧しい暮らしでもないよね。どこに行かずとも、カネかけずとも、日々の生活の中にレジャーだっていっぱいあるし。
真っ赤に染まる西の空を仰ぎながら、ああ今日もよく働いた、明日もがんばるぞ・・・畑仕事を終えた僕は腹筋とストレッチをやってから熱い風呂に向かう。ちっともドラマチックじゃなく地味この上ない日常。されど、静かな時間、ワイルドな時間、ほどよく交錯するところが僕は好き。ごはんが美味い、よく眠れる。加えて雑念生じず心に隙間なく不思議と満ちていること。ちょっと採点が甘いかもしれないが。でも人間の洪水の中でため息ついて暮らしているアナタに僕は言う。豊かさと貧しさ・・・田舎暮らしはその真ん中あたりに位置するのだと。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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