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田舎暮らしの本 12月号

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田舎暮らしの本 12月号

11月1日(金)
890円(税込)

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加藤雅也さんインタビュー「ウィナーになれなくても、 サバイバーになればいい」|映画『幽霊はわがままな夢を見る』

日本人離れした精悍な顔つき、そこに年齢や経験を重ねたことからくる陰影が刻まれ、近年ますます渋みを増す俳優の加藤雅也さん。最新作である映画『幽霊はわがままな夢を見る』では、“協力プロデューサー”としてもクレジットされています。映画は、山口県下関市でロケを敢行した“地域密着型”。ここ数年、地方での映画づくりに積極的な加藤さんに聞きました。

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掲載:2024年8月号

田舎暮らしの本のインタビューを受ける加藤雅也さん
かとう・まさや●1963年生まれ、奈良県出身。モデルとして雑誌『メンズノンノ』、パリ・コレクションを経験後、88年『マリリンに逢いたい』で俳優デビュー。主な出演作は『BROTHER』『荒ぶる魂たち』『1 秒先の彼』『彼女は夢で踊る』『キングダム』シリーズなどの映画、『まんぷく』『アンフェア』シリーズなどのテレビドラマ。映画『REQUIEM』が来春公開予定。ラジオ『加藤雅也のBANG BANG BANG!』(FMヨコハマ)、2021年から写真家としても活動(Instagram/@masaya_kato1192)。奈良市観光特別大使を務める。初の著書である『僕の流儀 What’s Next?』が発売中。

 

スタッフ・キャストも“地域密着型”映画

 「奈良で撮影した短編映画で深町さんと知り合って。生まれはどこ?と聞くと、『下関です』と。それでグ スーヨン監督を思い出しました。モデル時代にCM撮影でご一緒して。僕はその後アメリカに行き疎遠になっていましたが、10年ほど前に再会したら映画監督として活躍されていた。確か監督も下関出身。同郷というのは近しく感じるもので、何かの縁になればと深町さんを紹介したのが始まりです」

 映画『幽霊はわがままな夢を見る』誕生の経緯を、加藤雅也さんはそう振り返る。 「あいつ知ってる?」「知ってます」、共通の知人がたくさんいて、目の前で電話をかけたりして。あれよあれよのトントン拍子、深町友里恵さんを主役に下関発のオリジナルムービーが誕生する。

 映画は冒頭、ヒロインのユリがスーツケースを転がしながら港町にやってくるシーンから始まる。女優への夢に破れたユリにとっては傷心の帰郷だった。

 「下関、いい景色ですよね。僕はもともと松田優作さんが好きで、松田さんの出身地である下関にも興味を持っていたんです。それで自分がカメラをやるから思うのかもしれませんが、町にはそこに漂う空気があります。下関には東京にはない空気があり、どこかハードボイルドが似合う。そのステキな空気感を映像に収めることができたら、きっとこの映画にとって、なんらかの正解になるだろうと」

 ぜいたくなセットが組めなくても、そこに漂う空気ごと町を撮ればいい。下関は、関門橋、壇ノ浦古戦場跡、赤間神宮、そして関門橋を渡れば門司港と映像映えするスポットがあちこちにあるだけではない。ありふれたトンネルがシャープな映像づくりの舞台となり、夕焼けひとつが効果的な映像表現になるはず。沖縄、広島、岐阜、奈良と、ここ数年、地域密着型の映画制作に携わってきた加藤さんにはそんな確信があった。

 「本来は役者も、長年そこに住む人間に見えるための役づくりをする必要があります。しかし、その必要もなく、方言の問題もない。空気ごと撮った映像の中で、実際そこに住んでいる人たちがリアルに映ります。でも僕の演じたユリの父親は元ミュージシャンで、故郷に戻ってきた人間。長年故郷を離れていたから少し違和感が出ても『まぁいいか!』ということになりました(笑)。ラジオ局を経営しているという設定は、FMヨコハマで10年ラジオ番組のDJをやらせていただいている自分にしたら、10年かけて役づくりをしたようなものです」

 〝地域密着型〞は、ロケ地やスタッフだけではない。現地オーディションを敢行し、その様子をそのままストーリーに組み込んだ。故郷に戻ったユリには友達と呼べる人も恋人も仕事もない。父・昌治の経営するラジオ局を気乗りしないまま手伝うことになるが、じつは倒産寸前で。閉鎖を迫るスポンサーから提示されたラストチャンス、それは小林克也らの参加したコントユニット「スネークマンショー」のようなラジオドラマをつくること。昌治らは、出演者をオーディションで募る……。

