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田舎暮らしの本 12月号

最新号のご案内

田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

© TAKARAJIMASHA,Inc. All Rights Reserved.

知識偏重から全人教育へ。最先端の研究学園都市が目指す新しい時代の学校づくり【茨城県つくば市】

研究学園都市として開発され、大学をはじめ官民の研究施設も多数集まるつくば市。教育日本一を掲げ、小中一貫教育を進めるなどの取り組みが注目を集めてきた。子育て世代の転入が増える現在、市の教育の目標は「一人ひとりが幸せな人生を送ること」。時代の変化にマッチした新しい学びのあり方を目指す。

掲載:2023年7月号

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茨城県つくば市
都心から約60km、関東平野の東端、筑波山麓の台地に位置し、面積約284㎢は東京都区部の約半分。人口約25万2000人。年平均気温14.3℃。1969年より研究学園都市として開発、2005年のつくばエクスプレス開業以降、宅地整備の加速で人口増加中。つくばエクスプレス秋葉原駅よりつくば駅まで約45分。写真はつくばエクスプレスつくば駅周辺は駅ビルをはじめ早くから開発されたエリア。現在は商業エリアの中心が西側の郊外に移りつつある。

 

全市で進む小中一貫教育と高学年の教科担任制

 昨年12月、つくば市立学園の森義務教育学校の児童生徒が「だるまさんが転んだ」でギネスの世界記録に挑戦。見事達成し、認定された。参加したのは2039人。同校は当時、小中一貫の義務教育学校として日本一のマンモス校だった。

 「全国的に子どもの数が減るなかで、つくば市にはつくばエクスプレス沿線を中心に児童生徒数が急増している学校があります。この4月からは〝学園の森義務教育学校〞から分かれるかたちで小学校と中学校が新設されました」

 と言うのはつくば市教育局学び推進課指導主事の永岡範之さん。「だるまさんが転んだ」のチャレンジは、分離前の記念として生徒が発案したそうだ。

 義務教育学校は2016年に学校教育法で制度化されたが、つくば市では2012年に小中一体の学校を開くなど、小中一貫教育に早くから取り組んできた。現在は市内に4校の義務教育学校がある。

 「小中一貫教育をしているのは義務教育学校だけではありません。つくば市では各中学校区内の小中学校をまとめて〝学園〞と呼んでいます。9年間途切れなく学べるように、小中学校で連携を図り、行事や学校訪問など、先生も子どもたちも交流する機会もあります」

 小学校5・6年生には、多くの学校で教科担任制がとられている。

 「茨城県では小中学校両方の教員免許を取得し、専門の教科を持つ先生が多いんです。そこで、学年に複数の学級のある小学校では高学年の授業で、まずは音楽や体育など実技系の教科から教科担任制がとられるようになりました。現在では多くの学校が算数、国語、理科、……、と授業ごとに担当する先生を決めています。これには中学校に進学して戸惑う、〝中一ギャップ〞を和らげる意味もあるんです」

つくば市教育局学び推進課の永岡範之さん(左)、課長の岡野知樹さん(中)、福澤誉子さん(右)。

「春日学園義務教育学校」の教科担任による授業の様子。集中して教材研究ができ、教員の負担軽減にもなるという。

今年4月に開校した「研究学園小学校」。

「研究学園小学校」には隣接して中学校も新設され、高い天井を持つ同じ規格の体育館が並んで立っている。

 

新しい教育への転換で個性を尊重し自発性を育む

 つくば市には市立の小中学校と義務教育学校が合わせて48校ある。今年度最大規模は、つくばエクスプレスみどりの駅近くの〝みどりの学園義務教育学校〞で1年生12学級。一方、市周辺部では人口が減り、10校弱が1学年1学級となっている。指導主事の福澤誉子さんは言う。

 「〝学園〞は地域ごとに特徴があり、それぞれ方針をもっています。同時につくば市全体としては、一貫した内容の教育を目指しています。今年4月の学校教育指導方針の説明は、全校長に対面、全教員にオンラインで行いました」

 市では2011年に教育振興基本計画を策定し、教育日本一を掲げて教育施策に取り組んできた。2020年に策定された「つくば市教育大綱」は〝一人ひとりが幸せな人生を送るために〞と題され、冒頭には市長の言葉として次のように記されている。

――つくば市はこどもたちに、一人ひとりの個性が受容され幸せな人生を送りながら、持続可能な社会の実現に向けて行動できる力を獲得してほしいと願っています。このこどもたちに、保護者、地域、学校、行政が寄り添いながら、共に育っていきたいと思います。

