今回、本誌がクローズアップしたのは、山形県遊佐町が行っているユニークなツアー。2024年に始まった遊佐町の「お試し移住体験」のコンセプトは、「大切なことを考える時間」。参加者の関心に応じて内容を柔軟に設計し、無印良品を展開する良品計画がプランニングしたお試し住宅に滞在。さまざまな体験や空き家見学もでき、自分らしい移住の形を考えるきっかけになっているようです。
掲載:2025年6・7月号
CONTENTS
湧水のまちを実感しながら海と山のスポットを網羅!
遊佐で過ごすお試しの1週間で移住後の暮らしを実感!
山形県遊佐町(ゆざまち)
庄内平野の北部に位置する遊佐町。人口約1万2000人。コンパクトな市街地で、海から山へ車で30分ほど。東京から東北自動車道経由で約6時間30分。2026年度には、山形・秋田県境に日本海沿岸東北自動車道が開通する見込み。
おしゃれなリノベ住宅で、自分に合わせた移住体験
「いなか暮らし遊佐応援団」の後藤さんが町内を案内中。滞在中には、住みたいエリアをある程度絞って案内してもらうこともできる。
【移住体験ツアーとは?】
その地域に実際に滞在しながら、住まいや仕事、趣味など、移住後の暮らしを体感できる取り組み。職場の見学や物件の内覧ができることも多く、移住に向けて一歩踏み出すきっかけにもなる。最近は、参加者の関心に合わせて内容を組み立てるオーダーメイド型のプログラムも増えており、移住を具体化する手段として全国の自治体で広がりつつある。交通費・滞在費の補助を設けるなど、参加者の費用負担を軽減した取り組みも増えている。
山形県遊佐町では、2024年にリニューアルした「お試し移住体験」が注目を集めている。
日程を決めたツアーとお試し移住体験の2つに分かれていた事業を見直し、お試し移住体験のみに一本化。参加者の関心や目的に合わせて内容を設計。移住後の生活を具体的にイメージできる仕組みだ。
「一人ひとりに合わせたほうが、よりリアルな体験になると考えました」
そう話すのは、プログラムを運営するNPO法人「いなか暮らし遊佐応援団」の案内人・後藤真樹さん。
申し込みがあると、まずはていねいなヒアリングを実施。地元ならではのアドバイスを交えながら、参加者の希望に合わせて体験内容をカスタマイズする。
宿泊先は、無印良品を展開する良品計画がプランニングしたお試し住宅。もとの家の雰囲気を生かしながら、家具・家電は無印良品で統一されたおしゃれな空間だ。
昨年度は24組51人がこのプログラムを利用した。参加者の年齢層は0歳から70代までと幅広く、単身、夫婦、子育て世帯など、家族構成もさまざまだ。
「ここは山と海の距離がとても近く、1日で両方楽しめるのが魅力。町の案内は、私たちが車で先導しながら、半日かけて山側から海側までを回ります」と、後藤さん。
町内では、鳥海山の伏流水が至るところに湧き出ている。人気の湧水スポットにも立ち寄り、集落ごとの雰囲気や、標高差による気候・積雪量の違いなども紹介。見る角度によって姿を変える鳥海山の風景も、案内があるからこそ気づける魅力だ。
「季節に合わせた体験も好評です。農家レストランで収穫体験をしたり、一緒に草餅をつくったり。お子さん連れの方は、保育園や学校の見学を希望されることも多いですね。子育て施設内でお子さんを遊ばせながら、移住相談をすることもあります」
鳥海山が大きく見える遊佐町総合運動公園「鳥海パノラマパーク」。遊具のほか、フットサルコートなどもある。
先輩移住者のリアルな声も聞くことができる。「学校のこと」や「開業のこと」など、事前のヒアリングで相談を。
ハードルを低くして、まずは町を知ってもらう
町では空き家バンクにも力を入れており、滞在中に物件を見学することもできる。
「地元の不動産屋も紹介しています。冬の暮らし方のコツや、町の気候に合わせた住宅管理方法などもアドバイスしています」(後藤さん)
もちろん、滞在を通じて地域を知り、移住を決意する人もいる。
「移住の決め手として多く挙がったのは、水や食を含めた自然環境のよさでした」
そう話すのは、企画課定住促進係の佐藤結さん。
