都市部から過疎化の進む地方へ移り住み、活動をする「地域おこし協力隊」。2024年度の隊員数は全国で約7900名です。その活動内容は多岐にわたり、活動している隊員の年代も幅広くなっています。ここでは、いくつかの活動の様子と隊員からのメッセージを紹介します。
掲載:2025年9月号
※文中では地域おこし協力隊を協力隊としている箇所があります。
※記事の内容は取材時のものです。
CONTENTS
兵庫県豊岡市(とよおかし)
任期満了後、約77%が市内に定住! 「幸せな採用10の心得」でミスマッチを防ぐ
国指定の特別天然記念物コウノトリのまちとして、また日本一の鞄の産地として知られる豊岡市。2014年から地域おこし協力隊制度を導入し、これまで111人(2025年7月現在)を受け入れ。直近5年間に任期満了した隊員の約77%が市内に定住している。委託型を採用し、受け入れ団体と行政、協力隊OB・OGが活動や暮らしをサポートしている。2024年度には「地域おこし協力隊の幸せな採用10の心得“幸の採(こうのとり)”」を発表。よりよい環境で迎え入れ、隊員・地域・自治体によって「三方よし」の推進を図っている。現在は26人が、アートや演劇、伝統技術継承、観光、地域づくり、農業、起業など、さまざまな分野で活動中だ。
「隊員がのびのびと活動できる環境を整えています!」(豊岡市地域づくり課の愛原拓郎さん)
「柳行李」の技術を継承していきたい
田中皓之(たなかひろゆき)さん●28歳
大阪府枚方市出身/2023年4月着任
病気をしたことで前職を辞め、家具製作の学校に通っていたところ、和歌山県で漆をテーマに地域おこし協力隊として活動している人に出会う。豊岡市が「豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)」という伝統工芸の協力隊を募集していたことから応募。
【活動内容】 伝統工芸「豊岡杞柳細工」の継承を目標に活動しています。豊岡杞柳細工のなかでも、つくり手が1人しかいない「柳行李」に力を入れています。「柳行李」は、「鞄のまち」豊岡の原点ともいえる柳で編んだ箱で、コリヤナギの栽培から柳を編み、布や革の縫製まですべての工程を自ら手がけています。活動や暮らしを通し、地域の人の温かさにふれ、豊岡市の魅力を知ることができました。
【メッセージ】 職人の修業は金銭的な負担が大きいですが、協力隊という制度を活用すればそのハードルが下がります。自分が本当にやりたいことを見つけたい人、地域に根差して活動したい人にとって協力隊は大きな一歩。勇気を出して飛び込んでみてください。
新たな出会いによって視野が広がりました
佐藤令奈(さとうれいな)さん●28歳
広島県福山市出身/2023年6月着任
大学時代から学校内外の教育現場にかかわるなかで、演劇教育をはじめとした豊岡市の「深さをもった演劇のまちづくり」に興味を持ち、協力隊に応募。
【活動内容】 豊岡演劇祭のコーディネートのほか、地域と連動した舞台芸術のプロジェクトの企画・マネジメントなどを行っています。多世代・他ジャンルの方たちと出会い、協働できたことが私にとって得難い経験になりました。卒業後も、舞台芸術と地域をつなぐことにかかわっていきたいです。
【メッセージ】 地域の魅力を分野ならではの視点で見つけたり、地域の方々と共有する方法を模索したりして、さまざまな人との出会いを楽しんでください!
お問い合わせ:豊岡市地域づくり課 ☎0796-21-9096
兵庫県豊岡市「地域おこし協力隊」
新潟県三条市(さんじょうし)
市と支援機関が協働で取り組み、多岐にわたる内容で多くの隊員が活動中!
金属加工などが盛んな“ものづくりのまち” 三条市。市街地には大型スーパーや商業施設が揃い、中山間地域には豊かな自然が広がっている。市で受け入れた協力隊は延べ160人(2025年7月現在)。現在、39人が活動中だ。市と支援機関(企業やNPOなど)が協働で取り組み、協力隊は支援機関の職員などとして働く。活動内容は、中山間地域の活性化、まちなかの活性化、空き家の利活用、公共交通の利用促進、農業や伝統技術の継承など多岐にわたる。随時、隊員を募集中。
募集サイトはこちら⇒https://sanjo-city.note.jp/p/chiikiokoshi_sanjo
「スキルや経験を活かし、情熱を持って活動してくださる方を随時、募集中です!」(三条市地域経営課の三方順子さん)
現地での活動はなによりの学びです
平野彩音(ひらのあやね)さん●23歳
三重県出身/2023年4月着任
大学時代から地域創生や空き家問題に興味があり、大学の地域実習プログラムで「燕三条空き家活用プロジェクト」を知る。東京の大学を一年間休学し、三条市の地域おこし協力隊として着任。
【活動内容】 三条市空き家バンク業務や空活燕三条が活用した物件の運営、空き家イベントの企画・運営、地域と学生の交流拠点「ろくのわ」の運営などを行っています。協力隊だからこそできる「地域とのかかわり方」を日々実感し、充実しています。
【メッセージ】「 地域のためになにかしたい」という気持ちも大切ですが、せっかくなので「自分がこの地域でどんな暮らしをしたいか」という視点も持ってほしいです。
協力隊で自分の可能性を試してみましょう
澤田すみれ(さわだすみれ)さん●36歳
新潟県新潟市出身/2024年4月着任
新潟市で生まれ育ち、大手企業でマーケティング営業職として働く。転勤で長野県松本市に移り住み、まちづくりに興味を持つ。「三条市なら、地域に深くかかわる挑戦ができそう」と感じて応募。
