新潟県・三条市のNPOソーシャルファームさんじょう(地域おこし協力隊)/SANJO BEATERS.EXE(以下、三条ビーターズ)は、2019年から男子、2024年から女子チームが世界初の3人制バスケットボールリーグ「3x3.EXE PREMIER(スリーエックススリー エグゼ プレミア)」に参戦しています。“半農半バスケ”の理念を掲げ活動するチームの想いとは?
ソーシャルファームさんじょうの代表の柴山昌彦氏と、男子、女子チームの今季のキャプテンにお話を伺いました。
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スポーツで地域を活性化できないか? 5年の歳月を経てたどり着いた3人制バスケ
過疎化に悩む三条市
県の中央部に位置し、隣接する燕市とともに金属加工で知られる三条市も過疎化に悩むまちの一つです。
そこでNPOソーシャルファームさんじょう代表の柴山昌彦さんが、田舎の社会的な課題と経済的な価値をどうしたら両立できるかを考えたときに、スポーツで地域を活性化できないかという発想が生まれました。
スポーツによる地域活性化の着想
「最初に計画を立てたのは2014年9月です。東京オリンピックの前だったので、オリンピック種目にあった7人制ラグビーで半分農業、半分ラグビーを想定した女子チームで選手を集めようとしました。各大学まで行って構想を話すと『ラグビーの女子選手の就職先はもう全部決まっていて、地方に行く余裕はない』と言われ、ラグビーは諦めました。代わりに3人制のバスケはチームを募集しているという話があったので対象競技をバスケにしたんです」(柴山さん)
三条ビーターズでは “半農半バスケ”のコンセプトを実現する選手たちを募集するために、地域おこし協力隊という制度を活用しているそうです。三条市に移住し、ここで生活をしながらバスケに取り組みます。バスケが仕事ではなくて、あくまでも農業が主たる仕事で、その空いた時間を競技にあてるのです。男子チームの結成から4年後には女子チームも結成されました。
「もう1回本気でやりたかった。“半農半バスケ”であれば想いが実現できる!」
田舎暮らしとバスケットボール
では、選手はどのような経緯で参加したのでしょう。不安はなかったのか、そして参加して変わったことなどを伺いました。
今季から男子チームのキャプテンに就任した長根泰斗選手は青森県出身。大学進学で千葉県に移住し、昨シーズンは別の仕事をしながら三条ビーターズが首都圏で行う試合にのみ参加する“首都圏メンバー”でしたが、意を決して昨年の夏に三条市に移住しました。
「新潟で選手を集め、活動したいという柴山代表のビジョンと、プレーヤーとしてもう1回本気でやりたいという自分自身の気持ちが“半農半バスケ”構想のもとであれば実現ができそうと合致したので、三条ビーターズに来ました」と長根選手は移住の経緯を語ってくれました。
移住して3カ月程度の長根選手だが、すでに農業の魅力を実感しているそう。
「まだやっていることが限られますが、収穫とかには実際に携わせてもらっています。自分たちで育てた作物を取る、それを食べるというのは、ありがたみをすごく感じます。また、田舎だからこそ自分と向き合える時間があるし、バスケットに打ち込める環境があるので、そこが良かったです」(長根選手)
「新しいことにチャレンジしたい気持ちが大きくて。あまり不安はなかった」
再燃したバスケへの情熱と農業への挑戦
昨シーズンから女子チームのキャプテンを務める竹内あかり選手は広島県出身。福岡での大学時代は5人制バスケに本気で取り組み、卒業後は広島に戻って就職しました。
「一旦バスケから離れて、もういいかとも思ったのですが、やはりもう1回本気で挑戦したいという気持ちが芽生えて・・・。インターネットで三条ビーターズを見つけ、ちょうど女子チームが新設されたこともあり、お試しツアーに行かせてもらいました。どうせやるなら新しいことにチャレンジしたいという想いもあり、ここで頑張ろうとなりました」(竹内選手)
竹内選手も長根選手と同様に、移住や農業に従事することへの不安はなかったそうです。
「体育館がすぐそこにあるので、仕事が終わってすぐに練習できる環境は魅力的に感じました。チームの土台作りから関われることはなかなかない機会なので、そこもすごく魅力的です。新しいことにチャレンジしたい気持ちの方が大きくて、不安はなかった。地元の皆さんも本当にいい人たちばかりなので、環境面で苦労することはありませんでした」(竹内選手)
「現状を変えたい人。現状に満足しない人。夢を追い続けたいと思う人」
三条ビーターズの向かう未来
最後にお三方に、“半農半バスケ”に合っている人、そしてそれぞれの今後のビジョンを伺いました。
代表の柴山さんは、“半農半バスケ”に合っている人について「現状を変えたい人ですね。現状に満足しない人。夢を追い続けたいと思う人」と答えたうえで、こう話します。
「自分さえよければいいのではなくて、地域社会にも貢献したいという思いがあれば、チャレンジできる環境は揃っています。現状に満足しない、自分の夢を追い続けることができる選手であれば、やりがいは出てくると思います」(柴山さん)
また、今後のビジョンでは“3年後に日本一になる”と目標を掲げます。
「どんな形でもいいので、日本一になりたい。日本一になれば存在感が出てくるだろうし、価値も上がります。ここで活動する人たちも増えるでしょう。協力隊の期間は最長3年ですが、もう少しここに住んでみようと思ってくれれば言うことはありません」(柴山さん)
長根選手は、実際に選手選考会の場にも立ち会っていますが、そこで注目しているポイントがあります。
「選考会に集まる選手はどうしてもバスケットだけを考えがち。そうじゃなくて、3年という限られた時間とその後の人生で何を達成していきたいかというビジョンを明確にしてきてもらえればベストですね」。そう語る長根選手は自身の将来のビジョンを明確に持っています。
「3年後ないし2年後には、体育会学生のキャリア支援活動をしたいです。と同時に三条ビーターズの活動にも携わっていきたいと考えています」(長根選手)
竹内選手は3人制と5人制のバスケの違いから、人間性を重視しています。
「人数が少ない分、誰かと接する機会が多いです。仕事も一緒、バスケも一緒という環境は他のチームにはあまりない。一緒にいる時間が長い分、バスケだけを頑張るのでは続かないと思います。地域の皆さんと関わること、農業やその他の協力隊としての仕事も積極的に取り組める人がここの環境で輝けると思います」。竹内選手はビジョンを今はあまり考えていないとしたうえで、こう語ってくれました。
「ここでの活動期間はあと1年ですが、バスケ選手としてはできる限り長く続けていきたい。また、スポーツ栄養士の資格を取得したので、アスリートのために何かできたらな、と考えています」(竹内選手)
「3年後に日本一になるって大見得を切っている」と語っていた柴山代表ですが、2人のキャプテンの熱い気持ちを聞いていると、それも夢ではないと思えてきました。2人のような選手が今後増えてくれば、“半農半バスケ”という特殊な環境だからこそ強まる絆を武器に、バスケ界に波乱を起こす可能性もあります。三条ビーターズの今後から目が離せません。
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