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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

10月31日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

好きなものは力を与えてくれる、心を浮揚させる/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(79)【千葉県八街市】

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寒さと向き合う自給自足

冬の畑は静かだが過酷だ

まだ午後5時前だというのに空気の冷たさは強烈。明朝は東京で3度だというから、当地はかろうじてプラスの気温というところまで冷えるのではなかろうか。暗くなりかけた畑を走り回る。すでに2枚かかっているビニールにもう1枚加えて寒さを防ぐ。とりわけ力を入れるのが人参。本来であればこの時期すでに出荷態勢にある。

だが昨夏、数回まいた人参は強烈な暑さと激しい雨のダブルパンチでほとんど発芽しなかった。ようやく暑さが遠のいた9月にタネをまき直し、発芽は順調だったが、すでに気温は低く、日照時間は短い。なんとかしたい。固定のビニールで保温し、夕暮れにはもう1枚防寒のシートを掛けている。しかし氷が張ってもおかしくない冷え込みが数日続くとなればそれでも不足だ。僕は冷たい空気で思い通りに動かなくなった手をどうにか働かせ、作業をすませたのである。

で、思う・・・あのアイドル・・・ふふっ、地味で、カネにならず、汚いまでは知っていたが、どうやら、農業には「寒い」というファクターもあるんだということまでは思い当たらなかったんだな。

今日は荷物を出しに行った足で資材を買うためホームセンターに行った。そこで、売り場にズラッと並ぶシクラメンに目がいった。買うことにした。

今日は荷物を出しに行った足で資材を買うためホームセンターに行った。そこで、売り場にズラッと並ぶシクラメンに目がいった。買うことにした。毎年、師走、僕はこうしてシクラメンを衝動買いする。真っ赤な花は部屋の汚さを帳消しにしてくれる。

冬は怠けたくなるという人間の本音

怠けたいとの思いは気温の低さに比例して強くなる。

朝の気温は零度ないし高くて3度、そういう日がずっと続いている。朝一番、野菜の防寒シートを外すために畑を歩くと、靴底でガリガリという音がする。この下の写真は結球を開始したばかりのキャベツ。この寒さでは、さらに地面の上では、人間は生きられない、だがえらい、キャベツは生きられる。

霜が降りた畑で結球を始めたキャベツ、冬の寒さに耐える野菜の生命力

朝一番の作業が心を整える

葉に目を近づけて見る。霜の結晶が美しいね。キャベツの強さに感心する一方で、ちょっと面白いなと思ったことがある。冷涼な気候を好むと言われるジャガイモが思ったよりもだらしないこと。今日の寒さでいっせいに横倒し。なかには凍傷で葉が溶けかかったものもある。そのジャガイモを掘り上げた。そのあとに春収穫のブロッコリーを植える予定。

キャベツの葉に付着した霜の結晶、冬の畑に現れる自然の造形美

怠けたいとの思いは、気温の低さに比例して強くなる―。そんな説を聴いたことがある。寒い朝、布団から出るのがつらい季節になってきた。ああ、冬の間だけ、どこか南の国で暮らすような生き方はできないものか、と夢想する。

こう書いたのはしばらく前の天声人語だ。ウン、気持ちはわかる。僕もサラリーマン時代はそうだった。今は幸か不幸かこの気持ちとは無縁な暮らしをしている。ひとつの理由、それは夏に比べて冬の作業が増えるためだ。すなわち、野菜たちへの防寒作業。前の日の夕刻に掛けた防寒シート。注いできた朝の光を無駄にしたくない。1分でも早くそのシートを外して中の野菜たちを心地よくしてやらねば。そんな気持ちで畑に急ぐ。

怠けたいとの思い・・・それがないのは一刻を争う必要性が百姓仕事にはある。そして、もしかしたらと思い至るのは、サラリーマンの場合、起きて、食事したら、駅まで行って電車に乗らねばならない。すなわち、寝起きする自宅、それと職場にワンクッションが介在する。怠けたいとの思いの背後にこの介在が影響してはいないか。僕の場合、起きたら一目散で”職場”に向かう。駆け足で30秒の距離。手先、首筋の冷たささえ我慢すれば作業はじき終えられる。終えたら朝食だ。毎日のノルマである防寒シート外し。先頭バッターをまず打ち取ったぞ、そんな心地よさと安堵感で朝の珈琲を楽しむことができるのだ。

農業従事者25%減、60代が大幅減。

農業人口減少とこれから

ビニールハウス内に定植された小さなブロッコリー苗、早春収穫を目指す冬の準備

早春の収穫をめざすブロッコリーの定植に半日を費やす。この上の写真は9月末までトマトがあったハウス。半分枯れたそのトマトと支柱、足元の雑草、それを撤去してクリーンにするまで2日がかりだった。ブロッコリーはほんの5センチ足らずの苗ゆえに、これから続く2か月の寒さはキビシイ。でも、このハウスの中ならダイレクトな寒気は避けられる。

マルチを張って寒さ対策を施した露地のブロッコリー苗、冬の農作業の工夫

しかしハウスの中だけでは植えきれなかった。60本残った。しょうがない、露地だ。不公平だよな、ハウスの中に植えてもらった苗を思うと。よっしゃ、ならば、せめてマルチをしてやろう。半分しびれかけた手で10メートルのマルチを張り終えた。

5年おきに実施している「農林業センサス」。農水省の発表では農業従事者は102万人で前回調査から25%減。1985年以降で減少率は最大だという。物価高騰で肥料や農機が値上がり、また猛暑の影響で農業を続けるのを断念する高齢者が増えたという要因が背景にあるらしい。意外なところで僕が注目したのは、減少率が70代よりも60代の方が高いという点。改正高年齢者雇用安定法で、70歳まで働ける機会の確保が企業の努力義務になった。そのために、60代で会社を退職して就農する人が減った、どうやらそれが理由であるらしい。

僕は季節による違いはほとんどないが、一般的な農家は冬の作業が少なくなる。だからおそらく寒さによる辛さはあまりなく、やはり、最も体にこたえると感じるのは猛暑であろう。農作業中に熱中症で倒れて亡くなる高齢者は少なくない。だから毎年の猛暑で・・・もういいかという気持ちになる人が多いのはよくわかる。僕の体はまだ5年くらいは動くと思う。45度の畑でスコップ仕事をしても息切れや動悸は全くないから。

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この記事を書いた人

中村顕治

中村顕治

【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。

Website:https://ameblo.jp/inakagurasi31nen/

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