 近代公教育が始まってからおよそ150年がたち、その課題が目立ち始めている今、教育には大きな方向性の転換が求められています。この度、つくば市の教育の根幹となる「つくば市教育大綱」を策定し、その転換を表明します。――

 方向性の転換として大綱に記されたのは下の表の3つ。福澤さんによれば、一人ひとりの個性と、自発的な学びを大切にする姿勢は、ドイツで発祥しオランダで発展したイエナプラン教育の理念などを意識したものだそう。

 「学校づくりに子どもたちも参画します。最近の事例としてはICT端末の使い方のルールを自分たちで決めたり、生徒会主導で運動会を企画したり。そうしたなかで好奇心やリーダーシップ、忍耐力、やる気、思いやり、他者意識など、知識とは違った非認知能力を養い、義務教育の9年間を終えても学び続ける力や粘り強さを育てていこうと考えているわけです」

市の研究指定授業公開には教員が市内全校から集まる。秀峰筑波義務教育学校での様子。

 

児童生徒がルールを決めて気持ちよく過ごせる学校に

 つくば市立の小中一貫校第1号として2012年に開校した春日学園義務教育学校のスローガンは、〝どこよりも早く明日の教育に出会える学園〞。つくば市の大綱に掲げた教育を具現化するモデル校ともいえるだろう。「刺激的な学校でした」と言うのは副校長として着任2年目の星野美千代さん。

 「春日学園には校則がなく、ルールは子どもたちがつくっています。例えば、中学生にあたる7〜9年生には制服があり、4月中はジャケットを着てネクタイかリボンをつけましょうと決めていますが、今年の4月は急に暑くなったでしょう。生徒会長が『例外としてネクタイ・リボンを外してよいことにしたい』と校長先生に確認をとりに来たんです」

 校長の根本智さんは笑顔で語る。

 「もちろんOKを出しました。春日学園で過ごすうえでのキーワードは〝みんなが気持ちよく〞です。子どもたちが決めたルールもこのキーワードを基本に置いています。開校して12年、気持ちよく過ごせる学校を自分たちでつくるという意識は、伝統としてしっかり根付いているなと感じます」

 春日学園の校区は学園都市の開発で人口が増えたエリア。住む人の多くが市外からの転入組で、海外にルーツを持つ子どもも多い。〝みんなが気持ちよく〞のキーワードは、それぞれがお互いの個性を認め合おうと考えるなかで育まれてきた。

つくば市立春日学園義務教育学校
2012年に茨城県初の施設一体型中高一貫校として「春日学園」が開校、2016年に学校教育法での制度化を受けて「春日学園義務教育学校」となる。同校のある春日地区は、1979年に地区内に大学がつくられた後、宅地開発が進み、病院や商業施設にも近く、同校からつくば駅までは徒歩約20分と便利なエリア。開校後、人口増により児童生徒数が増加し、2018年には学区の一部を分離して「学園の森義務教育学校」が新設された。今年4月1日現在の児童生徒数は1080人、教職員数104人。

春日学園校長の根本智さん(左)、副校長の星野美千代さん(右)。

日本語ネイティブでない子どもたちのために、日本語教室も開設している。

400mトラックがとれる校庭。低学年と高学年の同時使用でも充分な広さ。学校用地は市が早くから計画的に取得し、開校までは住宅展示場として貸し出していた。

 

新しい教育の実現に向けて、子ども+先生+地域で挑戦

 義務教育では15歳で卒業する姿をイメージするのが大切で、それを実現するのが小中一貫教育だと根本校長は言う。

 「1〜4年生を前期、5〜7年生を中期、8・9年生を後期とブロックに分け、ブロックごとに集会を開くなどして4・7・9年生でそれぞれリーダーシップを育てています。義務教育過程の目標として9年生を間近で見られるのは、子どもたちだけでなく教員や保護者にとっても、義務教育学校のよさでしょう」

 コロナ禍で見合わせていた異学年〝縦割り班〞での清掃も、6月から再開する予定。

 「1・2年生と一緒に過ごす9年生は、気持ちも優しくなりますよ」

 学園祭では好きな科目の成果を1人1点展示したり、5〜9年生が参加するステージ発表では1〜4年生も観客になる。また、行事のときだけでなく、例えば7〜9年生の定期テストの期間、1〜6年生は外で遊ばず教室で過ごす。低学年の子どもたちは日々上級生と接するなかで15歳の春に向かって少しずつ学んでいく。

