長い年月をかけて、住民主体の持続可能な「ばらのまちづくり」に取り組む福山市。バラを慈しむ心は、アップサイクルなど、環境問題への関心へと広がっている。また、市でのワーケーションを機に、自分らしい働き方を模索する人も増えている。
掲載:2024年1月号
広島県福山市(ふくやまし)
瀬戸内海沿岸のほぼ中央、広島県の東南部に位置する、人口約46万人の中核都市。2022年に築城400年を迎えた「福山城」、日本遺産認定の潮待ちの港「鞆(とも)の浦」、2つの国宝を持つ「明王院(みょうおういん)」など、貴重な歴史・文化資源が多数。春と秋には街中にバラが咲き誇る「ばらのまち」でもある。東京から新幹線で約3時間30分。
働き方の多様性で人材確保。グリーンなものづくりを推進
毎年5月に開催される「福山ばら祭」は福山市最大のイベント。色とりどりのバラが咲き誇る「ばら公園」や「緑町公園」を中心に、切りばらコンテストなどの催しが行われ、バラのグッズを販売する売店も並ぶ。
「戦後60年以上にわたって培ってきた市民と行政の協働による『ばらのまちづくり』は、SDGsの理念にも沿った本市の代表的な取り組みです。“ばらのまち福山”の実現に向けて推進してきました」
そう話してくれたのは、企画政策課の藤川晴菜(ふじかわはるな)さんだ。2023年5月、「SDGs未来都市」に選定された福山市が大切にする「ローズマインド」という言葉は、「思いやり・優しさ・助け合いの心」を表現。平和への願い、バラ栽培に必要な愛情、人への優しさなど、さまざまな思いが込められている。
「ばらのまち福山」へと発展したきっかけとなったのが、戦後の復興に際し、市民によって植えられた約1000本のバラ。その後、市民と行政とが手を取り合って「ばらのまちづくり」を進め、30年以上にわたりバラ苗の無料配布を実施。「ばら花壇コンクール」などでバラに触れる喜びを共有し、「福山ばら祭」をはじめとするイベントを開催してきた。現在では、バラは市のシンボルとして浸透し、市内には約100万本が咲き誇る。市の施設や公園だけでなく、学校や企業の花壇、民家の庭など、さまざまな場所で目にできるのも、市民に親しまれている証しだ。
そんな市民と行政の協働によるバラを通じたまちづくりが世界から評価され、2025年世界バラ会議の開催都市に決定。開催に向け、市民や事業者が一体となり、持続可能な都市景観づくりや環境に配慮したバラの商品開発を進めている。
まちづくりにかかわる人びとの交流拠点「福山市まちづくりサポートセンター」。「いつかやりたい」を企画し実践するまでのプロセスをゼミ方式で学ぶ「まちサポゼミ」を実施。
そして、2030年のゴールに向け、23年、市が新たに打ち出したのが「福山版サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の実現。「本市には、日本のものづくりを支える、優れた技術やノウハウを持ったオンリーワン・ナンバーワン企業がたくさんあります」と言う藤川さんの言葉通り、福山琴や備後絣(びんごがすり)などの伝統産業のほか、鉄鋼業や繊維産業など多様な製造業が集結。その特性を活かし、本年度中には資源の再利用に向けて資源提供者と商品開発事業者を結ぶサイトの開設を目指す。環境への配慮や働きやすい職場づくりなどを進める企業を「グリーンなものづくり企業」として市内外に発信し、その認知度向上や人材確保につなげていくことにも取り組む。
市の東部にある「JFEスチール西日本製鉄所」は、世界最大級の製鉄所で、単一製鉄所としての粗鋼生産量は国内最大。空気や海を汚さないように、環境を守るための設備も整えている。
福山市は、デニムの製造量も日本一。日本で初めてロープ染色によるデニムを市場に供給し、今やブルーデニムの分野では国内50%以上のシェアを占める「カイハラ」も福山市にある。
2024年の稼働開始に向け、4カ所のごみ処理施設を集約し、新たなごみ処理施設「ふくやま環境美化センター」を整備。環境負荷の低減やライフサイクルコストの低減に配慮し、一般廃棄物処理施設では国内最大レベルの最大発電効率を持つ。
また、兼業・副業など、新たな働き方を促進し、都市圏から市への人の流れの創出や優秀な人材確保も推進。特に、ワーケーションに力を入れることで、関係人口の創出による課題解決に取り組んでいる。20年には、医療人材の誘致に向け、行政初となる医療版ワーケーションプロジェクトを実施。23年3月には、市と市内大学生が企画したワーケーションツアーをきっかけに、剪定で発生したバラの枝などをデニムにアップサイクルするプロジェクトも立ち上がった。福山市の文化や環境に触れることで、新しい働き方や新たな仕事の創出を選択する人も着実に増えている。
2022年に築城400年を迎え、福山城が大リニューアル。これを節目に、隣接する福山駅周辺も一新。居心地がよく歩きたくなるウオーカブルなまちづくりが進められている。
首都圏や関西圏の若手芸術家がワーケーションで市を訪れ、「福山城400年博」で披露する作品を制作。福山城の改修工事により発生した廃瓦のアップサイクルに挑戦した。
福山市のSDGsここがスゴイ!
福山市では、「ローズマインド」を基底に据え、多様な主体との共創により新たな価値を創造し持続可能なまちづくりを目指す。
●ローズマインドが評価され、世界バラ会議2025開催地に選定
●オンリーワン・ナンバーワン企業多数! 創業支援や企業誘致を推進
●ワーケーションなどで、専門的知識を持つ人材を誘致
●福山ネウボラ※を強化し、切れ目のない子育て支援体制を構築
「起業・創業に悩んだら『Fuku-Biz』で相談できます」(企画政策課 藤川晴菜さん)
福山市のここがオススメ!
郷土料理の「うずみ」は、江戸時代の倹約政治のなか、ご飯の下に具を埋(うず)めて質素に見せかけ食べたことが始まり。
阿伏兎(あぶと)岬の断崖絶壁に立つ臨済宗の寺院で、紺碧の瀬戸内海に映える朱塗の観音堂が印象的な阿伏兎観音(磐台寺)。
福山市移住支援情報
製造業が盛んで求人が多数。子育て支援にも力を入れる
製造業が盛んで、備後エリアでも特に求人が多い地域。東京圏からの移住を推進し、テレワークで従来の仕事を継続して移住した際の支援制度などがある。また、市内13カ所に子育て相談に対応するネウボラ相談窓口「あのね」を設置し、子育て環境も充実。市内でも人気の移住地である「鞆の浦」は、祭りや神事など伝統行事を大切にしていて、子どもの豊かな感性を育める。
問い合わせ:福山市企画政策課 ☎084-928-1012
ふくやまのくらし - 福山市ホームページ
移住相談は、対面のほか、オンラインでも受け付けている。
「転職なき移住も注目されています。気軽にご相談ください」(企画政策課 田中美星さん)
文/佐藤明日香 写真提供/福山市
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