「空が開け、鳥海山がどっしりと構えていて、その前には田んぼが広がっている。言葉や写真じゃ伝えきれませんが、一度見たら忘れられない風景です。まずはそれを、目で見て感じてもらいたいと思っています」
このプログラムのコンセプトは「大切なことを考える時間」。どこでどう生きたいか。その答えを急がせるのではなく、自分のペースで考える機会を持ってもらいたいという、町の移住政策の軸となる考え方が反映されている。
「移住をなんとなく考えている段階でも大丈夫です。まずは一歩踏み出すきっかけになればと思っています」と、佐藤さん。
参加者からは、「スーパーで気さくに声をかけてもらった」「子どもに優しくしてもらえた」といった反響も多く寄せられているという。
「滞在中はいろんな場所に出かけて、たくさんの人と話してみてください。田舎のよさは、そうやって触れてこそわかるもの。そして移住先に遊佐町を選んでもらえたら、これ以上うれしいことはありません」
直径約20mの、湧水だけで満たされた池「丸池様」。水の色は幻想的なエメラルドグリーンで、光によって色が変わるという。
町内のいたるところで湧水を汲むことができる。湧水で遊佐産のお米を炊くと、おいしさに感動する人が続出だとか。
ぜひ体験してもらいたい、農家レストランでの野菜の収穫体験や料理体験。もちろん、子どもと一緒に楽しめる。
お試し住宅「駅前の家」ってこんなところ!
羽越本線遊佐駅から徒歩2分の空き家を活用した「お試し住宅」。無印良品を展開する(株)良品計画の空間設計部がコーディネートし、地元業者の施工に加え、町民参加型DIY講座を行い整備した。家具、家電、食器などはすべて無印良品で統一。徒歩圏内にスーパーや商店があり、町の雰囲気を味わいながら滞在できる。施設利用料は無料。
無印良品が手がけた快適な空間に滞在。遊佐町産のお米1kgプレゼントや交通費補助制度(1人当たり3万円)もある。
物件改修は地元業者が行い、最後の仕上げは地域住民のDIY講座という形で、壁の塗装と断熱のDIYを実施した。
もともとはクリーニング店兼自宅だった。徒歩圏内には飲食店やスーパーなどの小売業、町役場、図書館もある。
遊佐町のイチオシ!
「釡磯海水浴場」は、砂浜から淡水が湧く珍しい浜辺。水が湧くのを間近で観察できる興味深いスポット。
移住体験プログラム参加者にプレゼントされる遊佐町産のお米。町内の湧水で炊いていただくのがオススメ。
ミネラルをたっぷり含んだ鳥海山からの伏流水で育った、濃厚な味わいの岩ガキが名物。ぜひ現地で味わって。
小さなローカルスーパーの名物「フルーツサンド」。常時20種類ほどあり、他県から買いに来る人も多い。
町を深く知る!「遊佐町お試し移住体験」オススメプラン
湧水のまちを実感しながら海と山のスポットを網羅!
遊佐は水が豊富なので、湧水の滝「胴腹滝(どうはらたき)」や湧水だけで満たされた「丸池様」など、水に関するスポットが人気です。学校や空き家、先輩移住者との交流など、興味に合わせて日程を組むのでご相談ください。滞在中は、地元のスーパーの品揃えもぜひチェックを。大豆製品が多かったり、豚肉の種類が豊富だったりと、面白い特徴に気づけるかも。また、個人商店で買い物をしながらお店の人と話すのも楽しいです。ぜひ、ディープなローカル体験を楽しんでください!
【申し込み方法】
町の移住ホームページ(https://www.yuza-iju.com/otameshi-iju-taiken/)のフォームより申し込む。申し込み後、担当者が事前のヒアリングを行い、ツアーの内容や日程などを決めていく。空き家の見学を行う場合は、事前の登録が必要になるので、ヒアリング時に相談をしよう。1人当たり3万円の交通費補助を利用する場合も書類の提出が必要なので、こちらも事前に相談を。
問い合わせ先/遊佐町企画課定住促進係 ☎️0234-28-8257
写真右から、定住促進係の佐藤結さん、NPO法人いなか暮らし遊佐応援団の齋藤美波さんと後藤真樹さん、定住促進係の石垣学さん。
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