 「地方の方は、沖縄や広島もそうでしたが、〝何かやってやろう〞というような芝居をしないんです。また皆さんがより自然体でいてもらえるよう、僕らも一緒に芝居するときはこちらから話しかけるカタチを取ったりします。反応してもらう。慣れない人にアクションを起こす側をやってもらうと、どうしても芝居がかってしまいますから」

 そんなふうに地域の人と映画をつくることには、多くの副産物があるそう。

 「震災のとき、東京での撮影は無理だから地方でやろうか?という話になって。そのときに一番の問題は、技術者が足りないことでした。僕1人で成し遂げられることではありませんが、万が一のことを考え、地方にも人材を育てなきゃいけないんじゃないかと。なかには、映画をつくる才能はあっても、なんらかの理由があって東京に出られない人が埋もれているかもしれない。そんな人を発掘し、リスク分散という意味でも、地方ですぐに映画が撮れるような体制ができていたらいいなと」

 また、映画づくりに参加するのは大人だけではない。

 「当然、子どもたちもやってきます。すると『昨日ウルトラマンに出てた人がいる!』と驚く子もいたりする(笑)。子どものときに受けるインパクトって大きいですよね。そのなかから10年後、20年後、世界に出ていく監督や俳優が生まれるかもしれません。夢を与えるのも、僕らの仕事のひとつです」

 昨年から今年にかけて『ウルトラマンブレーザー』に出演していた加藤さんは言う。一俳優という枠を大幅に超えて作品づくりに参加してきた人だからこその実感がこもっている。

 「〝映画が当たらない〞というのは、つまりは映画を観る人がいないということですよね。それなら観る機会をつくればいい。例えば読書感想文のように、子どもに学習課題としてアート系映画を観てもらって映画鑑賞文を書く機会をつくる。映画を観ることを教育に組み込むわけです。すると1000人のうち5人の子が、映画って面白いな!と思うかもしれない。それが毎年続けば、映画を観る人口は確実に増えるはずです。映画は芸術です。そうして芸術に対する興味を高めることが大切だと思います」

 俳優としてオファーをただ待つだけでなく、自ら動いて映画を生み出す空気をつくっていく。 「自給自足的に映画をつくることも必要になってくると思います」と加藤さん。これからは、オファーをただ待つだけでなく、自らもつくっていくという姿勢が大切だと話す。

 「〝映画というのはこうだ〞と押し付けようとは思っていません。ただ年齢的にも、長い間この世界で学んできたことを次世代のフィルムメーカーたちに還元する時期に来ているのではないかと思います。そうして、映画の素晴らしさに気づく人が1人でもいたらいいなと思っているんです」

 そうして今回も多くの人と協力してモノづくりに奔走した結果、一本の映画が完成した。

 「グさんはCMを手がけられてきたせいもあるのか、エンターテインメントに仕上げる腕はさすがです。予算の多いCMに比べ今回の低予算映画はグ監督にとってチャレンジだったと思いますが、グ監督も『できるもんだね。勉強になったよ。またやりたいね』とおっしゃってました(笑)。自分を応援してくれる故郷で何かをやるというのも戦略のひとつ。僕自身は今回の撮影で初めて訪れた街ですが、今後も下関での映画づくりを続けていきたいと思っています」

田舎暮らしの本のインタビューを受ける加藤雅也さん

 

ひそかな夢は三拠点生活!?

 女優という夢に破れた三十路女の帰郷--。これは、夢を追うことについての物語でもある。それについて、加藤さんなら一家言を持つはず。中学から始めた陸上で高校時代はインターハイに出場。その後国立大学に入学し、学生時代からモデル活動を始め、パリコレへ。俳優業に進出してからはロサンゼルスに拠点を移し、ハリウッドで活動したのだから。すると「インターハイに出たといっても、オリンピックには出てませんから!」と食い気味に一蹴する。

 「確かにパリコレにも行ったけど、〝今の自分はパリコレではやっていけない〞という現実を突き付けられて帰ってきた。ハリウッドだってそうです。うまくいかないなぁ……という壁にぶち当たりました。誰もが大谷翔平さんになれるわけではありません。勝者がいれば、敗者もいます。大事なのは、それをどうとらえて生きていくか? ウィナーになれなくても、サバイバーになればいい。まあサバイブの先に、勝者へ至るのかもしれませんけど」

