季節によってグルグル回る作物を食べているうち、自分と彼らの境界がなくなる・・・
畑と共に生きる身体 作物と人間の境界が消える瞬間
僕は小さな喜びに包まれている。ちょっと大げさかもしれないが、両手が使える・・・これはやっぱり喜びなのだ。ずっと雨が降らなかった。乾燥は野菜にとってキビシイと同時に、酷使する我が手もキビシイ。手の5本の指がどこもかしこもヒビ割れ。靴下を履くのも、新聞をめくるのも、不便だけでなく、痛みを伴う。皿洗いは痛みをこらえ、荷造りはもっとこらえてやる。パソコンのキーボードは指の力を半分抜きながらどうにか打つ。
これ以上ひどくなったら生活が立ち行かなくなる・・・しばらく左手1本で作業することとした、この下の写真のごとくに。ヒビ割れは両手ともだが、やはりきき手である右が圧倒的にひどいのだ。そして・・・ああ、正直である。雪が降った、続けて雨も降った。空気の乾燥が途切れた。我が手は今日、見事に復活したのである。
立春から10日、マイナス気温からはなんとか解放されたようだが、やはり陽が落ちるとぐんと冷え込む。昨日、帽子型のプラスチックカバーにまいたカボチャの種。それに今日はビニールをかぶせることにする。そもそもここはビニールハウスの中だから、寒さ対策はこれでもって三重防備ということになる。
このハウスは幅4メートル。上の写真、向かって左にジャガイモが3列植えてある。僕の思惑通りになるならば、ジャガイモは5月に収穫できよう。一方のカボチャが大きくツルを伸ばし始めるのは4月の終わり。1か月弱の間、両者が競合することになろうが、なんとかやりくりする。
野鳥との知恵比べ 冬の畑を守る作業
ここ1週間、ほぼ連日、野鳥からの野菜防御に腐心している。最初の被害は昨年末のキャベツ。急ぎネットとビニールを張ったが、ここがダメならあっちだとばかり、ヒヨドリの群れは次々と狼藉を働く。キャベツ、白菜はそれぞれ6か所に分散して作ってあるが、それに全部ビニールとネットを張るというのは大仕事である。
でもな・・・と少しばかりの優しさが我が心に生じる。寒さがキビシイと畑の作物の被害が増えるのは、暖冬ならばある野山の草や草の実がなくなるからだ。たしかにこっちは困るけれど、彼らも生きることに懸命なのだ。子熊のことを連想する。母熊とともに里に下りて柿などを食べた。しかし母熊は何かの事情でいなくなった。母亡き後、子熊は以前の記憶をたどり里に下り、ひとり柿の木に登る。そして、農家の床下や倉庫に入って眠る・・・熊の被害を受ける人たちの苦労は言うまでもないが、母からはぐれた子熊の悲しみも僕の胸を打つ。
サバイバル登山家としてよく知られている服部文祥氏が、田舎における「サバイバル生活」を実践しているという報道に僕は感嘆した。2019年、関東近郊の山村に築110年を超す茅葺、トタン屋根の家を手に入れた。そこで、沢の水を引き、畑を耕す。できるだけ金を使わない自給生活を行う。
肥料を入れなくても、土壌細菌のバランスがよくなると野菜は育つ。季節によってぐるぐる回る作物を食べるうち、自分と彼らの境界がなくなる・・・。
「自分と彼らの境界がなくなる・・・」という言葉に深い味わいがある。この下の写真は、あの雪の日、ふと朝食にキャベツが食べたくなって、雪の中から掘り出したものだ。ほぼ冷凍状態。ガッチリと硬い。しかし、もしかしたら、我々が温暖と感じる気温の中で育ったものより味は上かもしれない。
畑の野菜を食べて感じる命の循環
本物の春を待ちながら、いま僕が日々食べているもの・・・このキャベツの他は、大根、タアサイ、ルッコラ、人参、ヤマイモ、ジャガイモ、サトイモ、ネギ、ブロッコリー、芽キャベツ、チンゲン菜。大鍋に、芽キャベツなら丸ごと投げ込み、豚肉とじっくり煮込む。スーパーで売っている芽キャベツは球の部分だけだが、じつは、上の広がった葉っぱの部分、横に伸びた葉っぱの部分、それもまたとても美味なのだ。そして、(ごめんなさい)、緑の野菜をドッサリ食べた翌朝の僕のウンチは緑色をしている・・・もう一度ごめんなさい。「自分と彼らの境界がなくなる・・・」という服部文祥氏の言葉がこれを言わせたのです。
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この記事を書いた人
中村顕治
【なかむら・けんじ】1947年山口県祝島(いわいじま、上関町・かみのせきちょう)生まれ。医学雑誌編集者として出版社に勤務しながら、31歳で茨城県取手市(とりでし)に築50年の農家跡を購入して最初の田舎暮らしを始める。その7年後(1984年)の38歳のとき、現在地(千葉県八街市・やちまたし)に50a(50アール、5000㎡)の土地と新築同様の家屋を入手して移住。往復4時間という長距離通勤を1年半続けたのちに会社を退職して農家になる。現在は有機無農薬で栽培した野菜の宅配が主で、放し飼いしている鶏の卵も扱う。太陽光発電で電力の自給にも取り組む。
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