【活動内容】 地域の学生と市民の交流促進(三条市立大学と地域の店舗をつなぐ「学割協賛制度」の周知、学生と市民の交流促進のためのイベント)を主に行っています。また自治会との協働で、今年は夏祭りの復活に向けて活動中です。
【メッセージ】 最初から明確な目標がなくても、地域の人とかかわるなかで、やりたいことが見えてきます。“暮らす”ことを楽しむ気持ちと、人との出会いが財産になります。
地方で活躍できるチャンスです
山口博久(やまぐちひろひさ)さん●47歳
埼玉県出身/2024年10月着任
東京での仕事や暮らしに充足感が得られなくなり、移住を検討。飲食店の創業も考えていたので、三条市の起業型協力隊プログラムに応募。家族とともに移住。
【活動内容】 Plant base(植物由来の食事)事業を通して三条の豊かな自然や食材を再認識してもらうこと。公共施設内の食堂で間借り営業しながら、100% Plant based ヌードルショップ「Biang Biang Calling」の立ち上げを目指しています。
【メッセージ】 協力隊は、創業までの時間的な猶予や人の紹介、事業のサポートをしてもらえるので、移住創業のハードルが下がります。地方でチャレンジするなら、協力隊はいい選択肢だと思います。
お問い合わせ:三条市地域経営課 ☎0256-34-5646
三条市地域おこし協力隊
岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)
多様な事業を展開する村の次のステップは、事業を担う企業研修型の協力隊の受け入れ
西粟倉村では、地域おこし協力隊の制度を活用し、多くのローカルベンチャーや新規事業への取り組みが行われてきている。それらの事業の継続を見据え、村内事業者の研修を受けつつ二次創業や事業拡大および事業継承のための後継者育成に取り組む「企業研修型地域おこし協力隊」が増えている。任期終了後は受け入れ事業者での継続した雇用を予定している。
鶏との出合いが人生の転機となりました
山口 萌(やまぐちもえ)さん●36歳
東京都日野市出身/2024年7月着任
西粟倉村の事業者の情報を目にしたことと、移住者が多く、地域活性化に積極的な村であることから、西粟倉村に興味を持った。なかでも、合同会社セリフが行っている養鶏や畑の運営事業にひかれ、自分の興味や価値観に合致していると感じ、協力隊に応募。
【活動内容】 企業研修型地域おこし協力隊として、合同会社セリフにて平飼いの養鶏場の鶏のお世話や、鶏卵の洗浄、選別、箱詰めなどを行っています。鶏とかかわれたこと、素敵な人たちに出会えたことは大きな喜びです。この村は、協力隊のサポート体制が非常に充実していて、動きが早いのがとてもありがたいです。
【メッセージ】 選ぶ際は、現地に足を運び、暮らしている人びとと出会い、雰囲気や様子を実際に感じたうえで、検討するのがオススメです。焦らず、納得できる選択をしてください。
お問い合わせ:西粟倉村総務企画課 ☎0868-79-2111
西粟倉村役場 – 西粟倉村:百年の森林に囲まれた 快適で人が輝く自然と交流のむら
山形県朝日町(あさひまち)
特技を活かしたにぎわいづくりに尽力! さまざまな分野に12名の協力隊が活躍中
特技の木工をにぎわいづくりに活かしたい
今野 颯(こんのそう)さん●25歳
秋田県にかほ市出身/2023年4月着任
大学在学中から「コミュニティデザイン×ものづくり×木育」をテーマに、子どもたちに木工体験のワークショップに取り組んできた今野さん。「自分の特技である木工をにぎわいづくりというミッションに活かしたい」と感じ、朝日町の協力隊に応募。副業で木工作品のマルシェ出店にも挑戦中。
【活動内容】 移住体験施設であるゲストハウス松本亭を活用したにぎわいづくりで、来訪者との交流や情報発信、イベントの企画運営に取り組んでいます。朝日町はりんごの剪定枝や西山杉といった資源が豊富で、学校の授業や文化教室などで特技の木工を活かしたワークショップも開催しています。
【メッセージ】 任期が3年しかないため、チャレンジしたいことが明確にある人におすすめです。チャレンジしやすい雰囲気なのか、親身になって相談に乗ってくれる方がいるのかが選ぶポイントだと思います。「自分のやりたいこと×地域のためになること」が実現できる、やりがいのある仕事です。
お問い合わせ:朝日町政策推進課 ☎0237-67-2112
朝日町地域おこし協力隊/朝日町ホームページ トップページ
千葉県多古町(たこまち)
交通環境がよくなり、地方へも移動しやすい! 成田空港の隣のまちで活動
噺家をしつつ、郷里のお手伝いができれば
梅田(うめだ)うめすけさん●63歳
千葉県多古町出身/2025年4月着任
偶然、生まれ育った多古町で協力隊の募集をしていることを知り、改めて故郷と向き合ってみようと思い応募。隣町に成田空港があり、空港とまちとのシャトルバスが運行しているほか、東京駅への直通高速バスがある多古町は、講演で都内や全国各地へ行く梅田さんに適している。
【活動内容】 移住促進のための近隣市町も含めた観光プランの作成や、モニターツアーの企画・実施。これらのPR動画も作成して公開しています。まちの広報誌でのコラム連載のほか、多古町の歴史やまちおこしを盛り込んだ小説の執筆も考えています。
【メッセージ】 63歳で飛び込んだ協力隊ですが、いろいろと相談できる年下の友人ができたことがうれしいです。また、活動にあたっては、先入観なく地域や人と接するのがいいように思います。
お問い合わせ:多古町企画政策課 ☎0479-76-5417
多古町地域おこし協力隊 | 多古町ウェブサイト
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