 「後期ブロックの生徒たちは落ち着いていますね。前・中期の子どもたちの見本として行動しなければなりませんから」

 そして、子どもたちも教員も、新しいことに厭わずチャレンジしていくのが春日学園をはじめ、つくば市の教育だという。

 「春日学園には『チャレンジして春日らしさをつくっていこう』という気概があります。そのうえ子どもたちが力を発揮する姿を、保護者の方も認めてくださる。学力への期待よりも、学校でしかできない経験のほうが大切だと考えられています」

 つくば市では、地域と連携した学校運営を進める〝コミュニティ・スクール〞への取り組みが始まり、昨年度はモデル地域として1学園(中学校区)で導入。2026年3月までに市内全学園での展開を予定している。

 「保護者の方ばかりでなく、つくばには子どもたちと学校の挑戦に、協力してくださる方が多いです」

 学校だけでなく地域の力も借りてさらなる充実を目指す、つくば市の教育。ここに住むなら、子どもを通わせるだけでなく、新しい教育にチャレンジする学校を、ぜひ応援したくなる。

低学年との交流会の催しについての話し合い。パソコンやタブレット端末は開校数年後から導入され、授業にも討論にも欠かせないツールに。

グループごとのプレゼンテーションを重視する春日学園では、グループでの討論が活発。

春日学園憲章。入学してきた1年生に9年生が「ちょっと難しいけど覚えてください」と説明。

生徒会役員は6~9年生で構成。選挙は市から投票箱を借り、熱戦が繰り広げられるそう。学園内の事案はもちろん、外にも目を向けて自分たちのできることを考える。いま取り組んでいるのは活動を発信するためのWEBサイトの立ち上げ。

全学年の教職員が集う職員室。会議ではマイクを使うという。養護教員や事務職員を複数置けるなど、義務教育学校のメリットもある。

体育館と横につながる武道場は中学校規格。低学年の子どもたちも広々使える。

ルールメイキングについてのプレゼンテーション。わかりやすさとチームワークが試される。

5年生の国語の授業。この日は7年生から始まる部活動について上級生に聞き取り取材した。上級生にとっては勧誘のチャンスに。

 

まだある! つくば市の子育て支援

  • 出産・子育て応援給付金/各5万円を給付
  • 妊産婦タクシー利用費助成/1回上限3000円×1回の妊娠につき10回まで
  • 多子世帯保育料軽減事業/第2子は半額、第3子以降は全額助成
    ※いずれの支援事業にも条件あり
  • 相互扶助で子育てを支え合う 「ファミリーサポート」
  • 子育てで孤独を感じる保護者に寄り添う「ホームスタート」
  • 子育て支援情報を掲載するホームページ

「子育てナビ」
https://www.city.tsukuba.lg.jp/kosodate/kosodate/1006573.html

「つくば市子育てハンドブック」 
https://www.city.tsukuba.lg.jp/kosodate/kosodate/13494.html

「つくば市子育て総合支援センター」。子育て支援の中核施設として子育て広場や一時預かり事業を実施する。

「地域子育て支援拠点」は市内に10カ所。0歳から就学前の子どもと保護者が遊べ、交流や情報交換の場にもなっている。

 

【体験型科学教育事業 つくばSTEAMコンパス】

150にもおよぶ研究機関が集まるつくば市。研究者数は約2万人、うち外国人研究者が6000人を超え、子どもたちへの科学教育に積極的な人も多い。「つくばSTEAMコンパス」は、地域の人材をネットワーク化し、研究者とともに体験的に学習ができる場をつくろうと市が始めた事業。STEAM は
Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術、リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字から。学校教育への導入のほか、子どもたちはホームページからイベントや各研究機関にアクセスできる。https://tsukuba-steam.com

 

つくば市の移住支援情報
東京23区在住または通勤なら移住+就業・起業に支援金あり

つくば市では「わくわく茨城生活実現事業」として、東京23区在住か、東京圏から23区に通勤する人が移住し、就業、起業などをする場合、移住支援金の要件を満たせば、世帯100万円+18歳未満の子ども1人につき30万円、単身60万円の移住支援金を支給する。詳しくは市のホームページで確認を。

問い合わせ/つくば市広報戦略課 ☎029-883-1111㈹
https://www.city.tsukuba.lg.jp/shisei/joho/promotion/12849.html

広報戦略課の窓口では移住相談にも対応。

 

文・写真/新田穂高 写真提供/つくば市、春日学園義務教育学校

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