東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた東松島市。いち早く復興まちづくり計画を策定し、新しいまちづくりを進めてきた。被災3県で初の「SDGs未来都市」にも選ばれた同市の取り組み、現在のまちの様子などをリポートする。
掲載:2023年10月号
宮城県東松島市(ひがしまつしまし)
宮城県東部に位置する地方都市。日本三景の1つ「松島」の東端にあり、海、山、森、川の自然に恵まれている。夏は涼しく、冬は温暖で暮らしやすい。航空自衛隊松島基地もあり、空を彩る「ブルーインパルス」が有名。JR仙石線の駅が8つ、三陸自動車道のICが3つあるなど便利で、仙台市までは約30分で通勤・通学も可能だ。
震災後の環境未来都市がSDGsの理念と一致!
産官学が連携し、学校などでSDGs出前授業を行っている。探究的な学びの機会の拡充に取り組む。
東日本大震災で津波に襲われた東松島市は、市街地の約65%が浸水、死者・行方不明者が1133人、家屋被害が約1万1000棟という壊滅的な被害を受けた。しかし、2000人を超える市民との話し合いを経て、9カ月後には「東松島市復興まちづくり計画」を策定。「災害に強いまちづくり」や「持続可能な地域経済・社会を創るまちづくり」が評価され、国が「環境未来都市」に選定。その7年後に最初の「SDGs未来都市」に応募し、被災3県では唯一、東松島市が選ばれた。
「環境未来都市は経済・社会・環境での新たな価値創造を目指すもので、SDGsの理念と一致したんです。住宅などのハード面だけでなく、被災者の心のケア、再生可能エネルギーの導入などで震災復興に取り組んできました。市のスローガンは子ども・若者・高齢者のすべてが住みよいまちを目指す『全世代グロウアップシティ』。東松島の自治の市民力で、それを推進しています」とSDGs・脱炭素社会推進課の雁部剛史(がんべつよし)さん。
東日本大震災では一般廃棄物110年分にも及ぶがれき処理が大きな課題になった。東松島では市民が手分けして分別を行い、99%を資源にリサイクル。この処理法は「東松島方式」と呼ばれ、ウクライナの復興でも注目されているという。
また、浸水で工事車両が入れない地域も多く、停電が長引いた。生活再建に戻れず、人工透析もままならない。その教訓から出てきた取り組みの1つが「スマート防災エコタウン」事業。住宅・集会所・病院などを自営線で結び、2分間停電すると太陽光発電の電力を最低3日間エリア内に供給できるというもの。再生可能エネルギーを新しいまちづくりに役立てている。
公営住宅・集会所・病院などを自営線(※)で結ぶ「スマート防災エコタウン」。市の先進的な取り組みの1つだ。
※自営線…再生可能エネルギーで発電された電力を一般送配電事業者などの送電線に連系するために設置する送電ルート。
人口減少という課題に、さまざまな施策を展開
被災地において人口減少という課題は避けて通れない。市内に全寮制の私立高校「日本ウェルネス宮城高校」を誘致し、市外や県外からも若者を呼ぶ仕組みをつくった。子育て支援にも力を入れ、18歳までの医療費無料化、夜8時まで延長保育を可能にする民間保育所の誘致も実現。共働き夫婦に喜ばれている。
子どもたちが未来を担う人材に育つために、保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクールも導入。ほかにも雇用の場を増やす新たな工業団地を造成したり、高齢者も楽しめるパークゴルフ場を開設したりするなど、まさに全世代に目配りした施策が目白押しだ。
子どもから高齢者まで楽しめるパークゴルフが人気。1000円あればプレーや食事などで一日中ここで過ごすことができる。
子育てファミリーに人気の「月浜海水浴場」。白砂のビーチは三日月形をしており、湾になっているため波も比較的穏やかだ。
東松島市の現在の人口は約3万8000人。震災時の約4万3000人から5000人ほど減っている。津波の人的被害、市外避難、自然減を考慮すれば、むしろ人口減少は最小限に抑えられているのではなかろうか。
移住コーディネーターの関口さんによれば、「市外の人が来ると『東松島は市役所の人も親身に話を聞いてくれるからうらやましい』と言われる」のだとか。市民と行政が力を合わせてまちづくりをしているからこそ、魅力的な市になったのだろう。
松島湾に突出する宮戸島(みやとしま)の中央にそびえる大高森(おおたかもり)からは、松島の美しい風景が望めるのも魅力。巨大な箱庭のような松島が壮観だ。
旧北上川や鳴瀬川、吉田川などから豊富な栄養分が海に運ばれ、そこで育つ海の幸が自慢。特に牡蠣は、通常3年かかるところを1年で育つほど。
東松島市のSDGs ここがスゴイ!
震災復興と環境未来都市の取り組みがSDGsの理念と重なり、「SDGs未来都市」に選ばれた東松島市。主な取り組みを紹介しよう。
●震災後に市民との話し合いで新しいまちづくりを開始
●全世代が住みよいまちづくりを目指す
●再生可能エネルギーを積極的に導入
●全世代に配慮した政策で人口減少を最小限に抑えている
「子どもも高齢者も住みやすいまちを目指しています」
(SDGs・脱炭素社会推進課 雁部剛史さん)
東松島市移住支援情報
U・Jターン+関係人口に「おかえり事業助成金」を支給
U・Jターン、体験ツアーやお試し移住に参加した関係人口の移転に、「おかえり事業助成金」を1世帯30万円(単身者15万円)支給。お試し移住は3~7日で無料(移住コーディネーター支援料5000円が必要)。市内業者を利用した場合の新築・改築に最大100万円、中古住宅に最大50万円、空き家バンクの住宅取得に最大50万円を支給する。
●お問い合わせ先:東松島市復興政策課 ☎️0225-82-1111(内線1232)
オンライン相談にも対応。平日10時~16時で、1組30分程度。希望日の3日前までに申し込みを。
ひがまつ暮らし:東松島市公式ウェブサイト (city.higashimatsushima.miyagi.jp)
暮らしを体験できるお試し移住施設は、「つながる家」「あおみな」の2カ所。利用は2泊3日~6泊7日。
「私自身も移住者で、住みやすさを実感しています」
(東松島市移住コーディネーター 関口雅代さん)
文/山本一典 写真提供/東松島市
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