 そうはいっても急激に変化するこの時代、俳優のように、正解が簡単に数値化できない自由業を第一線でサバイブしていくのはどう考えても難しいだろう。そこは加藤さんも同意する。

 「過去の延長線上に未来はない。でも、生き残るしかないからね」と。そんな加藤さんが今年刊行した初著書のタイトルは『僕の流儀 What's Next ? 』(彩
図社)。次に何をするか? 加藤さんはそれを、どんなふうに決めていくのだろう。

 「世の中を見るということです。そして、円安がこのまま進んだらどうなるだろう? 新たな戦争が起きたら?って。状況に合わせて何をやるのか決まってくる。まずは食べていかなきゃいけない。これが一番です(笑)。コロナのときもそうでしたが、この状況でどう生き残るか? それこそ、自給自足!?と。例えば素人がいきなり鉛筆をつくっても売れないかもしれませんが、ダイコンやニンジンなら、売れなくても自分で食べればいい。生きるということを考えると農業が一番かなと」

 でも野菜づくりには、今のところ興味がないそう。そこも即答。とはいえ、根を下ろすようにして地方で映画づくりを何度もしていたら、将来的に田舎暮らしもいいかも……? なんて想像しないのだろうか。

 「確かに東京の一等地で地方より狭い家に暮らして高額な家賃を払うなら、東京では小さな部屋を借り、奈良とか北海道とか、どこか地方の2カ所に部屋を借りて、それで3カ所を行き来しながら暮らすほうが楽しそうだなって。地方なら広いところに住めるだろうからそこで絵を描いたり、夏は涼しいからと北海道で写真を撮ったりして。東京にいるときと違い、作務衣で毎日過ごせば、洋服代もど〜んと減るだろうし(笑)」

 そんなふうに三拠点生活が実現しても、「何かを生み出す行為は止めないだろう」と続ける。

 「俳優って、基本は待つだけ。選ばれなかったら仕事になりません。でも僕らの年齢で、〝5年待って、何もなかった〞なんて時間を無駄にすることはもうできません。高倉健さんは〝7年ぶりの主演映画〞ということもありましたが、あの方は特別な存在で。高倉健であり続ける、ということに何かがあったのかもしれません。でも普通は、何年も演技しなかったら感覚が鈍ります。日々世の中は変わるわけで、それに合う芝居もまた変化していきますから」

 だから自ら働きかけ、行動し、何かを生み出す。それが加藤さん流。それにしても、これほどのキャリアがあっても他者との間に壁をつくらず、ごくナチュラルに人の中に入る。なぜそんなことが可能なのだろう?

 「まあ好きなんでしょうね、人と何かを生み出していくことが。それに俳優って、リラックスすることがとても大事で。例えば連続ドラマに1話だけゲストで出演させていただくことがありますが、あれは本当に緊張するんです。初めての共演者ばかりだと余計に。周りは知らないスタッフで、みんなが和気あいあいとしている中へ異分子として入るわけですから。そこでいかに自然体でいられるかということを常に心がけているからかもしれませんが、はっきりとはわかりません(笑)」

 そう言いながら、「田舎暮らしも、そうなのかもしれないね」と加藤さん。

 「好きなところへ何度も足を運び、知り合いをつくって。自分の肌に合うと思う地にいかになじむか、で成功するかどうかが決まる。精神的に豊かな暮らしがしたい。そんなことを思いますよね」

 

『幽霊はわがままな夢を見る』

(配給:株式会社cinepos)

加藤雅也さんが出演する映画『幽霊はわがままな夢を見る』(©株式会社トミーズ芸能社)加藤雅也さんが出演する映画『幽霊はわがままな夢を見る』(©株式会社トミーズ芸能社)

●監督:グ スーヨン ●出演:深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎 ほか ●ユーロスペースほか全
国公開中

祖母の死を機に下関に帰郷した富澤ユリ(深町友里恵)。謎の青年(西尾聖玄)がつきまとい、印象の薄い同級生のお菊(大後寿々花)と再会する。父・昌治(加藤雅也)の営むラジオ局「カモンFM」を手伝うことになるが、スポンサー(山崎静代)から閉鎖を迫られていた。ラジオドラマ「怪談 耳なし芳一」をつくることになるが……。
©株式会社トミーズ芸能社
https://www.yureiwagamama.com/

 

文/浅見祥子 写真/菅原孝司(東京グラフィックデザイナーズ) ヘアメイク/結城春香

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  • 加藤雅也さんが出演する映画『幽霊はわがままな夢を見る』(©株式会社トミーズ芸能社)
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