災害現場で感じたこと
“使ったことがない”という壁
村田さんはタイガー魔法瓶創設時のように、災害の支援にも積極的に関わっています。
「能登半島地震の翌日、支援物資として“魔法のかまどごはん”を提案しました。しかし、『使い慣れない道具は現場で活用しきれない』という理由から、採用には至らなかったことがあったんです」
どれほど優れた製品でも、使用経験がなければ真価を発揮できない……。その現実を突きつけられた瞬間でした。
「転機は、奥能登豪雨の翌日に単身で珠洲市へ入り、お寺での炊き出しに協力したときです。そこで初めて、被災者の方々の役に立てたと実感しました。
現地との繋がりがない中での支援には限界があります。だからこそ、私の使命は“災害が起こった後”ではなく“災害が起こる前”にあるのだと確信しました。地域のイベントを巡り、子どもたちに炊飯の楽しさを伝える。その種まきこそが、いざというときの備えになるのだと考えるようになりました」
子どもたちの成功体験が、防災力になる
そこで新たに始めたのが、子どもたちへの炊飯体験です。現在は能登を中心に、子どもたちの「防災・火育(ひいく)」を目的としたワークショップを開催しているそうです。
「能登では、子どもたちだけでごはんを炊く体験を提供しています。炊き上がった頃に合流した親御さんは、そのおいしさに一様に驚かれます。私はあえて、その場では短めの挨拶しかいたしません。火の扱いについては厳しく伝えますが、炊き方の詳細は教えないようにしているのです。
『お父さん、お母さん! こうやって炊くんだよ!』
イベントを終えた子どもたちが自宅へ帰り、お父さんやお母さんに『どうやって炊いたか』を誇らしげに語る……。そんな光景を想像するのが、私にとって何よりの楽しみです」
子どもたちの“火育”や“体験”について、なるべく多くの機会を与えていきたいと語ってくれました。
「かつての子どもたちは、家事の手伝いを通じて親に褒められ、小さな成功体験を積み重ねていました。そうした生活に密着した体験こそが、子どもたちの『生きる力』を育むと信じています。
学生時代の野外活動施設での経験を原点に、現在は独立行政法人国立青少年教育振興機構と防災教育に関する包括協定を締結。多くのイベントを通じて、次世代を担う子どもたちに体験の場を広げています。
当社のミッションは、『温もりあるアイデアで、食卓に新たな常識をつくり続ける。』こと。新聞紙でごはんが炊けるという驚きが、いつか子どもたちにとって“魔法”ではなく、当たり前の“常識”になる日を願って、活動を続けています」
生活に密着した成功体験が、子どもたちの「生きる力」を育てる。一膳の“魔法”のごはんがつなぐ温もりから、未来を生き抜く強さへと変わっていく。その真っ直ぐな想いに、深く胸が熱くなりました。
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田舎暮らしの本編集部
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